【完結】妹は憧れの王子と結婚したいようですが、まずはその凶暴な性格を直さないと無理だと思います!

貝瀬汀

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1.殿下の選択

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 国王から父への褒美。それは第一王子であるメイテス・モンティーネと、娘であるわたくしたちのどちらかとを婚約させる、というものだった。



 先日、屋敷ではメイテス殿下を招いてのお茶会が執り行われた。両親、兄、そしてわたくしたち姉妹がおもてなしをしたのだ。贅を凝らした軽食も出されていたのだが、当然、緊張で味など覚えちゃいなかった。
 
 父曰く、メイテス殿下に気に入られたほうが婚約者になるという。もともと妹のルリーベラは格好よくて権力のある殿下に好意を持っていたようで、興奮状態。たびたび不躾ではないかという言葉が聞こえてきて、生きた心地がしなかった。
 姉であるわたくしラナ・ニーシスは、殿下が選ぶのは妹のルリーベラであってくれ、と願っていた。しかしそれに反し、妹が選ばれたらどうなってしまうんだ……という懸念もあったのだ。
 だって、ルリーベラは――。
 ああ、いっそのこと殿下が王へ「どっちも嫌です! 金で褒美をやればいいのではないですか!」とでも言ってくれないかな、なんて夢想する。
 そして本日、父が改まった様子で書斎に母とわたくしたち姉妹を集めた。殿下からお応えが返ってきた、と。

「――それで、お父様。殿下はなんとおっしゃっていましたの? もちろん私ですわよね? ラナ姉様より私のほうが百倍可愛いですもの!」

 うふふ、と首をかしげて可憐に笑うルリーベラ。わたくしはその顔を気まずげに伺う両親の視線を見逃さなかった。
 あーあ。本当に貴族って嫌だ。もちろん民はもっともっと酷い生活を強いられているのでしょうけれどホント無理。というか、この婚約問題はわたくしにとっても、ニーシス家にとっても、かなりの難問だと思うのだけれど……。
 父は机に向かったまま、目の前に立つ妹を見上げて口を開いた。

「ルリーベラ……。すまないがメイテス殿下がお選びになったのは、ラナだったよ」
「……は? なんでよ……!」

 妹は口をポカンと開けて呆然としている。
 わたくしは不思議に思う。なぜ妹は王族なんて窮屈そうなところに嫁ぎたいのだろうか、と。――なんて、愚問か。この世界だけしか知らないからだ。日本から転生したわたくしにとっては。貴族でさえ変なしきたりに縛られているのに、これ以上雁字搦めにされそうな立場など御免であった。貴族が一番いいポジションだと思うのだが。とりあえず食べるのには困らないし。今のところは、だけれど。

「でっ、でも大丈夫よルリーベラ? あなたにも素敵な婚約者を見つけてあげますからね。楽しみに待っていてちょうだいね?」

 ね? と母が妹に優しく言い聞かせている。……これで収まればいいのだけれど……。隣に立ち尽くし俯く彼女の顔色をそれとなく横目で見るのだった。

「――殿下は。お名前を間違っていらっしゃるのよ。あとで訂正の連絡がきっと入りますわ! そうに決まってます。それを待ちませんと……ね? お父様、お母様?」
「……あー……う、む」
「ルリーベラ……」

 微妙な笑顔のまま固まる両親。それに気がつかず早く来ないかしら~とにこやかに微笑み返す妹だった。
 微妙な心境で一連のやり取りを見守っているとルリーベラと視線が合う。そしてキッ!! 睨まれるのだった。コワ……。

 ――どうするべきか。こっちから断れるものでもないし……。はぁ。
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