上 下
97 / 100

初めまして[華の視点]

しおりを挟む
「いらっしゃいませ」

店のopenと同時に、しおりんがやってきた。

「華、ご飯食べにきたよ。」

「仕事仲間?」

「そんなとこ…」

しおりんは、そう言って笑った。

「こちらにどうぞ」

二人を案内した。

黒い大きな鞄を持つ、その人は不思議な魅力を放っていた。

「華、これにしたいんだけど…。」

「うん、作れるよ。」

「じゃあ、ワインはこれで」

「かしこまりました。」

しおりんとその人は、楽しそうに話していた。

「詩音、はい」

「栞ちゃんの知り合い?」

「そうみたい」

「華、ヤキモチか」

「中も外もイチャイチャされてるからだよ」

「栞ちゃんは、していないだろ?俺達だって、仕事中はしていないよ。公私混同してないから」

詩音の言葉に、僕はムスッとした。

ワインを取り出す。

「これ、前菜」

くぬりんが、そう言った。

「イチャイチャ禁止だよ」

「公私混同するつもりはないよ。お客様が一番のお店だから」

くぬりんの笑顔にも、イライラしていた。

僕は、ワインと前菜を持っていく。

「こちら、前菜になります。ワインです。」

ワインをグラスに注ぐ。

「華、いじけてる?」

「誰が…。」

しおりんは、ニコって笑った。

「こちら、坂月伊吹(さきづきいぶき)さん。写真家さん」

「初めまして、坂月伊吹(さきづきいぶき)です。よかったら、これを見てもらえれば嬉しいです。」

「あっ、はい」

僕は、ワインを置いて、手渡された小さなブックレットを見た。

「素敵な写真ですね」

「そう言われると嬉しいね。私は、短所を長所にかえる写真を目指していてね。例えば、この人は頬にある火傷が嫌いだった。だから、こんな風にお花と写真を撮るんだ。」

そう言いながら、坂月(さきづきいぶき)さんは笑う。

「彼女は、男の子になりたかった。だから、こんな風にお花を飾って写真を撮るんだ。」

蔦が絡まっている体、大事な場所は大輪の花で隠されていて、彼女は幸せそう。

「彼は、男の人が好きなんだよ。だけど、人には言えなくてね。だから、あえて自由になって欲しいイメージをつけてあげた」

大量の花びらに抱かれて眠ってる。

「これは…。ああー。ごめんね。ついつい、話し過ぎてしまう。本当に私の悪い癖だ。すまない」

そう言って、坂月(さきづき)さんは僕に笑ってくれた。

「いえ、全然。大丈夫です。」

「乾杯しましょうか?」

「はい、出会いに」

「乾杯」

しおりんと乾杯をしていた。

「美咲華(みさきはな)君」

「はい」

僕の名札を指差した。

「美咲君も、この傷がコンプレックスなら私が写真を撮るよ」

そう言って、自分の頬を撫でて笑った。

ドクンと胸が鳴った。

「華ー。出来たよ」

「はーい。失礼します」

詩音に呼ばれて、キッチンに行った。

フー。

しおりんの連れてきたお客さんに胸をときめかせるなんてどうかしてるよ。

「華、なんか顔、赤くない?」

「赤くないよ」

僕は、お皿を持っていく。

遅い時間から忙しくなるこの店に、早くお客さんが来て欲しいと
初めて心から思った。

「こちら、スープになります。」

「いただきます」

「失礼いたします。」

僕は、二人を見ていたくなくて下がった。

「もうすぐ出来るから」

「これ、パン。忘れてるよ」

「ありがとう、くぬりん」

僕は、パンを持っていく。

くぬりんが、一生懸命、朝から種を仕込んでいた。

「こちら、パンになります。」

「華、普通でいいよ。」

「でも、お客さんだから」

「気にしないで」

そう言って、しおりんは笑った。

化け物もついていない人に、興味をもった事は初めてだった。

「華、できたよ」

「はーい。スープお下げします」

僕は、バレないようにスープをもっていった。

「魚料理。華、さっきから顔赤いけど熱あるなら帰るか?」

「だ、大丈夫だよ」

僕は、魚料理を持って行く。

「こちら、本日の魚料理になります。」

「ありがとう」

チクッってする。

気のせいだ、気のせい。

「失礼します。」

キッチンに戻って、詩音とくぬりんを見てると少し落ち着いた。

化け物がついてない人を好きになる方法なんか知らない。

わからない。

だから、これは勘違い

勘違いだから…。


しおりを挟む

処理中です...