愛してる。由紀斗&千尋

三愛 紫月 (さんあい しづき)

文字の大きさ
8 / 18

やってしまった、俺

しおりを挟む
「何してんだよ。」

入ってきた井田さんに、叩かれた。

パリン…

机にフラッと当たった反動でマグカップが割れた。

「ごめんなさい」

とっさに謝った。

「だから、嫌だったんだよ。両方いけるやつは」

そんなつもりじゃなかった。

ただ、あまりにも悲しそうな瞳(め)に抱き締めてしまった。

「真白(ましろ)、怒りすぎだから」

梨寿(りじゅ)さんは、そう言った。

「マグカップ、私が片付けるよ」

「じゃあ、ご飯するね」

梨寿(りじゅ)さんは、キッチンに行った。

「ごめん。」

井田さんは、俺を睨み付けた。

一緒に、破片を拾う。

「由紀斗さんが、梨寿(りじゅ)の事まだ好きなのもわかる。梨寿(りじゅ)が、由紀斗さんをまだ好きなのもわかってる。でも、私は絶対に渡さないから」

「わかってるよ。俺だって、渡すつもりないから」

井田さんは、柔らかい笑顔を浮かべてくれる。

「悲しそうな顔してたんだろ?」

「えっ?」

「梨寿(りじゅ)と何の話してたか知らないけど…。悲しい顔してたんだろ?」

「何でわかるんだよ。」

「梨寿(りじゅ)の事、好きだからわかるよ。どうしようもないぐらい、抱き締めたくなるぐらい悲しい顔する時がたまにある。」

「そっか」

「その時、抱き締めてあげないと梨寿(りじゅ)は消えちゃうんだ。知ってるよ。見てきたから…。」

「消えちゃうって?」

井田さんは、話をやめた。

「これ、袋ね。小さい箒とちりとり。掃除機とってくるね」

「うん」

梨寿(りじゅ)さんは、掃除機を取りに行った。

「とにかく、また今度話すよ。今回だけは、許してやるよ」

井田さんは、そう言った。

消えちゃうって、どういう意味なのだろうか?

「掃除機するから、どいてね」

「はい」

梨寿(りじゅ)さんは、コードレス掃除機で掃除をしてくれた。

消えちゃうって言葉が、ずっと頭の片隅に引っ掛かっていた。

「おはよう」

由紀斗が、降りてきた。

「おはよう、千尋」

「おはよう」

「トラック借りに行かなきゃな」

「うん」

梨寿(りじゅ)さんは、朝御飯を持ってきてくれる。

「手伝うよ」

井田さんも、手伝いに行く。

俺は、由紀斗を見れなかった。

「何か、あった?」

「ううん」

梨寿(りじゅ)さんを抱き締めた事が、ばれたくなかった。

「食べようか」

「うん」

井田さんも梨寿(りじゅ)さんもなかった事にしてくれていた。

向い合わせで、席に座る。

俺は、やけに喉が乾いた。

「いただきます」

「いただきます」

四人で、食卓を囲む。

目の前の井田さんが、人差し指を押し当てた。

黙ってくれるようだった。

俺は、小さく頷いた。

「由紀斗、今日はベッド運んでくれるんだよね?」

「ああ、解体して持ってくよ」

「わかった。」

女の人は、強い。

梨寿(りじゅ)さんは、何事もなかったように由紀斗に話していた。

俺には、出来なかった。

朝御飯を食べ終わった。

井田さんが、俺に話しかけてきた。

「何事もなかったようにしなきゃ、怪しまれるよ」

そう言われた。

「女の人は、すごいよ。俺は…」

「ハハハ、そりゃそうだよ。私と関係持ってたんだから梨寿(りじゅ)は…。まあ、普通にしときなよ」

「ありがとう」

俺は、由紀斗の元に行った。

「トラック借りていこうか?」

「うん、あ、あのさ」

ブー、ブー

「ごめん」

由紀斗は、電話に出た。

「もしもし、えっ?急に無理だよ。」

何やら、怒っていた。

電話を切って、俺を見た。

「ごめん、今日の夜。梨寿(りじゅ)と実家に行かなくちゃならなくなった。」

「そうなんだね。」

「ごめん、千尋。井田さんと一緒にいれないよな?だったら、一緒に」

「無理だよ。俺が行ったら、ご両親に怒られるよ。井田さんが、いても部屋にいればいいから」

「ごめん」

由紀斗は、俺を抱き締めてくれた。

謝らなくたっていい

俺は、さっきした事が頭の中に流れていた。

「さっ、用意して行くか」

「うん、先に降りてて」

「わかった」

由紀斗は、先に下に降りていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

処理中です...