私(僕)は彼(親友)の肉体派令嬢(ボディガード) 。だけど親友にとっては……婚約者候補!?

書くこと大好きな水銀党員

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私は令嬢

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 私は部屋から出ず、母親も父親もいない部屋で一人、ご飯を食べる。親友は来ず。ただ、時間を貪り一人ベットに横になる。

「……」

 間違いが起きた。目を閉じると思い出すほど強烈な思い出。その一線を軽く越えて来た親友によって私は僕を忘れてしまった。

「……気持ち良かったな」

 感想はそんなもの。抵抗出来ずに終わった結果、何か無気力になった。終わりを感じ、天井を見続ける。

「何処へ行ったのだろうか?」

 わからない。もう、どうすればいいか。





 商家は膨大な金を持ち。金に比類する権力者になる。故に王家である自分のおこずかいは相当な額になる。信用出来る。学園内で出会った騎士に声をかけてついてきて貰っている。

「すまないね。学園サボりに付き合わせて」

「いいよ。別に……鍛えたもん使わないと損だ」

 筋トレ仲間の兄弟3人には専用の武具を贈呈した。王子様の親衛隊の3人。彼らの家は嬉しそうに貸し出した。そう、政治利用だ。王族として私が勝てばその家を厚遇してくれると言う事だ。まぁ……厚遇するのはもちろん仕事すると信じての事だが。

「で、目的の家はここですか? 待っていればいいですね」

「ああ、物音したら突入。何も無かったらいい」

「なるほど。わかりました……交渉って奴ですね」

「そうだな」

 豪華な屋敷、使用人もちらほら見える。庭師などもおり。使用人の服装がドレスなので金持ちなのが伺えた。メイド服ではない。ドレスなのだ。綺麗な女性が多いが……あの子に似合うドレスかと考えてしまう。

「いかんな、今は……奴に集中しよう」

「どちら様にご用件でしょうか?」

「ミルク・アッサム令嬢に要件だ。名はテルミドール。家名はしらないわけではないだろう?」

「はい、こちらへ」

 俺はそのまま屋敷に入る。彼女も今は学園をサボっている。令嬢の一部が結託している故に学園内の空席でわかる。調べがついている。

 案内された家の中は調度品ばかりで異常にキラキラしており成金趣味を思わせた。あまり生活するには目に優しくない。

「あ~ら~どちら様~と思ったら~王子様~」

「ミルク・アッサム。喜べ……来てやったぞ」

「はあぁい。嬉しい」

 ふわふわしてるようで。抜け目の感じさせない令嬢だ。彼女の寝室に案内され、ドカッと席に座り要件を伝える。

「君の家と俺で取引に来た。残念ながら……『やりすぎた』君たちは俺に怒りを買った事をどう思ってる?」

「わ~た~し~わぁ~いい場所にいる。王子様に近い場所にぃ~」

「では?」

「関わった令嬢全員の名簿をお渡ししますわ。それで~彼女の秘密もぉ~お教えします~」

「簡単に裏切るのだな?」

「元々は『王子様を護るための仕事仲間』です。その関係であの子と仲良くなってお仕事してましたけど。何人かの仲間が『謀反』を起こしてそれに皆が従っただけですわ。私一人では……弱い」

 ふわふわの口調から一変、しっかりとした物言いに驚く。

「王様の命を曲解して、排除しようとしているのは、王室反対過激派と変わらないですわ。それにお馬鹿なのは排除しても『自分が選ばれる保証』がないのに結託してる。終わったら身内同士の争い。結託し、排除。ループですわ」

「それをわかってるんじゃないのか? 皆は?」

「怒り、都合のいい考え、夢を見る。王子様とか私なんかが予想できないほど『人は完璧に動かない』生き物ですよ? それを踏まえると……私が裏切る事さえ予想しないんです。愚かと思いますか? それが人間です」

 ふわふわした令嬢から語られる話は酷く大人な意見だった。だからこそ恐ろしくもあり、納得出来る部分もある。

「そうだ。愚かだな。俺も君も。選択を間違える事がある」

「わかっていただきありがとうございます。こちらが名簿と正体の報告書になります。霊能者、占い師、私の魔法などちょっと信じるには不安要素しかない所ですが。そこまでしないと『わからなかった』存在です」

「知る必要があるんだろうか?」

「私は……二人の仲を知っていますから。助言をいいますとそうです。知らなければ必ず破綻します。表情見てませんか? 辛そうな表情を悲しい表情と我慢してる表情を。私は不安要素を消すほど納得しましたよ」

「……」

 泣く表情だろうか?

