旧支配者のカプリチオ ~日本×1000年後×異世界化×TS×クトゥルフ神話~

ナイカナ・S・ガシャンナ

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第一部第三章 討伐イベント

セッション22 陽動

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 森の中を風の様に駆け抜ける。
 秩父山地の村と村との間には砂利と雑草だらけの山道があるが、今はそれを使っていない。何故なら僕達は今、隠密行動の真っ最中だからだ。見通しの良い山道を行く訳にはいかない。

「見付けた! ゴブリンだ!」

 走った先、森を抜けた向こう。そこに村があるであろう開けた場所があった。村にはゴブリンの一団がいるのが見えた。数は十体程度か。

「先生、お願いします!」
「うむ。飛びっきりを喰らわせてやる」

 三護が右腕を掲げ、詠唱を始める。

「生ける炎。漆黒の炎。其は天道に坐するもの。其は炎天を墜とすもの。燃やし、焦がし、焼き、熱す。我が怒りは乾きすら許さず。一切の有象無象を灰燼と化す――『上級火炎魔術プロミネンス』!」

 天空より巨大な火玉が落ちてくる。火玉はゴブリンの群れに突っ込み、爆発を起こした。紅蓮の炎は直撃を受けたゴブリン共を一瞬で灰にし、直撃を免れたゴブリン共も燃え広がる炎から逃れようとパニックを起こしている。

「よし、次に行くぞ!」

 僕と理伏が腕を組み、その上に三護が座る。そして、一目散にダッシュした。炎に気を取られているゴブリン共は追うどころか僕達が去った事にすら気付けない。

「男が女の子二人に運ばれているってどうなんだよ、先生」
「何を言う。我は高齢者じゃぞ。敬老の精神で運ぶが良い」
「肉体は若いだろ、あんた!」

 腕組みの上で悠然とうそぶく三護に若干の殺意を覚える。
 まあ僕の中身は男だけどな。正確には女の子二人ではないのだが。筋力は女の子だからやっぱり不満だけどな!
 だが、仕方ない。魔法使いである三護に走って貰うより、こうして僕達二人が運んだ方が速いのだ。盗賊と忍者、俊足は折り紙付きである。





 イタチが立てた作戦はこうだ。

『まずは陽動を行う。俺様とステファ、三護と藍兎と理伏の二手に分かれ、周辺の村を巡る。俺様達が時計回り、三護達が反時計回りだ。ゴブリン共を見付けたら一撃か二撃、遠距離攻撃を喰らわせ、即離脱する』

 イタチと三護は遠距離攻撃を所有し、僕とステファは治癒性術を習得している。それ故のこの分担だ。理伏はイタチに比べて身体能力が低い三護の補佐だ。

『離脱で良いのですか? 倒さなくても?』
『ああ。むしろ逃げ切れなければならん。ゴブリン共に警戒させて、その場に釘付けにする事が目的だからな』
『釘付け。じゃあ、見付かっちまったら駄目なんだな』
『そうだ。徹底的に隠れ、不意討ち、逃げろ』

 一万体ものゴブリンを相手になど出来ない。だからこその陽動だ。敵の目を可能な限り分散させ、本陣が手薄になった所を襲撃する。

『俺様達と三護達が合流したら、そのまま敵の本陣――山頂へ向かう。そして、ゴブリンのリーダーを一気呵成に討ち倒す。他のゴブリン共が戻って来る前にな』

 これなら多勢に無勢を避けられる。リーダーを倒せばゴブリン軍の動きも止まる、あるいは鈍らせる事もあるだろう。

『だが、これは「知らない女」の戦闘力を考慮していない戦い方だ。もし苦戦し、時間が長引けば、その内に一万のゴブリン共が戻って来るかもしれない。それに、リーダーを倒せばゴブリン共の動きが止まるというのも希望的観測だ。ゴブリン共はリーダーがいなくなっても気にせず攻勢を続けるかもしれん』

 そもそも、陽動の時点でうまく行かない危険性だってある。ゴブリン共に追い付かれた場合、時間のロスは不可避だ。まごついている間に増援が来たら、もう手が付けられない。

『……それでも、乗るか?』

 イタチの誘いに理伏は頷いた。





 かくして、陽動は始まった。
 現段階では順調。というか、ほとんど三護の一発でゴブリンの一団は壊滅状態に陥っていた。陽動というより各個撃破の有様だ。一体一体はあくまで雑魚だからな、こいつらは。お陰で問題なく終わりそうだ。

「しかし、三護先生もよくこの作戦に付き合ったよな」

 道中、ふと思い付いた疑問をそのまま口にする。
 この人の性格上、一人で帰ってもおかしくなかったが。僕やステファは情から、イタチは利から理伏を見捨てられなかったが、三護の行動原理は魔術の探求だ。今回の件に探求要素はなかったと思うが。

