2 / 18
人のもんはとったらアカン
しおりを挟む
兄のアパートから、徒歩で10分。
桜の木が目印のそのマンションの五階に、和沙(かずさ)さんは住んでいた。
何度か、兄に呼ばれて遊びに来ていたからよく知っていた。
ピンポーン
ガチャ…。
「あー。九你臣(くにおみ)君」
「昨日は、どうも」
僕は、段ボールから真っ赤な日記帳だけを取り出して和沙(かずさ)さんに段ボールを渡す。
「捨ててくれてよかったんやけど」
「母が持っていけと」
「じゃあ、自分で捨てるわ」
「すんません。ほな」
「その、日記帳」
そう言われて、立ち止まった。
「これですか?」
「人のもんは取ったらアカンね。すぐ、死んでしもた」
「えっ?」
「たっくんの話。それ、忘れられへん女の日記帳って知ってた?」
「えぇー。」
「知らんかったんや。最後に書いてんで、あの桜の下で待ってますって。この辺で言ったら、あの桜並木ちゃうんかな?」
「会えるんかな?」
「さあ?桜の季節に行ったら、おるんやない?じゃあね。」
そう言って、和沙(かずさ)さんは扉を閉めた。
桜の季節は、もう始まっていた。
僕は、自転車のカゴに乗せてアパートに戻った。
「九(きゅう)、いい加減。フリーターやねんから、家(うち)に戻ってきなさい」
アパートの下で、母親が待っていた。
父親が、車で迎えに来ていた。
「九(きゅう)、ごめんやで。お母ちゃん、九(きゅう)に戻ってきて欲しいねん。龍臣みたいにいなくなって、ほしくないねん。だから、考えたって。な?」
「お父ちゃん、行くで」
「あー。はいはい」
「気ぃつけてな」
「はいはい。ほなな」
「はいはい言いなや」
父は、母に怒られて帰った。
父が、九(きゅう)と呼ぶ時は、お願い事がある時だった。
僕は、自転車に乗って自分のアパートに帰った。
「なあ?九(きゅう)。」
「なんやねん」
「30歳なるまで、実家に帰ったってや、アカンか?」
「えー。おかん、五月蝿いやんけ」
「そうやけど、俺がいななったら。おかん、毎日泣くやろ?俺、おかんには笑(わろ)てて欲しいねん。なあ?一生のお願いや、九(きゅう)」
「死にかけてんのに、一生のお願い使うんズルいやろ。一生って何回あんねん、ボケーって突っ込み出来へんやろが」
亡くなる一週間前に言われた言葉。
病室を出て、僕は泣いた。
どんどん痩せていく体に、死期がもうそこまできてるのを感じていた。
家に帰って、真っ赤な日記帳を開いた。
夏目美様 梅井芽衣子
と書かれている。
「夏目なんや?みか?びか?なんやねん」
アホな僕には、読み方がわからなかった。
梅井芽衣子って、誰やねん。
そうや。
僕は、スマホを取り出して兄の親友にかける。
プルルル
『もしもし』
「もしもし、竹君。僕やけど」
『あー。九(きゅう)か。どないしたん?』
「夏目みか?びか?って、知ってる?」
『誰やねんそれ』
「美しいって、漢字一文字やねんけど。国語1やったからようわからん」
『アホの自慢すんなや。あー。それでわかったわ。夏目美(めい)やわ』
「えー。これで、めいって読むん?」
『当て字やろ?で、それがどうしたん?』
「どこに住んでるかわかる?」
『あー。調べてみるわ。今日、仕事終わったら会えるか?』
「うん。僕は、フリーターやから大丈夫やで」
『了解。じゃあ、仕事終わったらかけるわ』
「はい」
プー、プー。
兄の、若龍臣(わかたつおみ)と竹富行臣(たけとみゆきおみ)は、幼稚園の頃からの幼なじみで大親友だ。
二人は、イケメンツートップの若竹コンビと呼ばれていた。
兄とは、五つ離れていたがそれが自慢だった。
小学校二年まで、兄は同じ小学校にいた。
「若様の弟君」と上級生に呼ばれ、チョコレートをたくさんもらった。
モテ期があるなら、あの時代だけだった気がする。
中学、高校と、頭の悪い僕は女子に一ミリもモテる事はなかった。
そして、僕はそのまま25歳を迎えた。
非モテなだけで、童貞ではない。
ちゃんと卒業した。
って、何を考えてるんだ。
僕は…。
胸を張って言える卒業ではないじゃないか…
僕は、日記帳を見つめていた。