「ほら、愚かですね。私は気付きました。では、王子様は果たして……溶けた魔法で逃げた姫の『落としたガラスの靴』を拾えるでしょうか?」

 挑発に俺はペースを乱されていることに気が付く。

「ああ、愚者だ。だから、この情報を買おう」

「ありがとうございます。これからもアッサム家をご贔屓に」

 底知れない。彼女に俺は逃げるように屋敷を出る。そして……待っている3人にお礼と状況を説明する。

「ミルク・アッサムの皮の面は鎧より固く厚い。気を付けろよ」

 3人は唾を飲み。自分も掌の上で転がされている気がする。

「ありがとう、3人とも……無事で良かった」

「怖い話だなぁ……本当に」

「治安が悪いんだ。お金の使い道がおかしくてな」

 本当に治安が悪い。どうにかならないかと本当に思
うが……予算削減により騎士が今は弱い時代なのだ。






「入るけどいいか?」

「……はい」

 私は夜中に彼がやってきたのを受け入れる。あんな事があった次の日なのにも関わらずだ。そして、そんな彼が紙を持って現れ、椅子に座る。

「飲み物用意します」

「待ってくれ、この紙は君の調べられた物だ。君の前で読むか考えてる」

「!?」

 私は背筋が冷えた。終わりが近づいていることを感じている。そして……覚悟しないといけないと察し対面に座って素直にその時を待つ。

「断罪の時です……どうぞ」

「……このまま燃やしても良かったんだが……護ると決めたから。知らないとどうしようもない」

 心臓が苦しい、だがこれは私が黙って居たことが悪いのだ。出会ったあの時に言えていれば……良かったのに。

「……そこまで恐れるのは本当に無視できればいいが。弱味を握られる弱点になるし。それ以上の仲になるには俺は必要と考える。すまないが待っていてくれ」

 苦しい、息苦しさを感じながら胸に手をおき服を掴み続ける。そして……彼は中身を見た。そして……表情が曇る。

「えっ……いや。そうか……」

「……」

「メリル・ウォルブラッド。君だった……のか……」

 私は小さく頷いた。

「ごめん……もっと早く言ってあげれば……間違える事なかったのにね」

 彼は報告書に火を着けて皿に置く。そのまま立ち上がり……私の横へ来る。私も立ち上がり、身を委ねた。もう何も考えない。

「俺……君になんて酷い事をしてたか、わかった。謝らせてほしい」

「……?」

「俺がずっとわがままで……知ったときにこんな気持ちになることを考えたから黙っていたんだろう?」

「……えっと」

 何か思っていた反応と違い。私は狼狽える。

「君が嫌がっていた理由が全部わかった。全部、俺が不快感を持たないように配慮してる。それなのに……俺は……知らない事をいいことに……好き勝手しすぎた」

 スッと私を抱く親友。珍しく……珍しく、泣いていた。あの日、失ったと思った日のように。

「近くに居たんだな。生きてて良かったよ……それが一番だ」

「えっと……その。怒らない?」

「……俺も君に酷い事をした。怒られるのは俺の方だ。わがままばかりで困らせてすまない」

 泣きながらぐずりながら。私を離そうとしない彼に私も涙を流す。ああ、本当に親友を信じてなかった私は情けない。そんな愚かな男なら……すでに殺していただろう。

「ごめん、ずっと黙ってて……ただいま」

「ああ、おかえり。メリル」

 私は彼が離してくれるまでずっとそうしていた……暖かい。すごく……暖かい。






 ひととおり落ち着つき。ソファーに座って私は……彼に問う。

「気持ち悪がらないの不思議」

「……いや、元々。俺の初恋君だったし。素直に綺麗だからなぁ。おっぱい大きいし柔らかいし」

 視線の先にゾクッとして胸を隠す。

「このエッチ!! ばか!! あほ!! ずっと避けて逃げてたのにこの変態!!」

「知らなかったんだよ!! おめぇ!! 自分の体を見てみろ!! 手入れだってしてるんだろ!!」

「………うぐ」

 わからないわけではない。自分の胸を持ち上げて……口を一文字に結ぶ。気付いてないわけではない。

「スタイルいいよなぁ。正体知っても、女にしか見えねぇし、実際……令嬢たちの中でもかわいい部類だから俺の目についたんだよな。強いしさ」

「うぅ」

「おっ照れるねぇ。親友に見せるには恥ずかしいかな? 残念、俺は全部知ってる」

「殺す!! 今ここで!! 殺す!!」

「まぁまぁ……不可抗力だ」

「不可抗力!! 力が弱まってるときに媚薬を飲ませて!! 男としてダメでしょ!!」

 堰を切ったように偽りのない言葉が出せる。なお、親友は満面の笑みで余計に怒りが生まれる。あんなにもあんなにも悩んで泣いて苦労したのに……

