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麻美さんの想い[安西の視点]
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「ここです。」
家について、星(ひかる)さんと麻美さんをあげた。
「お邪魔します。」
二人は、僕の家にあがる。
「ご飯、作るよ。お茶いれようか?」
「はい」
僕は、お茶をいれて二人に渡した。
ご飯を作る、霧人が作ってくれたレシピ通りに…。
「お待たせ、この白ワイン美味しいんだ。飲まない?」
「はい」
僕は、グラスを三つ置いた。
ワインを注ぐ。
「ご飯は、いらなかった?」
「大丈夫ですよ。」
「私も、大丈夫です」
「じゃあ、食べようか。乾杯」
カチンとグラスを合わせる。
「あっ、そうだ」
僕は、スケッチブックを持ってきた。
「さっきの話で、思い出したんだ。橘と藤堂の絵。あんまり、人物画は興味なかったんだけど。橘と藤堂だけは、よく描(えが)いた。」
そう言って、二人にスケッチブックを見せた。
「やっぱり、この頃の栞は月(るい)さんが好きだったんだね」
「そうだったかも知れない。あまり、覚えていないけれど…。綺麗だなって、橘といる時の藤堂がすごく綺麗だなって…だから、よく描(えが)いてたんだ。橘に恋していたんだね。」
「栞が、好きな人に見せる顔だから…。」
「安西さんは、人物画、凄くうまいですよ。」
「そうかな?ありがとう」
僕は、照れ臭くて俯いた。
「私は、栞に会った日を今でもハッキリと思い出します。まるで、昨日のことのように…」
麻美さんは、そう言って笑った。
「美術部の八代君を覚えていますか?」
「覚えているよ」
「八代君の彼女の友達だったんです。私…。」
麻美さんは、そう言いながら頬を赤く染める。
「みんなで、ご飯を食べるのに誘われた日に栞に出会いました。男性が苦手だった私にとって、中性的な栞はとても素敵だった。恋の好きか、憧れとしての好きかは、わからなかったけれど…。栞といる事は、とても楽しかったんです。」
麻美さんは、ニコニコしてる。
「栞さんの事が、好きなんですね。」
「はい、大好きです。」
麻美さんのイメージが、変わった。
こんなに話すような感じは、しなかった。
「藤堂と付き合えた時は、嬉しかったんですね?」
「はい、とても嬉しかったですよ。栞に触(ふ)れるだけで、栞の一部になれた気がした。栞の闘病生活を支えながら、私は栞が話す寝言をよく聞いていました。いつも、彼の名前を呼んでいた。悲しかった。私は、男にはなれない。栞を満足させるすべを、何一つ持っていない。」
麻美さんの目から涙がポタポタ落ちる。
「それでも、目覚めたら私を抱き締めて好きだよって言ってくれるんです。それだけが、支えだった。栞は、きっと彼と結婚して子供が欲しかったんだと思います。病気を克服してから、栞は家族連れの絵を描(えが)かなくなりました。スケッチブックには、家族連れの絵が沢山描(か)いてあったのに…。それだけ、栞にとって辛かった事を私は理解しました。」
星(ひかる)さんは、麻美さんの背中を擦った。
「栞さんは、麻美さんがいたから乗り越えてこれたんだと僕は思うよ。」
「ありがとう、星(ひかる)さん。でも、いいんです。私は、栞をちゃんと救えませんでした。だから、私は誰かにちゃんと栞を救って欲しい。月(るい)さんでも、彼でも…。栞の心を救って欲しいんです。これ以上、苦しまないで欲しい。入院中は、子供を描(えが)いていたんです。栞の描(か)く子供達の絵は、ビックリするほど美しいんです。私は、栞にまたあんな絵を描(えが)いて欲しいんです。」
「芸術家を愛した人の言葉だね。」
僕は、麻美さんに笑った。
「また、あの作品を見れるなら、私の気持ちなんてどうだっていいんですよ。」
「藤堂の描(えが)く、子供の絵か…。見てみたい」
「凄く幻想的で、美しい作品ですよ。」
麻美さんは、そう言うと僕と星(ひかる)さんに写真を見せた。
「この絵は、物置にしまわれてるんです。内緒で、写真をとったんです。」
衝撃だった。
「これを藤堂が?」
「はい、入院する少し前に、私と病院に行って。麻美、描(か)きたいものがあるって。スケッチブックの絵は、この子の母親に渡していました。」
「この色使いと、この絵の雰囲気…。素晴らしいよ」
僕は、涙が溢(こぼ)れてくる。
大きな羽根に抱(だ)かれた小さな子供。
黄色や金や白の色使いで、この子は神様の子供なんだとわかる。
すごい、絵だ。
「安西さんには、やっぱりこの絵の素晴らしさがわかるんですね」
「うん、わかるよ。鳥肌がとまらない。」
「今は、描(か)けないんです。子供を見るのも嫌みたいで。」
麻美さんは、涙を流した。
僕には、わかる。