桜の木が目印のそのマンションの五階に、和沙(かずさ)さんは住んでいた。
何度か、兄に呼ばれて遊びに来ていたからよく知っていた。
ピンポーン
ガチャ…。
「あー。九你臣(くにおみ)君」
「昨日は、どうも」
僕は、段ボールから真っ赤な日記帳だけを取り出して和沙(かずさ)さんに段ボールを渡す。
「捨ててくれてよかったんやけど」
「母が持っていけと」
「じゃあ、自分で捨てるわ」
「すんません。ほな」
「その、日記帳」
そう言われて、立ち止まった。
「これですか?」
「人のもんは取ったらアカンね。すぐ、死んでしもた」
「えっ?」
「たっくんの話。それ、忘れられへん女の日記帳って知ってた?」
「えぇー。」
「知らんかったんや。最後に書いてんで、あの桜の下で待ってますって。この辺で言ったら、あの桜並木ちゃうんかな?」
「会えるんかな?」
「さあ?桜の季節に行ったら、おるんやない?じゃあね。」
そう言って、和沙(かずさ)さんは扉を閉めた。
桜の季節は、もう始まっていた。
僕は、自転車のカゴに乗せてアパートに戻った。
「九(きゅう)、いい加減。フリーターやねんから、家(うち)に戻ってきなさい」
アパートの下で、母親が待っていた。
父親が、車で迎えに来ていた。
「九(きゅう)、ごめんやで。お母ちゃん、九(きゅう)に戻ってきて欲しいねん。龍臣みたいにいなくなって、ほしくないねん。だから、考えたって。な?」
「お父ちゃん、行くで」
「あー。はいはい」
「気ぃつけてな」
「はいはい。ほなな」
「はいはい言いなや」
父は、母に怒られて帰った。
父が、九(きゅう)と呼ぶ時は、お願い事がある時だった。
僕は、自転車に乗って自分のアパートに帰った。
「なあ?九(きゅう)。」
「なんやねん」
「30歳なるまで、実家に帰ったってや、アカンか?」
「えー。おかん、五月蝿いやんけ」
「そうやけど、俺がいななったら。おかん、毎日泣くやろ?俺、おかんには笑(わろ)てて欲しいねん。なあ?一生のお願いや、九(きゅう)」
「死にかけてんのに、一生のお願い使うんズルいやろ。一生って何回あんねん、ボケーって突っ込み出来へんやろが」
亡くなる一週間前に言われた言葉。
病室を出て、僕は泣いた。
どんどん痩せていく体に、死期がもうそこまできてるのを感じていた。
家に帰って、真っ赤な日記帳を開いた。
夏目美様 梅井芽衣子
と書かれている。
「夏目なんや?みか?びか?なんやねん」
アホな僕には、読み方がわからなかった。
梅井芽衣子って、誰やねん。
そうや。
僕は、スマホを取り出して兄の親友にかける。
プルルル
『もしもし』
「もしもし、竹君。僕やけど」
『あー。九(きゅう)か。どないしたん?』
「夏目みか?びか?って、知ってる?」
『誰やねんそれ』
「美しいって、漢字一文字やねんけど。国語1やったからようわからん」
『アホの自慢すんなや。あー。それでわかったわ。夏目美(めい)やわ』
「えー。これで、めいって読むん?」
『当て字やろ?で、それがどうしたん?』
「どこに住んでるかわかる?」
『あー。調べてみるわ。今日、仕事終わったら会えるか?』
「うん。僕は、フリーターやから大丈夫やで」
『了解。じゃあ、仕事終わったらかけるわ』
「はい」
プー、プー。
兄の、若龍臣(わかたつおみ)と竹富行臣(たけとみゆきおみ)は、幼稚園の頃からの幼なじみで大親友だ。
二人は、イケメンツートップの若竹コンビと呼ばれていた。
兄とは、五つ離れていたがそれが自慢だった。
小学校二年まで、兄は同じ小学校にいた。
「若様の弟君」と上級生に呼ばれ、チョコレートをたくさんもらった。
モテ期があるなら、あの時代だけだった気がする。
中学、高校と、頭の悪い僕は女子に一ミリもモテる事はなかった。
そして、僕はそのまま25歳を迎えた。
非モテなだけで、童貞ではない。
ちゃんと卒業した。
って、何を考えてるんだ。
僕は…。
胸を張って言える卒業ではないじゃないか…
僕は、日記帳を見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる