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拓夢の話8

悲しみ…

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まっつんの言葉と共に、電話は切れていた。プー、プーって音を暫く聞いていた。

そうだ!俺が、運命を変えたんだ。あの時、凛の話を聞いておけばよかった。

「たっちゃん」

美紗が、俺を後ろから抱き締めてくる。

「大丈夫?」

「うん」

俺は、凛を殺してしまう所だったんだ。

「行こう」

「うん」

美紗に引っ張られて、ベッドに戻った。

「たっちゃん、美紗がいるから」

美紗は、ニコっと笑って頬に手を当ててくる。

「キスして」

「うん」

ゆっくりと唇を重ねると、美紗は俺の下半身に触れる。

「何で!」

ドンッ…

美紗に押される。

「美紗」

「何で、膨らまないのよ」

「ごめん」

「私に魅力がないっていいたいの?」

「そうじゃない」

美紗が、泣き出してしまった。

「美紗、そうじゃないんだ」

「触らないで」

美紗は、腕を掴んだ俺の手を振りほどいた。

「美紗」

「今日は、帰る」

「わかった」

それ以上、引き留める力がなかった。
凛にも、美紗にも俺は拒絶された。

美紗は、立ち上がって出て行った。俺は、その姿を見届けていた。

使えなくなったか…。とうとう…。俺は、ベッドから起き上がってキッチンに行く。

冷蔵庫を開けて、そこに置いてあるものを見て涙が止まらなくなった。
俺は、鍋ごといれていたハンバーグを手で掴んだ。冷たくて固くなってる、肉の塊を食べる。

「凛、凛」

涙が流れてくる。
ハンバーグを食べながら、凛が、俺に言ってた言葉が甦る。
そうだった!凛は、俺に見つかった時を考えて言ってたんだ。
今になって気づく遅さ

俺は、凛にいなくならないって言ったのに…。

凛は、信じてって言ったじゃないか!!だから、何度も俺に抱かれたかったんだな。

信じて欲しくて…。いなくならないで欲しくて…。俺は、ハンバーグを飲み込んだ。ベタベタな手で、冷蔵庫のビールを取って開けた。

まっつんに、もう会うなと言われた。でも、俺…

凛が好きだよ

ザァー、水道を捻って手を洗う。

凛を失った事による絶望が、身体中を支配していた。

もう、戻る事は出来ない。俺は、許されない事をした。

「ゴクッ、ゴクッ」

音を立てて、ビールを飲み干した。

リリリリーンー

凛?

早歩きで、スマホを取る。

「もしもし、凛?」

『拓夢君』

「あっ」

その声を俺は、知っていた。

『元気?』

「元気だけど、どうしたの?」

『拓夢君、私ね』

「うん」

『雅俊に殴られたの』

「えっ?」

明日花ちゃんの言葉に驚いていた。付き合っていた時の拓夢君の呼び名に胸がドキドキしていた。

『今から、会えないかな?』

俺が変えた運命は、違う方向に進みだした。凛と繋がる事の出来ない方向へ……

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