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初夜なのに寝かせようとしないで

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 昼間の喧噪を感じさせない静かな夜になった。離宮以外知らないセラフィにとって、王宮の中は慣れない場所だった。住むところもアレクシスがいなければたどり着けるかわからない。

「ここです――。魔術師団にも近いからギリギリまで寝られますね」

 フフっと笑ったアレクシスが、扉を開けた。  

「わぁ、なんだか過ごしやすそう」

 色や家具の配置がセラフィにそう感じさせた。

「王妃様とカリナ姉様ががんばってました。本当は私が選びたかったんですけどね。こういうのは女の人の方が得意なんだなと途中で諦めました」
「お母様とカリナ先生が?」
「ええ、あなたの好みは残念ながら二人の方が把握してるようです」
「アレクもくつろげる?」
「あなたがいればそこが私の楽園です」

 ププッと笑ってセラフィは寝室へ続く扉を開けた。

「アレクはいつも僕を嬉しがらせる言葉を言うけれど、恥ずかしくない?」
「あなたが嬉しいと言ってくれるなら恥ずかしくありませんよ。セラフィ、薔薇を美しいと褒め称えることを恥ずかしがる人はいますか?」
「薔薇……、は美しいね」
「それと同じです。でも感性が合わない人もいますから、そんな人には言いませんよ」

 微笑むアレクシスに上着を脱がされ、シャツを脱がされ、身体が軽くなっていくにつれ、セラフィの心も身体も期待に浮き立つ。

「さぁ、お風呂にはいっていらっしゃい。朝から忙しくて疲れたでしょう?」

 アレクシスはセラフィの額にキスをした。それがおやすみのキスだと気づく。

「アレク! 今日は結婚した最初の日、初夜だってわかってる?」

 セラフィとアレクシスはお互いに想い合ってからもずっと最後の一線は越えられなかった。それは父ジョセフがアレクシスに魔術を使って契約させたからだ。エドアルドに聞いた時、娘ならわからないでもないけれど、息子の貞操を心配する男親がいるか? とセラフィは憤慨した。セラフィはジョセフに親馬鹿という称号を与えたいと思った。ジョセフは栄誉だと思うかもしれないが。

「わかっています。でも疲れているのに無理矢理組み敷いて、足腰立たなくなるまで抱き潰してあなたに嫌われたくないので――」
「嫌いになったりしないよ! む、無理矢理じゃないし……」

 セラフィが抱きつくと、アレクシスは苦笑してもう一度忠告めいた言葉を発した。

「泣いても止めてあげられませんよ」
「泣かない! 泣いても……止めないで――」

 力を込めて抱きしめると、アレクシスはフッと力を抜いて「いいでしょう、セラフィ」と耳元で囁いた。

「一緒にお風呂に入りましょう」

 そう言って、アレクシスは自分の服も脱ぎ去ってセラフィを抱き上げた。

「もう大人なんだから抱き上げなくていいよ!」
「何を言ってるんですか。私はセラフィを抱き上げるのが好きなんです」

 今日のアレクシスはいつもと違って何だか恥ずかしいことばかりを言うなと思いながら、セラフィは落とされないように首に抱きついた。

「抱き上げるとセラフィは必ず首に抱きつくでしょう? それが嬉しくて」

 密着してアレクシスの顔を側で眺められるから実はセラフィも抱っこされるのが好きだった。それは言わないでおく。

「セラフィ、身体を洗いますよ」

 アレクシスは丁寧に布でセラフィを洗ってくれた。この城の風呂はどの部屋も大きめの石の浴槽が中央にあって、周りに身体を洗う場所がある。水の神の守護を受けている国だけあって、風呂は誰もがこだわって作るのだ。

「アレク、洗ってあげるよ」
「自分でやります。先に湯船に浸かっててください」

 アレクシスはセラフィに何一つとしてやらせたくないのかもしれない。セラフィだって、アレクシスの身体を洗ってあげることくらいできるのに。

「どうしたんですか? のぼせましたか?」
「どうしてアレクはそんなに過保護なの。僕はもう子供じゃないから、アレクの身体くらい洗ってあげられるのに! それに僕の身体を触っても全然平気だし、淡泊なの? それとも僕の身体じゃ興奮しないの? 僕はもうずっと……ずっとアレクのことばかり考えているのに……」

 二人の間には確かに愛情があるけれど、それはセラフィの抱いているものとは違うのかもしれないと急に不安になった。魔術の契約があるとはいえ、アレクシスはいつもセラフィを気持ちよくさせるだけで、自分の性器を晒したこともない。手で触るのなら大丈夫だと言ってもズボンを脱いだことさえなかった。

