旧支配者のカプリチオ ~日本×1000年後×異世界化×TS×クトゥルフ神話~

ナイカナ・S・ガシャンナ

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第二部第四章 クーデターイベント(当日)

幕間4 イタチvs.理伏3

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 深く息を吸う。深く息を吐く。
 体内の酸素を更新して、イタチは改めて理伏を見る。彼女はイタチを油断なく見据えていた。仕留め損なった敵を今度こそ確実に殺す為に視界に捉えていた。
 理伏の殺意を浴びながらイタチが状況を把握する。

 手元にカットラスはない。つい先程、理伏に弾かれて落とした。弓矢は背にあるから、これで攻撃は出来るが、防御が出来ない。弓も矢も盾代わりとするにはあまりに脆い。つまり、理伏に斬られるよりも先に、かつ一撃で理伏を仕留めなくてはならない。
 狙うタイミングは理伏が駆け出す寸前だ。駆け出しが決まり、直進のみとなって回避能力を失った理伏を撃ち落とす。

 遅く射っては駄目だ。矢を射るより先に理伏に斬られてしまう。先の一閃は逃げたから一命を取り留めたが、今度は逃げずに立ち向かうのだ。斬られれば今度こそ死ぬだろう。
 早く射っても駄目だ。理伏には矢を躱す敏捷性がある。現に先程も躱された。早く射って感付かれれば、再び回避されて終いだ。
 刹那の見切り。弓術でありながら、さながら居合い抜きだ。抜刀の如きの瞬発力と精密性が求められる。

「…………」

 イタチのこめかみを汗が一筋流れる。当然だ。勝算などないのだから。一か八かの勝負だ。それでも、これしか勝つ術を思い付かないのだ。
 などと弱気になっている自分に気付き、イタチは自嘲した。――否、盛大に嗤った。こんな所で怖気付いていて何が覇王かと。覇道とはもっと堂々と征くものだろうと。

「世界に問う! 『覇王とは何ぞや?』」

 そして、自分を鼓舞する為に大声を出した。理伏が冷めた目で見てくるが、気にしない。己の為に己の声を張り上げる。

「君臨者か? それは正しい! 指導者か? それも正しい!」

 だが、足りない。それだけでは覇王足り得ない。
 では、何か。君臨者でもあり指導者でもある覇王とは何者か。

「即ち覇王とは、世界を思うがままに動かす者である!」

 イタチは断言する。己の覇王像を明確に口にする。

「勝ちたい時に勝ち、救いたい者を救えぬ有様では覇王など到底名乗れない! それは俺様の歩みたい王道ではない!」

 イタチが矢を弓に番えて弦を引く。鏃が堂々と理伏を狙う。

「理伏! 貴様を生かしたまま貴様に勝利してみせよう!」

 そう言って不敵に笑うイタチ。弱気になっていた彼はもう消えていた。
 そんな彼を理伏は無感動の目で見据える。イタチの言葉を聞いて何も感じなかったのか、所詮は機械的に倒すだけの相手だと思っているのかと思いきや、

「――『二本脚』」

 ぼそりとそう呟いた。
 両足を軽く前後に広げ、忍者刀を水平に構える。すれ違い様に斬る姿勢、駆け抜ける事のみを目的とした態勢だ。
 無表情さ故に、理伏がイタチの言葉に何を感じたのかは分からない。だが、一つだけはっきりしている。彼女は全力でイタチを殺すと決めたのだ。今まで構えらしい構えをしなかった彼女が初めて構えたのがその証拠だ。

「『四本脚』――『六本脚』――」
「……くく」

 段階的に魔力のボルテージを上げていく理伏にイタチが含み笑いを漏らす。
 矢に魔力を込める必要ない。高速で動く物体は速い程にリスクが大きくなる。交通事故と同じだ。速度が遅いまま車が壁にぶつかっても大事故とはならないが、スピードを出したまま壁にぶつかると車は容易くひしゃげて跳ね上がる。

 理伏が速ければ速い程、何かにぶつかった時の衝撃は強くなる。現に、大気という普段意識しない物にぶつかった程度で理伏の全身には打撲傷が出来ていた。矢は普通に射れば、それだけで理伏には大ダメージになる。
 当てさえすれば良いのだ。故に瞬発力と精密性が要だ。それだけが――それこそが勝負の分かれ目になる。

「『八本脚』――――『天駆ける王の嘶きスレイプニル』!」

 かくして、再び理伏が音を置き去りにした。
 激突の火花が散る。衝撃波ソニックブームが大気をズタズタに引き裂く。狂ったかの如き暴風が石畳とその下の土塊を巻き上げ、土煙が中庭を覆う。
 風が過ぎ去り、土煙が静まる。二人の姿が露わになる。立っていたのは、

「……おい。生きているか、貴様?」

 立っていたのはイタチだった。
 イタチの矢は理伏に当たっていた。理伏の刃はイタチには届かず、矢を受けた理伏は錐揉みして地面に墜落していた。矢が命中したのは理伏の右肩だ。恐らく骨が砕けているだろうが、呼吸はしていた。

「競り勝ったのは俺様の実力だが……理伏が辛うじて生き残れたのは俺様と理伏の運だろうな。くっくっく、天運を味方に付けるとは、さすが覇王たる俺様よな」

 とはいえ、と言いながらイタチが尻を地面に下ろす。左胸の十字傷からは今も鮮血がどくどくと溢れ出ていた。

「俺様も理伏も手当てをせねば動けんか。このまま他所の連中の所に行っても足手まといになるだけだからな。……ったく、覇道も……なかなか、スマートには、歩けんもの……だ…………」

 そう言ってイタチは深々と溜息を吐き、仰向けに横たわった。
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