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第三部第二章 国奪りイベント(祭り本番)
セッション78 巨人
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視点を山頂に戻す。そこにいたのは笑みを引き攣らせるイタチと興奮気味の三護、顔面蒼白のヘル、そして得意満面の曳毬がいた。
「『九頭竜異聞・百鬼夜行絵巻』――『招来・大太法師イタクァ』」
曳毬の隣――隣と言って良いのだろうか? 曳毬の右手側には巨大な人型が立っていた。背丈はあの邪神クトゥルフよりも頭一つ分は大きいだろうか。高みより地上を睥睨する赤眼は星のようだ。巨人の周囲には霞が掛かっており、輪郭を朧げにしている。
「くっひひひ! 雪神イタクァか。良う描けておるのぅ、茶々」
「えっへへへ! 上手いでしょお、松武」
三護と曳毬が楽しげに笑い合う。幼馴染に自分の描いた絵を自慢していると見れば微笑ましいが、しかし現実は戦場だ。その絵がこちらを殺しに掛かっているとなれば笑い話ではない。
「ひっひ、神の模造品なんぞ作りおって。その命知らずっぷりはさすがの『狂い描き』じゃわい。祟られても知らんぞ」
「芸術は誰にも止められないのだ! 神でさえもね」
上空より高々と言ってのける曳毬。大物を繰り出してきた事で彼女のテンションは最高潮に達していた。
一方、ゴブリン達は疲労困憊の様相を呈していた。山頂での戦いは防衛戦であった為、彼らは守勢に努めていた。その結果、怪我人は多いけれども死人はいない。イタチの指示とヘルの采配の賜物だ。
しかし、あんな巨人が出てきたのではその努力にも意味があったかどうか。あれが転べばそれだけでこちらは全滅しかねない。十倍以上の体格差はあまりにも絶対的過ぎる。
「行け、大太法師!」
曳毬の命に従い、巨人が動き出す。巨人の両足は大気を地面のように踏んでいた。右足を後ろに引くと、振り子の如く前へと出した。環状列石の力場に爪先がぶち当たる。
次の瞬間、力場が容易く破られた。何枚もの分厚いガラスが割れる音が劈き、守りが失われる。夜風が列石の内側に入り込んできた。
「なっ……おい、三護! 力場の防御力はありえん程に高いのではなかったのか!?」
「うむ! 秩父盆地の霊脈より汲み上げた二週間分の魔力を注ぎ込んでいた! これを壊すのは山を砕くようなもんじゃと思っていたが……!」
巨人の蹴りは山を砕く威力だったという訳か。巨体に相応しい攻撃力だ。なんつーもん繰り出してきやがるんだ、曳毬は。
「さあて、じゃあ次はその列石を壊そっか。何だか知らないけど計画の一部なんだよね、それ」
「おのれェ……!」
イタチが忌々しそうに巨人を睨む。が、己の十分の一にも満たない者に睨まれた所で巨人は痛くも痒くもない。
巨人が右足を振り上げる。こちらを踏み潰す気だ。あの巨大な脚で踏み潰されれば環状列石など山頂ごと砕かれるだろう。第四計画が水泡に帰する。
いや、計画以前に僕もイタチも死ぬ。僕は潰されても生き返るから問題ないが、指導者が不在となれば丸ごとぱあだ。それに、僕の蘇生にもシュブ=ニグラスが出てくる問題がある。巨人よりもデカい彼女が出しゃばれば、ぱあどころか何がどうなるかも分からない。
「そぉら、終わりだよ!」
巨人の足の裏が落下してくる。絶望が圧倒的質量になって迫ってくる。もう駄目だ。そう直感した――その時。
「――いいや、まだ終わらせねえよ」
「!?」
炎が夜闇を貫いた。
レーザービームの如き炎だった。巨人の背後の森から飛んできたそれは巨人の胸部を貫通し、心臓を焼いて失わせた。巨人が短い呻き声を漏らし、黒い靄になって霧散する。
「うわっ!? 何? 何!?」
降ってきた悲鳴に頭上を見上げると、曳毬が黒い竜に襲われていた。あの竜は見た事がある。以前ここと全く同じ場所で目撃した。名前は確かニーズヘッグだったか。『狡知の神』ロキの飼い竜だ。
「よお。何とか『祭り』には間に合ったみてえだな」
炎が飛んできた森の中から声が届く。
草を踏み締める音が聞こえる。森の暗闇を燃やすようにして堂々と現れたのは、和鎧を装着した偉丈夫だった。
年齢は二十代前半か。イタチよりは年上に見えるが、一〇〇〇年前の僕よりは年下だ。中性的だったロキとは違う、男らしい美形だ。和鎧は重そうだが、鍛え上げられた肉がそれを苦にさせない。口元には笑みを浮かべ、眼光は鷹の如く鋭く、戦場を見据えていた。
右手には曲がった棒を握っていた。僕の記憶が確かなら、あれは火縄銃か。そんな骨董品級の火器を持っているという事は即ち――
「お、おおお、おおおおお……!」
