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結末なら知っている

東子の話③

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「ごめん」

私は、鞄からハンドタオルを取り出した。

「ごめん、火傷してない?」

「大丈夫」

「じゃあ、帰るね」

拓実君は、泣いていた。

私は、また君を傷つけてしまうんだね。

「待って」

そう言って、腕を引っ張られた。

「離して」

「嫌だよ」

「私、もう結婚してるの」

「知ってるよ」

これは、不貞なんだよ。

「やっちゃ駄目なんだよ」

「知ってるよ」

それなのに、私は拓実君の傍に座った。

「染みになっちゃうから、脱いで。洗うよ」

私は、拓実君のシャツを脱がす。

「とこちゃんとしたい」

「もう、初めてじゃないよ」

「いいよ。だって、とこちゃんが好きな所を俺は何も知らないんだから…」

「でも、駄目な事なんだよ」

「わかってる」

「バレたらいけないんだよ」

「わかってる」

「だったら…」

「やめれないよ、とこちゃん」

拓実君は、私の頬に手を当ててくる。

「拓実君」

「とこちゃん」

そう言って、唇を撫でてくる。

「沢山の人を抱いたんでしょ?」

「うん」

「同じやり方は、やめて」

「どうすればいいの?とこちゃん」

「初めて見たいにしよう」

「カーテン、閉めようか?」

「うん」

拓実君の部屋は、カーテンを閉めると昼間なのに真っ暗になった。

拓実君は、私を立たせた。

「こっちに来て」

そう言われて、ベッドに連れてこられた。

「何も見えないよ」

暗くて、目を凝らさないとよく見えない。

「テレビぐらいつける?」

「うん」

拓実君は、テレビをつけて音を消した。

「邪魔かな?」

「確かに、チラチラするね」

「消そうか」

そう言って、消した。

むず痒くて、恥ずかしい。

「私、若くないから」

「気にしないよ」

「豆電球つけようか?」

「うん」

拓実君は、ベッドにあるリモコンで、豆電球をつける。

さっきよりも、よく見える。

私達は、向かい合わせで座っていた。

「とこちゃん」

「拓実君」

「キスしていい?」

「うん」

私は、ゆっくり目を閉じる。

裏切りなのは、わかっていた。

唇がゆっくり重なっていく。

あの時、したかったキスがされていく。

「ハァー」

吐息が漏れた。

「とこちゃん、もう無理」

そう言って、拓実君は私を押し倒した。

再会で、ついた火種はいっきに燃え上がっていく。

赤ちゃんを亡くした後悔と、なかなか妊娠できない罪悪感、許せない夫への気持ち、気を遣われて疲れる義理両親の態度…。

全部が、ゆっくりと心の奥深くに沈んでいくのを感じる。

「とこちゃん、どんなのが好きか教えて」

そう言って、私の下半身に手を持っていかれた。

夫に沢山抱かれてきてるから、自分のされたい事はわかっていた。
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