仲間に裏切られ、魔法帝から最弱職の農民にジョブチェンジさせられたけど人類最高の魔力はそのままなので気楽に復讐しようと思う。

佐原さばく

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第10話 刹那の刃

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   ダリはこの国の現状について調べようと考えギルドへと向かう。馬車の外では時折物音が聞こえてくるがそれは痩せ細った犬の鳴き声やカラスの羽の擦れる音である。辺りの木造建築は穴が空いていたり、崩れかけていたりと人が住んでいる様子はなかった。

「マリー、何かおかしくないか?」

   ダリ達のいる辺りでは人の姿はなく、人の住んでいる形跡もなかった。首都と言うにはあまりにも見てくれの悪い様子だった。そんな様子を見ていたダリはマリアに尋ねたのだった。

「知りません!私は早く帰りたいんです!」

   マリアは時々聞こえる雷の音に体を震わせながら縮こまっていた。十五分程経過し、彼等の正面に薄らと大きな陰が浮かび上がる。やがて、それは二階建ての巨大な建造物と分かる。中からはぼんやりと光が漏れている。

「マリー、ギルドに着いたよ。僕は情報を集めに入ってくるから。」

   そう言って彼は、スタスタと中へと入っていく。マリアは急いで彼の後を追う。

「置いて行かないで下さいよ!」

   ギルドの中は口の辺りまで黒い布を巻いた冒険者が何人かポツリと座っていた。壁には蝋燭が点っていて、室内は少し暖かい。床が軋む度マリアは怯えて、ダリに抱きついている。カビの生えた受付所には人が見られない。

「あのー、すみません。どなたか受付の方は居られませんか?」

   ギルドには嫌な空気が流れている。埃っぽい臭いが鼻に通る。

(何か嫌な予感がする。)

「わああぁぁ!!!」

   マリアはギュッと瞑っていた目を見開きそとを指差す。ギルド内も少し揺れる。外壁に何かがぶつかったようだ。外に視線を向ける。そこには、灰色の毛並みの三匹のウルフが立っていた。大きな口からは唾液が垂れている。ダリは外へと足を運ぶ。マリアは腰が抜けている。彼は全長二メートル程の魔獣目掛け右手を向け、仕留めようとする。
   その時、ダリの左側の瓦礫から音が聞こえてくる。そして、瓦礫を飛び散らし中から少女が現れた。

「ぷはー、君達も強いね。流石にハンデありじゃあキツイかな。ボクも負けられないから本気で行くけどね。」

   彼女は左手に握られた短刀を巧みに使い猛獣目掛けて走り出す。

(消えた?!)

   その素早さはダリの目に止まらない。折り返す時の一瞬、彼女の姿は確認できる。しかし、実体としてはそこに確かに存在する。三匹のウルフには浅い傷が入っていく。その素早さは反撃を許さない。その三匹は為す術なく灰となってしまった。ダリはその刹那に圧倒された。

「君、大丈夫?」

   彼女はダリの目の前にパッと現れ、快活な声を響かせる。彼女の清麗な青い瞳は真っ直ぐにダリの目を射抜いていた。紫がかった黒の髪は後ろで括られ、夜に溶け込んでいる。

「え?!はやっ!さっきの魔獣は君がやったの?」

「そうだよ。ってか、君珍しい格好をしてるね。ちょっと聞きたい事があるんだ。ボクと話さないかい?」

   彼女は黒のヒールをコツコツと鳴らし中へと入っていく。ギルドに戻り、壊れかけた椅子に腰をかける。マリアはダリの隣にくっついている。青い瞳の彼女はダリ達の服装に関心を寄せた。ダリ達は一般的な冒険者といった風貌をしていたが、彼女の着ているものは一枚の布が繋がったものを腰で帯を巻き付け着たものだった。