彼の姿を認めたイタチの総身が震える。憎しみと歓喜が入り混じった魔獣の如き笑顔だ。イタチが吠える様に男の名を呼ぶ。
「『悪心影』、織田信長ァァァ―――!」
ダーグアオン帝国『五渾将』の一人がそこにいた。
「『九頭竜異聞・百鬼夜行絵巻』――『招来・大太法師イタクァ』」
曳毬の隣――隣と言って良いのだろうか? 曳毬の右手側には巨大な人型が立っていた。背丈はあの邪神クトゥルフよりも頭一つ分は大きいだろうか。高みより地上を睥睨する赤眼は星のようだ。巨人の周囲には霞が掛かっており、輪郭を朧げにしている。
「くっひひひ! 雪神イタクァか。良う描けておるのぅ、茶々」
「えっへへへ! 上手いでしょお、松武」
三護と曳毬が楽しげに笑い合う。幼馴染に自分の描いた絵を自慢していると見れば微笑ましいが、しかし現実は戦場だ。その絵がこちらを殺しに掛かっているとなれば笑い話ではない。
「ひっひ、神の模造品なんぞ作りおって。その命知らずっぷりはさすがの『狂い描き』じゃわい。祟られても知らんぞ」
「芸術は誰にも止められないのだ! 神でさえもね」
上空より高々と言ってのける曳毬。大物を繰り出してきた事で彼女のテンションは最高潮に達していた。
一方、ゴブリン達は疲労困憊の様相を呈していた。山頂での戦いは防衛戦であった為、彼らは守勢に努めていた。その結果、怪我人は多いけれども死人はいない。イタチの指示とヘルの采配の賜物だ。
しかし、あんな巨人が出てきたのではその努力にも意味があったかどうか。あれが転べばそれだけでこちらは全滅しかねない。十倍以上の体格差はあまりにも絶対的過ぎる。
「行け、大太法師!」
曳毬の命に従い、巨人が動き出す。巨人の両足は大気を地面のように踏んでいた。右足を後ろに引くと、振り子の如く前へと出した。環状列石の力場に爪先がぶち当たる。
次の瞬間、力場が容易く破られた。何枚もの分厚いガラスが割れる音が劈き、守りが失われる。夜風が列石の内側に入り込んできた。
「なっ……おい、三護! 力場の防御力はありえん程に高いのではなかったのか!?」
「うむ! 秩父盆地の霊脈より汲み上げた二週間分の魔力を注ぎ込んでいた! これを壊すのは山を砕くようなもんじゃと思っていたが……!」
巨人の蹴りは山を砕く威力だったという訳か。巨体に相応しい攻撃力だ。なんつーもん繰り出してきやがるんだ、曳毬は。
「さあて、じゃあ次はその列石を壊そっか。何だか知らないけど計画の一部なんだよね、それ」
「おのれェ……!」
イタチが忌々しそうに巨人を睨む。が、己の十分の一にも満たない者に睨まれた所で巨人は痛くも痒くもない。
巨人が右足を振り上げる。こちらを踏み潰す気だ。あの巨大な脚で踏み潰されれば環状列石など山頂ごと砕かれるだろう。第四計画が水泡に帰する。
いや、計画以前に僕もイタチも死ぬ。僕は潰されても生き返るから問題ないが、指導者が不在となれば丸ごとぱあだ。それに、僕の蘇生にもシュブ=ニグラスが出てくる問題がある。巨人よりもデカい彼女が出しゃばれば、ぱあどころか何がどうなるかも分からない。
「そぉら、終わりだよ!」
巨人の足の裏が落下してくる。絶望が圧倒的質量になって迫ってくる。もう駄目だ。そう直感した――その時。
「――いいや、まだ終わらせねえよ」
「!?」
炎が夜闇を貫いた。
レーザービームの如き炎だった。巨人の背後の森から飛んできたそれは巨人の胸部を貫通し、心臓を焼いて失わせた。巨人が短い呻き声を漏らし、黒い靄になって霧散する。
「うわっ!? 何? 何!?」
降ってきた悲鳴に頭上を見上げると、曳毬が黒い竜に襲われていた。あの竜は見た事がある。以前ここと全く同じ場所で目撃した。名前は確かニーズヘッグだったか。『狡知の神』ロキの飼い竜だ。
「よお。何とか『祭り』には間に合ったみてえだな」
炎が飛んできた森の中から声が届く。
草を踏み締める音が聞こえる。森の暗闇を燃やすようにして堂々と現れたのは、和鎧を装着した偉丈夫だった。
年齢は二十代前半か。イタチよりは年上に見えるが、一〇〇〇年前の僕よりは年下だ。中性的だったロキとは違う、男らしい美形だ。和鎧は重そうだが、鍛え上げられた肉がそれを苦にさせない。口元には笑みを浮かべ、眼光は鷹の如く鋭く、戦場を見据えていた。
右手には曲がった棒を握っていた。僕の記憶が確かなら、あれは火縄銃か。そんな骨董品級の火器を持っているという事は即ち――
「お、おおお、おおおおお……!」
彼の姿を認めたイタチの総身が震える。憎しみと歓喜が入り混じった魔獣の如き笑顔だ。イタチが吠える様に男の名を呼ぶ。
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