「んむ? ああ、まあ確かに帰ろうかと思ったがの。しかし、気になる事があってな」
「気になる事?」

 それは、

「談雨村に伝わる逸話よ。この山で儀式を行うのなら、その逸話に関わる事かもしれんと思ってな。それを確認したいのじゃ」
「談雨の逸話……?」

 談雨村の住人りふくに顔を向ける。が、彼女は首を横に振った。

「拙者にはとんと思い当たるものはありませぬが」
「風魔は新参じゃからのぅ。逸話は何世代も前のものじゃ。知らんのも無理はない」

 ふむ。何だろう。一〇〇〇年前、談雨市に何かあるなんて話は聞いた事なかったが。古参の僕でも知らない話か……まあ、僕は別に物知り博士とかじゃないしな。どんな逸話があってもおかしくはないか。


 ヴー……ヴー……。


 その時、僕の『冒険者教典カルト・オブ・プレイヤー』が低音を出して震えた。
 教典の便利機能の一つ、通信機能だ。登録した相手をこうやって呼び出し、通話する事が出来る。互いの声はページに描かれた魔法陣を経由して届けられる。これは「音楽」の概念魔術トルネンブラを応用しているのだとか。

「藍兎殿、マナーモードで御座りまするか」
「ああ」

 昔からケータイとかスマホとか、マナーモードじゃねーと落ち着かねーんだよな、僕。

『藍兎か?』

 教典を開き、通話状態にする。

「ああ。どうした?」
『状況を聞きたくてな。そっちは幾つ潰した?』
「ゴブリンのグループをか? 十二くらいだな」
『勝ったな。俺様は十五だ』
「さよか」

 ちょっと悔しい。だが、本気で悔しい訳ではない。
 そういう競争心は年齢と共に枯れてしまったのだ。

『まあ、ここまで潰せば充分だろう。魔力の無駄遣いをする訳にもいかんしな。そろそろ山頂に行くぞ』
「合流だな。了解」

 通話を切り、教典を閉じる。

「合流して山頂に向かえってよ」
「御意。折角陽動したゴブリン共が戻って来ても困りますしね」

 陽動が完了しても油断はせず。僕達は山道ではなく木々の間を登って行った。





 山頂には明らかに様子が違うゴブリンが七体いた。
 まず、髪の毛がある。今までのゴブリン共は全員禿頭だったが、このゴブリン達は荒れていながらも黒々とした髪が生えている。お陰でドーム状の頭蓋骨がおかっぱ頭で誤魔化されて、少しは人間寄りに見える。
 目も違う。ゴブリン共の目はケダモノのそれだったが、あのゴブリン共の目は知性を宿していた。知性を宿しているという事は戦術・戦略を用いてくる可能性があるという事で、倒すのは厄介そうだ。

「あれが長か? 七体もいるとは思わなかったが……」
「人間の様にゴブリンも話し合いをするのでしょうか?」
「普通のゴブリンは……三〇〇体程度か? まあ、四桁も入れる程広い山頂じゃないからな……」
「村人達は数十人程かのぅ……さて」

 合流した僕達は茂みに身を隠しながら話し合う。
 視界に映る範囲にいるのはゴブリン共と村人達の二種類だけだ。捕らわれた村人達をゴブリン共が囲っている。尋問したゴブリンが言っていた『知らない女』の姿はなかった。隠れているのか、それともたまたま席を外しているのか。去った後なら都合が良いのだが。

「しかし、ここには祭壇があると聞いていたが……あれがそうか?」

 イタチが顎で示した先には、環状列石があった。長と思わしきゴブリン七体はその環状列石の内側にいた。

「何の神への祭壇なんでしょうね?」
「さあな。気にはなるが、それを調べるのはクエストを達成してからだ」

 イタチが敵陣を見据えたまま僕達に指示を下す。

「理伏、三護、お前は村人達に迂回して近付き、奴らを解放しろ。そして、散り散りになって逃げるのだ。そうすればゴブリン共も追わざるを得なくなり、一層手数が減る。もし追わなかったら引き返し、ゴブリン共を挟撃しろ」
「承知」
「承った」
「藍兎とステファは俺様が矢を放ったら突貫。一直線に長まで蹴散らせ。例の女が潜んでいるかもしれないから背後には気を付けろ」
「あいよ」
「はい」

 五人顔を合わせて頷く。そして、イタチが弓矢を構えた。

「『天龍一矢テンリュウイチヤ』――!」

 イタチが放った矢はゴブリン共ではなく、天空へと吸い込まれていった。直後、矢に込められた魔力が破裂し、そこから十数本の魔力の矢が降り注いだ。矢の雨を浴びたゴブリン共が悲鳴を上げ、パニックに陥る。

「よし、行くぞ!」
「応!」

 イタチの号令に従い、ゴブリン共への突撃を敢行した。
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