「君達の着ているものは、この国のものでは無いよね。」

「僕らからしたら君の方が不思議だよ。」

   彼女は二の腕にかかった黒い布を軽く持ち上げダリに見せる。顕《あらわ》になっていた胸がさらに強調される。

「ボクのかい?これはキモノって言うんだ。ボクの国ではこっちを着ている人しか居ないんだ。」

   彼女は黒い手袋を付けた手を机の上に置く。

「だからさ、君達って外から来たんだよね?どうやって入ってきたの?外でボクと同じ髪の色の女の人は見なかった?」

   ダリは乗り出してくる彼女を手で制しながらマリアをきちんと座らせて答える。

「ま、まぁ、待ってくれ。僕ら名前も知らないだろ。まずはそこからじゃないか?僕はシャルル=ダリ、ダリでいい。こっちの銀髪の方はマリアだ。」

「あ、ああ。ごめん。ボクはディアンジェロ=ミシア。ミーシャでいいよ。君達はどこから来たの?」

「僕達はソシアという国のベルンホルンっていう都市から来たんだ。入ってくる時は門番が居なかったから馬車ごと入って来たんだ。」

「やっぱりか。驚かせるかもしれないけど魔人のせいでこの国は来る人間は拒まないが出る事は出来ないんだ。だから、外と連絡が取れても物資を届けに来てくれる様な人が来ないんだ。」

   マリアの顔はますます青白くなっていく。

「だから、来たくなかったんですよ!!」

   この国フィンツは魔人の能力により人間の出入国に制限がかけられている。それにフィンツの低人気も相まって救援を送る国はなかった。ダリにマリアは落ち着かさせられる。深呼吸をすると彼女に一つ疑問が思い浮かんだ。

「だとしても、人が少な過ぎませんか?ここに来るまでに全然人を見てません。それに、居ても皆さん痩せ細ってらっしゃる。それはどうして・・・」

   恐怖の収まったマリアは話に参加する。そして、質問をする最中の事だった。ミシアの腰に掲げられた二本の短刀が振動で揺れる。ダリ達は外にウルフを想像するが、ミシアの行動でそれは違うと分かる。人差し指を自らの唇の前で立て、そして二人をギルドの受付の裏へと連れて行く。何事かとダリは覗こうとするがそれはミシアの手で制される。
   外では荒廃した土地を蹂躙する集団がギルドへと向かっていた。五人程の塊の中央に身長二メートルはありそうなよく肥えた大男が立っていた。周りにはダリ達がここに来るまでに出会った人々とは違い、ふくよかな体型をした者達がニヤニヤと笑っている。
   彼らの手には麻布で作られた袋が握られている。

「お頭、今日もたっぷり稼いじゃいましたね。グヘヘヘ」

「そうね。お頭、アイツらにはこの位のしつけが必要だわ。」

   皆、お頭と呼ばれる大男に擦り寄っている。大男はガラガラとした声で注意する。

「おいおい、人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ。俺達はアイツらに食料をわざわざ恵んで上げてるんだからよ。」

「すまねぇ。それもそうだ!俺達は善人、善人。」

「「「ハハハハハハ!!」」」

   彼らの笑い声をミシアはじっと目を瞑り聞いていた。マリアは男達の方をチラリと盗み見て、詳細をミシアに促す。花の柄の入ったキモノの袖を濡らしたミシアは忍び音に喋った。

「彼はボクらの国のギルドの長をやっている人で、カポネ=カストラ=サンズと言うんだ。」

   サンズとはギルド長として働きながら、様々な外交をこなす別の顔を持った人物だった。彼は国の発展の為、尽力している人物として有名である。しかし、その本性とは金に目の無い守銭奴であった。
   ダリは過去の旅でその事を耳にしていた為、説明は不要で、マリアにも伝えていた。

「あの人が・・・」

「なんだ、知っているのか。なら、話は短く済みそうだ。」

   ミシアは話を続けた。
   サンズという男は、フィンツの国のギルド長である為、会員の全権を担っている。この国では現在魔人が支配し、食料を荒らされている。それを利用し、彼は食料をギルド無関係の人々へ高値で売っていた。
   マリアはそれには驚き、質問をする。

「やはり、魔人が影響しているんですね。だとしても、あの人がそんな酷い事をするのに誰も反対しないんですか?」

   彼の行動に異議を唱える者も少なくない。しかし、彼はそのような事をした人物に対し、他の会員に攻撃をさせ、無力化してきた。

「本当に酷い。魔人が居るというなら、協力して戦えば良いのに。でも、安心して下さい。私達なら倒せますよ。しかも、一撃で!」

「マリー静かにしろ!しかし、それは無理なんだ。」

「え?どうして・・・」

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