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第三部第二章 国奪りイベント(祭り本番)
幕間8 犬猿と人と鬼の仲
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宵闇の時刻。市国貴族から依頼を受けた者達――『カプリチオ・ハウス』討伐連合の面々は秩父山地の麓にいた。
「やっと着きましたわね……すっかり暗くなってしまいましたわ」
馬車から降りた有紗が山を見上げる。既に太陽は沈み、世界は夜の支配下に落ちている。草木が生い茂る山地は月の光でも碌に照らせず、真っ黒で巨大な影となっていた。
「おい、なんで有紗お嬢様がここにいるんだ?」
「『イタチが自分に屈する所を間近で見たいから』だってよ」
「それでわざわざ前線に? オイオイ勘弁してくれよ、護衛するの俺らなんだぜ」
「余計な負担増やさないで欲しいよなあ……」
「だな。ただでさえ遠出でモチベーション下がっているっていうのに……」
有紗を横目で見つつ、聞こえない様に会話しているのは『朱無市国警護隊』の人間だ。数は二〇〇人を超え、全員が共通の胴着状の鎧を身に纏っている。皆一様に不満を隠した硬い表情をしていた。
警護隊の右隣で整列しているのは『星の戦士団』だ。軽装の警護隊とは異なり、重厚な全身甲冑で全身を固めている。重々しい装備と凛然とした姿勢が相俟って「騎士らしさ」を演出していた。人数は一二〇〇人以上もいる。
警護隊の左隣、戦士団と反対側に屯しているのは『貪る手の盗賊団』だ。服装は統一性はないが、総じて動き易い服装をしている。重くても革の鎧程度の装備しかしていない。素早さを旨とする盗賊らしい格好だ。人数は六〇〇人強だ。
総勢二〇〇〇人もの戦闘職がここに集っていた。
「…………」
有紗の前には五人の男女が並んでいた。
警護隊二番隊長の来栖、三番隊長の猛雁。戦士団長のローラン、盗賊団長の五右衛門、そして紅一点の曳毬茶々だ。
二番隊長は中肉中背の小男、三番隊長は身長ばかりが伸びた細身の若者、戦士団長はピンク髪の精悍な男性、盗賊団長は肥満体の中年男性だ。
「それでは、お嬢様。どういう風に進行致しますか?」
戦士団長が恭しく有紗に問い掛ける。問われた有紗はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、
「そんなの、わたくしには聞かれても困りますわ。戦術・戦略は専門外ですもの。そっちで勝手に決めて下さいます?」
「……御意に」
つっけんどんな有紗の返答にも戦士団長は礼儀正しく頷く。彼が頭を下げている間、提案してきたのは盗賊団長だ。
「では、このままの配置で進行するのはどうでしょう? 各々戦術も思想も違いますし、無理に足並みを揃える事もないかと思われますが」
「そうですわね……ええ、構いませんわよ。各人どうぞ御勝手に。協力でも競争でも好きにしなさいな。結果としてあの憎きイタチを下せるのなら何でも良いですわ」
「はっ。有難う御座います」
有紗の快諾にほくそ笑む盗賊団長。彼ら盗賊団は住民からの略奪を画策している。個別に行動出来る方が咎められる可能性が低く、都合が良いのだ。
そんな盗賊団長を戦士団長は険しい顔で睨め付けていたが、結局それについては言及しなかった。代わりに彼は盗賊団長に近付くとこう言った。
「個別で行動するならば、先に貴様に言っておく事がある。『カプリチオ・ハウス』にはステファーヌ・リゲル・ド・マリニーという少女がいるが……」
戦士団長の目付きが一層鋭くなる。彼は剣を抜いていない。刃は腰の鞘に仕舞ったままだ。しかし、その剣呑な眼光は剣を抜いて切っ先を向けているに等しかった。
「彼女は私が相手をする。貴様らは手を出すな」
「ほお……?」
眉間に剣を突き付けられているが如き眼光を浴びながら、盗賊団長は退かない。不愉快そうに片眉を上げて、真正面から戦士団長を見返す。
