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7.わたくしの力
しおりを挟むわたくしには、不思議な力があった。転生し、周囲の人や貴族の生活にも少し慣れた頃、誰も気に留めないそれに気がついたのだ。
体を覆う“なに”か。
勉強の合間に、これを操ってみた。少しだけハンカチを浮かせたり、水を出したり、まるで魔法のようなことが実現できるとわかった。
しかし大きな効力はない。そのせいなのだろうか、力についてこの世界の人たちは意識していないようだった。もしかしたら、気づいている人や、無意識に使っている人もいるのかもしれないけれど……。
無理をしてもっともっと、と能力を高めようと頑張ったこともあった。その結果自分を浮かせることはできた。けれども、すぐに脱力し意識を失ってしまったのだった。
わたくしは、これが危険な力なのかもしれないと気がついた。なのでそれ以降はたまに練習するだけに留め、もしものときだけに行使する保険のようなものとして、過大な期待を寄せるのはやめたのだ。
最後の最後。わたくしはルリフィネを抱きしめたときに、呪いを……婚約発表の時間に合わせて、本日のお昼。一時間だけおならの音がルリフィネからやまない呪いをかけた。全ての力を使いきってしまう勢いで……。成功したのかを自らの目で確かめることはできないのが残念だけれど。
許せなかった。今までのわたくしの努力も、殿下への想いも。踏みにじっていったあの子が。
でももし、予期せぬできごとが起こった今日を。ルリフィネとロシャ殿下が乗り越えられたのなら。ロシャ殿下がそれでもルリフィネを大切にしたいとおっしゃるのなら――祝福しなければならないわね……。
申し訳ありません。お父様、お母様。ルリフィネの命までは取りませんので、どうかお許しくださいますよう……。
ロシャ殿下も申し訳ありません。本当に、お慕いしておりました……。
わたくしの意識は、二度と上がってこられない深みへと落ちていった。
リロエラが永遠の眠りについたその日のお昼すぎ。ふらふらと、道を歩く一人の女がいた。美しかっただろうドレスはあちこちに引っかけたのかボロボロで。結っている髪も乱れていた。
「――ああ! ああ! ロシャ、殿下。違いますの! 私じゃないのです! 違うのっ。私じゃなくて、私じゃなくて……」
遠巻きにされ気味の悪い独り言を繰り返す女は、おぼつかない足取りで街の暗いほうへと消えていった。
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