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五条の視点

連絡する。

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暫く、スマホを見つめていた。

珠理に、夜に連絡する事をメッセージしておいた。

彼に、迫られたら珠理は難しいだろう。

それは、湊も同じだ。

満月は、どうしてそこまでの苦痛や痛みを味合わないといけないのだろうか…。

「五条、大丈夫か?」

「祐大さん、お風呂上がりましたか?」

「ああ、気持ち良かった。」

「五条、本当は珠理の所に行きたいんだろ?」

「いや、大丈夫。」

「そんな顔してない事ぐらいわかる。」

「祐大さん」

私は、あれから修行をしていく中で、奈良橋祐大の優しさに甘えていた。

私は、二条より能力が劣っている。

祐大さんも大竜より能力が劣っていた。

劣等感は、より私達の能力を高め合わせた。

「満月に、産まれる事は悲痛な事が多い。いや、私達も同じだね。能力を持つと言う事は、悲劇の多い人生だね。」

祐大さんは、私の髪をくしゃくしゃと撫でる。

私は、いわゆるバイセクシャルだった。

「勘違いする」

「ハハハ、もう一年近くこんな修行をつんでるのに、何を今さら…。俺を好きになったか?それとも、興味か?」

「優しくされるのに、慣れていないだけだ。」

「両方いけるのは、俺だっておなじだよ。五条、別に近しい血縁ではない。恋人になったって、誰にも咎められる事はない。」

「優しすぎるんだよ!祐大さんは…。誰にでも、そんなに優しい」

「誰にでもじゃない。五条だから、優しくしてる。」

「いや、能力が高まったらお見合いするって聞いてるから」

私は、祐大さんから離れる。

「それは、五条もそうだろ?」

「まあな。」

「だったら、それまでを楽しもうじゃないか?宝珠と喜与恵のように…。」

「ふざけた事言ってんなって!」

「五条、また銀髪になったな!」

「触(さわ)るな。」

「冷たいね。」

祐大さんは、私から離れた。

昔から、この人は優しい。

結婚をしたい程、愛していた女に捨てられたのを知ってる。

私も同じだった。

「能力の強さが、子孫繁栄に影響するって知っていたか」

「知ってるよ」

「祐大さんは、それでも子孫欲しかったか?」

「そうだね。でも、駄目だった。宝珠と同じだった。五条もだろ?」

「ああ」

「今さら、女とお見合いしてどうなる?あの日々のように、罵倒されるだけだろ?それなのに、両親はなぜ?女とくっつけたがるのだろうか?自分の子供が普通であって欲しいと言う願いなのだろうか?能力が、ある時点で普通ではないのにね」

「確かに、そうだな!満月とは、違うと思いたいんだろうな。満月みたいなのとは、違う。自分の子は、正常だとね。精子がない息子のどこが、正常なのか笑ってしまうな!」

私は、祐大さんに笑った。

「献上されたのか?五条も」

「貢ぎ物だな!能力の強いものは、子孫繁栄能力がない。もっと早く結婚しとけばよかったよ。」

「広大は、豊澄が生きてる間は二番だったから子孫繁栄出来たのだね。私は、大竜の方が上だったけれど、奈良橋では一番だったから…。悲しい運命(さだめ)だね。」

「そうだな」

強き能力者は、子孫繁栄させない為に子種をあの方に献上する。

その契約に、苦しめられ命をたつものまでいる。

「俺は、美奈子と結婚したかったんだよ。」

「精子がない事を知って、その人は?」

「無能、能無し、価値無しだって言われたよ。イケメンだから遺伝子が欲しかったって言われたよ。五条も同じだろ?」

「わかるよ。私も、真奈美に言われたから…。人生で初めて結婚したいと思った。でも、必ず検査しなくちゃしたくなかったから…。傷ついたよ!あれは、夢じゃなかったんだなってショックだった。宝珠や二条が死にたい理由が、わかったよ。私は、結婚したいと思ったのが39歳だったから…。気にしていなかった。愛した人間に、人としての烙印を押される事は、死ねと言われてるのと変わらなかった。」

「わかるよ。五条」

祐大さんは、私に近づいて抱き締めてくる。

「まだ、傷が癒えていないんだろ?それが、堪らなく辛いんだろ?」

「ああ、そうだな。乗り越えたつもりだったのに、目につく子供や子供の写真が、私を死ぬまで苦しめる。そこにきての、女の人とのお見合い。祐大さん、まだまだ能力を高めないでいよう」

「五条、わかるよ。気持ちが手に取るようにわかる。」

祐大さんの腕に包まれながら泣き続ける。

人生は、長く続く拷問だと思った。

だったら、いっそ。

そう思った私を三条が怒鳴りつけた。



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