「もし俺達はヤっちまったら、その時はどうするつもりだ?」
「その時は『星の戦士団』全戦力を投入して、貴様らを絶滅させてやる。ただの一人も逃さず地獄に堕としてやろう」
「ケッ……」
二人の視線が火花を散らし、空気が重々しく粘り付く。ややあって戦士団長は視線を外し、自分の団へと戻っていった。その後ろ姿を眺めて、盗賊団長は苛立ち紛れの呆れの溜息を吐いた。
「世渡りの下手くそな野郎だな。人に言う事を聞かせたきゃ飴も必要だっつーのに、これだからお綺麗な騎士様は。賊には金を握らせとけってんだ」
「どうします、首領? あいつの言う事聞いときます? それとも歯向かっときます?」
近くに控えていた盗賊団員が盗賊団長に訊く。団長は鼻を鳴らすと、
「思う存分凌辱して良いぞ。……と言いてえ所だが、なるべく無傷で捕らえろ。今回はあいつの足元を見た方が儲かりそうだ」
「小娘を生け捕りにして、あいつに高値で売ってやろうって魂胆ですね。了解っス」
ニンマリといやらしい笑みを浮かべて盗賊団員が下がる。盗賊団長は視線を団員から外し、これから攻略せねばらならない秩父山地を見上げた。
「……それにしても夜の山か。仕事だから仕方ねえとはいえ気乗りしねえな」
「ねえねえ、コレってもう出撃して良いの?」
「あ?」
聞こえた声に振り返る。曳毬だ。戦術に興味がなかったのか今まで一切口を挟んでこなかった彼女だが、ここに来てようやく口を開いた。
「ええ、構いませんわよ。どうぞ行ってらっしゃいな」
「じゃあ、茶々は先に行くね」
雇い主の許可を得た曳毬が背中のバックに手を伸ばす。取り出したのは一本の巻物だ。
「――『九頭竜異聞・百鬼夜行絵巻』」
曳毬が巻物を広げると、巻物からぬるりと黒い靄が現れた。靄は飛竜の絵であり、平面の状態から風船の様に膨らむと本物の飛竜となった。曳毬の「次元」の概念魔術により二次元が三次元へとの実体化したのだ。
飛竜はその場で旋回し、身を一捻りすると、曳毬を乗せて飛び立った。
「一人だけ空を飛んでいくかよ……羨ましい奴だぜ」
夜の山を悠々と越える曳毬を見送り、盗賊団長は妬ましげに舌打ちをした。
「やっと着きましたわね……すっかり暗くなってしまいましたわ」
馬車から降りた有紗が山を見上げる。既に太陽は沈み、世界は夜の支配下に落ちている。草木が生い茂る山地は月の光でも碌に照らせず、真っ黒で巨大な影となっていた。
「おい、なんで有紗お嬢様がここにいるんだ?」
「『イタチが自分に屈する所を間近で見たいから』だってよ」
「それでわざわざ前線に? オイオイ勘弁してくれよ、護衛するの俺らなんだぜ」
「余計な負担増やさないで欲しいよなあ……」
「だな。ただでさえ遠出でモチベーション下がっているっていうのに……」
有紗を横目で見つつ、聞こえない様に会話しているのは『朱無市国警護隊』の人間だ。数は二〇〇人を超え、全員が共通の胴着状の鎧を身に纏っている。皆一様に不満を隠した硬い表情をしていた。
警護隊の右隣で整列しているのは『星の戦士団』だ。軽装の警護隊とは異なり、重厚な全身甲冑で全身を固めている。重々しい装備と凛然とした姿勢が相俟って「騎士らしさ」を演出していた。人数は一二〇〇人以上もいる。
警護隊の左隣、戦士団と反対側に屯しているのは『貪る手の盗賊団』だ。服装は統一性はないが、総じて動き易い服装をしている。重くても革の鎧程度の装備しかしていない。素早さを旨とする盗賊らしい格好だ。人数は六〇〇人強だ。
総勢二〇〇〇人もの戦闘職がここに集っていた。
「…………」
有紗の前には五人の男女が並んでいた。
警護隊二番隊長の来栖、三番隊長の猛雁。戦士団長のローラン、盗賊団長の五右衛門、そして紅一点の曳毬茶々だ。
二番隊長は中肉中背の小男、三番隊長は身長ばかりが伸びた細身の若者、戦士団長はピンク髪の精悍な男性、盗賊団長は肥満体の中年男性だ。
