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二体の化け物と晴海[華の視点]

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るか君に変わってよかったね。

「指輪つけれたんだね。」

「うん」

星(ひかる)君が、笑顔で安心した。

「るか君が、しばらくいれるの?」

「たぶん、そうだと思う」

「意識を失くすのが怖いんだ。」

「そうだよね」

二人と話してるとしばらくしてから、安西美矢(あんざいみや)が現れた。

一目見た瞬間に、晴海が惹かれるのがわかった。

不思議な人、大人しい化け物を二体も左手から繋がる鎖に繋げて。

彼が、スケッチブックにさらさら何かを描(えが)くと周りを漂う空気が甘い蜜のように広がり…。

僕と晴海は、引き寄せられた。

二体の化け物は、嬉しそうに左右に揺れる。

見た目は、老人に見える。

けれど、描(えが)くと別人に変わる。

初めて見た瞬間、この人はまるで生きる死体だと思った。

でも、絵を描(えが)くとかわった。

生にしがみつく哀れな人間にかわる。

彼が、ペンをはしらせると人間らしくて笑える。

晴海が、安西さんの腕を掴んで告白した事に僕は驚きはしなかった。

詩音は、かなり動揺していた。

僕は、それがおかしくて堪らなかった。

なのに、詩音は親睦会に誘った。

「華、フラれちゃったよ」

涙をとめどなく流しながら、晴海は僕を見ていた。

「大丈夫。時間をかけなよ」

僕は、晴海の頭を撫でる。

お店まで行くのに、るか君と星(ひかる)君を車に乗せた。

「晴海君なら、安西を救えるよ」

車に乗り込んだ晴海に、るか君が声をかけた。

「泣いたら、運転できないよ。晴海」

「わかってる。安西さんは、苦しんでいるんだね」

「すごく、苦しんでるよ。」

星(ひかる)君の言葉に、僕はあの二体の化け物が気になっていた。

晴海は、車を走らせる。

「やっぱり、俺なんか嫌だよな」

マイナス志向の晴海は、告白した事を後悔し始めていた。

「嫌とかじゃなくて、それは出会ってわずかな人に言われたら…。誰だって断るよ」

僕の言葉に、晴海はだってと小さく呟いた。

「同じもの感じたくせに、安西は嘘ついてる」

るか君は、そう言って窓の外の景色を見てる。

「何か、感じたの?るか」

「感じたよ。晴海君と安西から同じ感情(きもち)を感じた。なのに、安西は逃げた。恐れがかったんだろうな…。安西の気持ちは、晴海君に付き合ってと言われた瞬間。優しい痛みが走った。だから、おしてみろ?」

「どういう意味、るか?」

「キスでもしてやれば、その気になるよ」

るか君は、星(ひかる)君の顎を引き寄せて寸前の所でやめた。

「恥ずかしいから」

星(ひかる)君は、頬を真っ赤に染める。

「押せばチャンスがあるって事?」

晴海の言葉に、るか君は笑った。

「酔った勢いで、キスでもしてみろ。それと、安西にずっと話しかけてみろ。心配しなくても、もう気持ちは揺らいでる。抱きつくなりなんなりしたらいけるさ。晴海君みたいな綺麗な人に、告白されて嬉しくないやつなんていないよ。」

るか君の言葉に、晴海は笑顔になった。

「でも、裏切らないかな?渚のこと」

「裏切りになんて、ならないよ」

「だって、俺。渚を亡くして初めて心が持っていかれそうになったんだ。」

その言葉に、るか君は考えながら晴海に言った。

「死んだ人間が、晴海君を抱き締めてなどくれないよ。安西もだ。今いないやつは、何もしてくれねーよ。なぁ。星(ひかる)」

僕達の目の前で、流星さんに拒まれたるか君は、まるで自分に言ってるようだった。

「だったら、目の前にいるやつを愛さないとな。心や体なんて下らない言い訳並べてないで。触(ふ)れたいか触(ふ)れたくないからだろ?」

そう言って、星(ひかる)君の頬に触(ふ)れる。

「裏切りになったって、欲しいなら手にいれてみろよ」

「恥ずかしいよ」

「星(ひかる)みたいに…。目の前にいるやつを全力で愛してみろよ」

唇を重ねた。

まるで、ドラマを見せられてるようだった。

「恥ずかしいよ」

星(ひかる)君は、顔を真っ赤にしてる。

「やってみるよ。俺、安西さんを振り向かすよ」

「頑張れ、晴海」

僕達の店について、晴海が車を停めた。


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