この絵を描(か)いてもらう為なら自分の気持ちなんていらないって気持ちが…。
家について、星(ひかる)さんと麻美さんをあげた。
「お邪魔します。」
二人は、僕の家にあがる。
「ご飯、作るよ。お茶いれようか?」
「はい」
僕は、お茶をいれて二人に渡した。
ご飯を作る、霧人が作ってくれたレシピ通りに…。
「お待たせ、この白ワイン美味しいんだ。飲まない?」
「はい」
僕は、グラスを三つ置いた。
ワインを注ぐ。
「ご飯は、いらなかった?」
「大丈夫ですよ。」
「私も、大丈夫です」
「じゃあ、食べようか。乾杯」
カチンとグラスを合わせる。
「あっ、そうだ」
僕は、スケッチブックを持ってきた。
「さっきの話で、思い出したんだ。橘と藤堂の絵。あんまり、人物画は興味なかったんだけど。橘と藤堂だけは、よく描(えが)いた。」
そう言って、二人にスケッチブックを見せた。
「やっぱり、この頃の栞は月(るい)さんが好きだったんだね」
「そうだったかも知れない。あまり、覚えていないけれど…。綺麗だなって、橘といる時の藤堂がすごく綺麗だなって…だから、よく描(えが)いてたんだ。橘に恋していたんだね。」
「栞が、好きな人に見せる顔だから…。」
「安西さんは、人物画、凄くうまいですよ。」
「そうかな?ありがとう」
僕は、照れ臭くて俯いた。
「私は、栞に会った日を今でもハッキリと思い出します。まるで、昨日のことのように…」
麻美さんは、そう言って笑った。
「美術部の八代君を覚えていますか?」
「覚えているよ」
「八代君の彼女の友達だったんです。私…。」
麻美さんは、そう言いながら頬を赤く染める。
「みんなで、ご飯を食べるのに誘われた日に栞に出会いました。男性が苦手だった私にとって、中性的な栞はとても素敵だった。恋の好きか、憧れとしての好きかは、わからなかったけれど…。栞といる事は、とても楽しかったんです。」
麻美さんは、ニコニコしてる。
「栞さんの事が、好きなんですね。」
「はい、大好きです。」
麻美さんのイメージが、変わった。
こんなに話すような感じは、しなかった。
「藤堂と付き合えた時は、嬉しかったんですね?」
「はい、とても嬉しかったですよ。栞に触(ふ)れるだけで、栞の一部になれた気がした。栞の闘病生活を支えながら、私は栞が話す寝言をよく聞いていました。いつも、彼の名前を呼んでいた。悲しかった。私は、男にはなれない。栞を満足させるすべを、何一つ持っていない。」
麻美さんの目から涙がポタポタ落ちる。
「それでも、目覚めたら私を抱き締めて好きだよって言ってくれるんです。それだけが、支えだった。栞は、きっと彼と結婚して子供が欲しかったんだと思います。病気を克服してから、栞は家族連れの絵を描(えが)かなくなりました。スケッチブックには、家族連れの絵が沢山描(か)いてあったのに…。それだけ、栞にとって辛かった事を私は理解しました。」
星(ひかる)さんは、麻美さんの背中を擦った。
「栞さんは、麻美さんがいたから乗り越えてこれたんだと僕は思うよ。」
「ありがとう、星(ひかる)さん。でも、いいんです。私は、栞をちゃんと救えませんでした。だから、私は誰かにちゃんと栞を救って欲しい。月(るい)さんでも、彼でも…。栞の心を救って欲しいんです。これ以上、苦しまないで欲しい。入院中は、子供を描(えが)いていたんです。栞の描(か)く子供達の絵は、ビックリするほど美しいんです。私は、栞にまたあんな絵を描(えが)いて欲しいんです。」
「芸術家を愛した人の言葉だね。」
僕は、麻美さんに笑った。
「また、あの作品を見れるなら、私の気持ちなんてどうだっていいんですよ。」
「藤堂の描(えが)く、子供の絵か…。見てみたい」
「凄く幻想的で、美しい作品ですよ。」
麻美さんは、そう言うと僕と星(ひかる)さんに写真を見せた。
「この絵は、物置にしまわれてるんです。内緒で、写真をとったんです。」
衝撃だった。
「これを藤堂が?」
「はい、入院する少し前に、私と病院に行って。麻美、描(か)きたいものがあるって。スケッチブックの絵は、この子の母親に渡していました。」
「この色使いと、この絵の雰囲気…。素晴らしいよ」
僕は、涙が溢(こぼ)れてくる。
大きな羽根に抱(だ)かれた小さな子供。
黄色や金や白の色使いで、この子は神様の子供なんだとわかる。
すごい、絵だ。
「安西さんには、やっぱりこの絵の素晴らしさがわかるんですね」
「うん、わかるよ。鳥肌がとまらない。」
「今は、描(か)けないんです。子供を見るのも嫌みたいで。」
麻美さんは、涙を流した。
僕には、わかる。
この絵を描(か)いてもらう為なら自分の気持ちなんていらないって気持ちが…。
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