「私が淡泊ですか?」

 戸惑うアレクシスの声に、セラフィは頷いた。

「だって、今だって隠してる」

 男同士なのに、大きな布で自分の股間を隠しているのだ。

「その、あなたが怖がるかと……」
「パートナーなんだよ。怖がったりしないから! 同じものが僕にもあるってわかってるの?」

 湯船に入ろうとしていたアレクシスは縁石に座り、仕方ないという顔で布を外した。

「え?」

 ブルンッと音が聞こえた気がした。音を発したように感じたのはアレクシスのペニスの大きさと見事な勃ちあがり具合からだろう。

「すいません」

 頬が赤らんでいるのはお風呂のせいだけじゃないようだ。

「アレク、興奮してるの? こんなになって辛くないの?」

 同じものが僕にあるって言ったのは間違いだったかもしれないとセラフィは思った。
 ツンと指先で突くとトロリと先走りが零れた。

「……もうずっとあなたに興奮してます。最愛の人がパートナーになったんですよ。無防備なあなたの姿に……あっ! 駄目です!」

 セラフィは顔を背けて辛そうに告白するアレクのペニスにキスをした。

「駄目じゃない。いつもアレクがしてくれることじゃないか。僕だってしたい」

 そう言うとアレクシスも困ったような顔でセラフィを見つめた。

「いやだったら止めていいですよ。ンッ……ぅ……っ」

 アレクシスのそれはセラフィの想像を超えていた。人の勃ちあがったものを見たのが初めてだからかもしれないけれど、口にくわえると顎が痛い。何よりほとんど入らない。

「ごめぅ、ん……全部はいらな……」

 咥えるのは苦しいので、先端を吸ったり竿の部分を舐めてみたりしてみた。アレクシスの分身は喜んでいるようだし、アレクシスも気持ちよさそうだ。安心して続けていると、アレクシスはセラフィの髪をギュッと掴んで、離した。

「あ、それ、気持ちいい――」
「頭、痛くなかったですか?」

 そうっと撫でられて、また握られた。髪が抜けなければ問題ないと、セラフィは頷いた。

「うん……。アレクも、いい?」
「凄くいいです。あ……っ、でももう達きそうなので、唇をはなし……って――」

 アレクシスの眉間に皺が寄るのが色っぽいと思ったり、乱れる声にドキドキしながらセラフィはアレクシスの感じやすい場所を探していた。
 先端を強めにチュッと吸うとアレクシスがセラフィの髪の毛を掴んで顔を離そうと力を込めた。

「ああっ!」

 アレクシスの達くときの声は色気がありすぎるとセラフィは思った。

「あっ! 飛んじゃった……」

 アレクシスに顔を退けられて、セラフィの顔に白い液が飛んだ。頬と喉のあたりまで飛んだ感触がある。

「すみません……汚してしまった――」
「アレクが気持ちよかったなら嬉しいよ」

 本当はいつもアレクシスがするように飲みたかった。けれど、結婚したのだからこれからいくらでも機会があるはずだ。

「……夢かもしれない」
「え、アレク?」

 頬に飛んだ精液をアレクシスは指の先で伸ばすように触れる。

「何度もあなたをこんな風に汚した夢を見た……。小さいあなたも大きくなったあなたも私に裏切られたという顔で見上げていました。信じていたのに、裏切ったと――」
「えええ! 僕が? 僕はアレクに触れられてこんなに嬉しいのに? 見てよ、アレクを舐めただけなのにこんなに……大きくなっちゃった――」

 アレクシスにとっては、自分の精液がセラフィの顔に飛んだことがショックだったようだ。セラフィは慌てて顔ごと湯船に浸かって証拠隠滅を図った。見せるために勢いよく立ち上がったセラフィのそこも十分な硬度をもって、アレクシスに興奮していることを伝えた。

「夢、ではないのですね」
「夢だったら目を覚ましてよ。まだ終わってないんだから」

 セラフィはチュッとアレクシスにキスをした。
 チュッチュッと何回も音をさせてキスしていると、アレクシスが手を伸ばしてセラフィを抱き寄せた。胸に抱きとめられて唇を合わせ、舌を絡め合い、二人は夢でないことを実感した。

「はぁ……ぁ。アレク、僕、暑くなってきた」

 キスの合間に訴えると、アレクシスはザバッとセラフィを抱きあげた。

「湯あたりを起こしますね。寝台に行きましょう」

 途中、木で編んだ椅子にセラフィを下ろし、大きな布をつかってアレクシスが拭いてくれた。フワフワの布で拭かれるのが気持ちよくて、セラフィは瞼が落ちそうになった。

「寝ますか?」

 すかさず尋ねられて、慌てて頭を振って眠気を払う。

「嫌だ」

 笑いながらアレクシスが冷やした水を口移しで飲ませてくれて、興奮を思い出す。何度もねだって、セラフィはキスと水分を堪能した。
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