「それでは、お嬢様。どういう風に進行致しますか?」
戦士団長が恭しく有紗に問い掛ける。問われた有紗はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、
「そんなの、わたくしには聞かれても困りますわ。戦術・戦略は専門外ですもの。そっちで勝手に決めて下さいます?」
「……御意に」
つっけんどんな有紗の返答にも戦士団長は礼儀正しく頷く。彼が頭を下げている間、提案してきたのは盗賊団長だ。
「では、このままの配置で進行するのはどうでしょう? 各々戦術も思想も違いますし、無理に足並みを揃える事もないかと思われますが」
「そうですわね……ええ、構いませんわよ。各人どうぞ御勝手に。協力でも競争でも好きにしなさいな。結果としてあの憎きイタチを下せるのなら何でも良いですわ」
「はっ。有難う御座います」
有紗の快諾にほくそ笑む盗賊団長。彼ら盗賊団は住民からの略奪を画策している。個別に行動出来る方が咎められる可能性が低く、都合が良いのだ。
そんな盗賊団長を戦士団長は険しい顔で睨め付けていたが、結局それについては言及しなかった。代わりに彼は盗賊団長に近付くとこう言った。
「個別で行動するならば、先に貴様に言っておく事がある。『カプリチオ・ハウス』にはステファーヌ・リゲル・ド・マリニーという少女がいるが……」
戦士団長の目付きが一層鋭くなる。彼は剣を抜いていない。刃は腰の鞘に仕舞ったままだ。しかし、その剣呑な眼光は剣を抜いて切っ先を向けているに等しかった。
「彼女は私が相手をする。貴様らは手を出すな」
「ほお……?」
眉間に剣を突き付けられているが如き眼光を浴びながら、盗賊団長は退かない。不愉快そうに片眉を上げて、真正面から戦士団長を見返す。
「もし俺達はヤっちまったら、その時はどうするつもりだ?」
「その時は『星の戦士団』全戦力を投入して、貴様らを絶滅させてやる。ただの一人も逃さず地獄に堕としてやろう」
「ケッ……」
二人の視線が火花を散らし、空気が重々しく粘り付く。ややあって戦士団長は視線を外し、自分の団へと戻っていった。その後ろ姿を眺めて、盗賊団長は苛立ち紛れの呆れの溜息を吐いた。
「世渡りの下手くそな野郎だな。人に言う事を聞かせたきゃ飴も必要だっつーのに、これだからお綺麗な騎士様は。賊には金を握らせとけってんだ」
「どうします、首領? あいつの言う事聞いときます? それとも歯向かっときます?」
近くに控えていた盗賊団員が盗賊団長に訊く。団長は鼻を鳴らすと、
「思う存分凌辱して良いぞ。……と言いてえ所だが、なるべく無傷で捕らえろ。今回はあいつの足元を見た方が儲かりそうだ」
「小娘を生け捕りにして、あいつに高値で売ってやろうって魂胆ですね。了解っス」
ニンマリといやらしい笑みを浮かべて盗賊団員が下がる。盗賊団長は視線を団員から外し、これから攻略せねばらならない秩父山地を見上げた。
「……それにしても夜の山か。仕事だから仕方ねえとはいえ気乗りしねえな」
「ねえねえ、コレってもう出撃して良いの?」
「あ?」
聞こえた声に振り返る。曳毬だ。戦術に興味がなかったのか今まで一切口を挟んでこなかった彼女だが、ここに来てようやく口を開いた。
「ええ、構いませんわよ。どうぞ行ってらっしゃいな」
「じゃあ、茶々は先に行くね」
雇い主の許可を得た曳毬が背中のバックに手を伸ばす。取り出したのは一本の巻物だ。
「――『九頭竜異聞・百鬼夜行絵巻』」
曳毬が巻物を広げると、巻物からぬるりと黒い靄が現れた。靄は飛竜の絵であり、平面の状態から風船の様に膨らむと本物の飛竜となった。曳毬の「次元」の概念魔術により二次元が三次元へとの実体化したのだ。
飛竜はその場で旋回し、身を一捻りすると、曳毬を乗せて飛び立った。
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