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第六章

第六章   寄り道、後に

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宿に戻ると、護衛たちと共に仁王立ちのターニャが待ち構えていた。
私たちは、二人揃って息を呑んだ。待ち構えているターニャからの殺気に似たものがとんでも無くビリビリと体に響いてきたからだ。
「「やばいやばいやばい!!!ターニャものすごく怒ってる!」」
「「どうするんだ!お前のメイドだろ!何とかしてくれ!」」
「「無理よ!あんなに怒ってるターニャ、私たち死ぬほど怒られるわ!」」
「「見ろ!メイドのお陰で私の兵士たちが怯えた猫みたいだぞ!」」
「「行くしかないわ!」」
「ターニャ・・・あの・・・ただいま戻りました・・・・・・」
「「ターニャ!あなた見てたんでしょ!人助けよ!あんな飲みたら仕方がないでしょ!あのままほっとけないでしょ!だから許してください!」」
「・・・・・・おかえりなさいませ」
「「ちゃんとお二人の後をつけておりました。確かに人助けはいいことだと思いますですが姫ともあろうお方が二人揃ってあのような場所に行くなどいかがなものかと思います。
ましてや宿を黙って抜け出して私に気付かれないと本当にお思いですか?」」
周囲から見たら無言の二人だが、アイリスとターニャは目配せだけで会話できるようになっていた。
「はあ・・・わかりました。キース君、まずはお風呂に入りましょうかね」
ターニャからの殺気が消えた。あれ!もしかしてお説教なし?と希望が生まれそうになった時、「「後でお説教ですからね」」と被せるようにターニャは視線を送ってきた。
さらに背後から不穏な気配が漂い振り返ると血管が浮き出るほど顔をピクピクさせている方々もいて、二人はそれぞれの護衛たちからお説教を受け、私だけもう一度ターニャのお説教を受けた・・・

次の日、二人はキースと先ほど見た奴隷店の事を話して彼の村がファマーから1~2
日程度の距離にあるので私たちは彼を送り届けることにした。
キースからさらに話を聞くと、彼の他にも数人の亜人の子供が囚われていたそうだ。
囚われていたという亜人達は前の夜に大人達に馬車で連れて行かれ自分は体が弱っているから捨てられる予定だったところを私たちが救ったと。
彼から聞いた他の亜人達については街に半分ほど兵を残し行方を探させることにした。

     ・キースの村へ続く街道
他の兵達と別れた私たちは馬車を借り、キースの村へと進んでいた。
マチルダは御者席に座り、私とキースとターニャは荷台に乗っている。
馬車の中では他愛もない話をし、極力キースが奴隷商の所にいた時の話は聞かないようにしていた。
キースは自分のことを色々と離してくれた。彼の村は小さな農村で100人も村人はいないと、そして彼はそこに母と二人暮らしなのだという。
父親は彼が赤ん坊の時に山で木を切っている最中に事故で亡くなったと母から聞かされ、
女手一つで育てられたのだと。
周囲の家族も彼らを不憫に思い、ご飯やお古の服など差し入れし村全体の子供のように育てられた。
きっと母は心が弾きれそうなほど心配しているだろう。彼の性格を見ればわかる。
彼はとても優しくしっかりしている。彼の母親や周囲の人たちがとても大切に育てたのだとわかるほど良い子だ。
その後も私は彼の村の話を聞き、そして彼は私の国の話を聞いてとても興味を抱いた。
此処とはまるで違う国。来ている服も何もかもが違う事を聞かされると彼はまるでおとぎ話を聞かされている子供のように目をキラキラさせながら多くのことを吸収していった。
私も彼の村の話はとても興味を惹かれるものばかりで聞き入ってしまい、すぐに時間は経っていった。

しばらくすると休憩にしようとマチルダが馬車を止めた。そばには綺麗な小川が通り魚も泳いでいる。一休みするにはとても良いところだ。

「嘘・・・マチルダ。あなた料理できるの?」
「簡単なものくらいだがな。アイリスもできるだろう?」
「「そりゃ・・・私だって料理には多少自信はあるけど、アイリスになった今でも日本の料理を再現しようとしている。だけど・・・まさかマチルダ貴女が料理するところなんて今まで一度見たことないわ!
すごく失礼かもだけど一切そういう物とは無縁に思っていたわ」」
「・・・なんだかすごく失礼なことを考えてない?」
と考えていたことがわかるぐらい顔に出ていたようだ。
マチルダは何かとても失礼な物を感じてイラッとした。
マチルダは自前の調理器具を取り出し、トランクケースを開けると調理器具が一式揃っていて、それはしっかりと使い込まれた物だった。
ターニャも。
なら私はお茶でも入れましょうか~ね~と、こちらにあざとい言い方をしてくるのだ
手持ち無沙汰で待つことになったアイリスとキース。
「「あれ・・・私だけ、何もできない子になってる・・・」」
「ただ待っているのもアレね。キース!私たちは釣りでもしましょうか!」
近くのちょうど良い枝を取り出し、山に猟に行った時に罠を仕掛ける時に使うタコ糸と針金で簡易の釣竿を作った。

しばらく
キースの方に当たりがかかった。
キースも流石と思ってしまう。山で暮らしているからか慣れた手つきで吊り上げる。
その後も、2匹。3匹。とキースの釣竿にばかり当たりがくる。
「すごいなキース!やっぱり山育ちだからか慣れた手つきだな!
それに比べて・・・・」
煽ってくるかのようの私の方をニタニタと見てきやがる。
「「ダメだ!せめて1匹は釣らないと」」

結果。
案の定というのか、私の竿には1匹もかからず。人数分の魚はキースが1人で釣り上げた。
「あらあら~キース。1人でこんなに釣り上げたのか!えらいぞ~。どこかの姫様も見習ってもらいたいものだ」
「なんでなんでしょうね。姫様は雪山の狩りは慣れてらっしゃるのに、釣りの才能が壊滅なのですよね~」
「どう考えても雪山の方が大変なのにな!(笑)」
「本当に謎なのですよね」
2人の言葉が、バスバスと私に刺さってくる。。。
そのやりとりを見ていたキースが、小さくクスクスと笑っている。
この旅を始めてから、一度も笑わなかったキースが少しづつ心の傷を癒し始めている。
「「まあいいか、この子が少しでも笑ってくれるなら」」
と私も。おそらくマチルダとターニャも思ってくれていると思う。
「さあ!食事にしよう!」
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