「あれ、媚薬じゃなくて……回復と避妊薬の合成薬だぞ。あの日は……お前も」

「ぶっ飛ばす!!」

 立ち上がり椅子に座ってる彼の胸ぐらを掴む。

「真っ赤だぞ、まぁ俺は……腹括った」

「あああああああ」

 もう言葉にならない、悔しい。余裕があるのが……そして……苛立つ。

「なんで、こんな親友を好きになちゃったんだよ……私は」

「うっ……その。ごめんな。俺がいい男で」

「男に戻る。そこに薬あるから」

 流石にイラッとした。

「ダメだ!! お前も責任とれよ!! おれの純情もてあそんだんだからな!! どれだけ気を引こうと苦労したか!!」

「遊んでない!! 勝手に付きまとって……」

 親友と目が合い。沈黙が訪れる。ああ、もう本当に僕はもう居なくなったんだと感じる。ゆっくり彼が腰に手を伸ばし、顎に手を添える。

「流石に拒絶しないよな? 今は」

「………何も言わない。黙ってやって」

 私はもう、委ねるしかない。静かに目を閉じてただただ彼に委ねた。





「こんなのおかしいよね」

「何が?」

「親友同士で……ベットで起きるなんて」

 眠るに深く。朝起きて体に布を引き寄せる。

「隠すことない」

「……女になればわかる。こんなのやっぱおかしい」

「じゃぁ一生わからないな。どうする? 結局、聞くけど他の女と俺がくっついてるの……想像出来る?」

「……」

 親友だと知って気の知れた仲だと隠す事をしなくなった親友は……本性を見せる。嫌らしい、質問をして私を困らせる。昔みたいに。

「出来る……私を困らせるならすると思える。悪戯に笑って……でも。私が親友だからね!!」

「親友にしては……嫉妬するじゃん」

「こ、婚約者に……な、なる?」

 恐る恐る問いかける。ぎゅっと布を強く握りしめて。

「よろしい。だが手遅れだ。既に君は婚約者。それも認められたね」

「え、許可してない」

「魔石に音を覚えさせ、それを君の親に聞かせている。証拠として十分だろう?」

「……お前!! まさか!!」

 私は震える。想像出来る最悪な状況を。

「孫の顔を期待してるそうだ」

「死ね!! 一回、死ね!!」

 流石に我慢出来ず首を締める。だが、まだ本調子ではなく鍛えられた首を締めるには力が足りない。

「まだ弱いな。君は家に居て療養し、元気になったらそのまま……学園へ行こう。君を殺そうとした奴らを見せしめにしないといけない」

「……いったい何を?」

「君を殺そうとした奴らの名簿を貰った。わかるかな?」

 ゾワッとする気配に私は覚悟を決めた。血生臭い匂いで私はペロッと舌を出す。死んだと思った僕が帰ってくる。這いずって登ってくる。






「もう大丈夫か? 体は」

「大丈夫、肩は重いけどね。重いよこれ」

「外で揉むなバカ」

 ニヤニヤしながら、親友を見る。

「どこ見てるか知ってるんだからね」

「ぐうの音もでねぇ……令嬢らしくしてな」

「わかってる。でも、学園で何が?」

「断罪、主犯を裁く」

「どうやって?」

「もう段取りは終わってる。さぁ、公演所へ行こうか」

 私は彼に従いついていく。すると……何人かの令嬢が待っており頭を下げる。各々に挨拶を私たちはして、公演所に入った。公演所内はすでに人が集まっている。

「王室派の息子、娘たちだ。君の事を話したら喜んで強力してくれたよ。馬の骨も知らない令嬢じゃなく。昔から付き添ってる令嬢なら話が違う。顔を覚えておけよ……君は彼女らのトップなるんだから」

「……はい」

 覚悟した、それはもう。普通の生き方が出来ない事を意味する。如何なる時も女王としての振る舞いを求められる。それゆえに大変だと言うことを。

「他の女が……俺の嫁になるにはちょっと器が小さいんだ。わかるな?」

「ええ……」

 公演所には……中央に縛られた令嬢が並び。両脇に騎士と何人かの令嬢が連なっている。中にはミルクの姿もあり、手を振ってくれる。驚いた……彼女は許されたのか?

「ミルクは不問?」

「彼女は……面白い娘でね。『王室派、女王候補派』という派閥で。途中、君が婚約者になる予想を立て支援方法を模索していたようだ。面白いのは君の事を信じて敵の罠を引き受けて信頼を勝ち取った。暗殺者の一人だよ」

「あの日、私の首を落とそうとしたのを許せと?」

「落ちないのを信じてたらしいな。実力を知っていたんだよ。仲間だったんだろう?」

 私は深い溜め息を吐く。とんだ小娘だと思ったが……逆に彼女のおかげで謀反者を見つけられた。また、聞けば私を調べて彼の背中を押したのだからそうなのだろう。そんな集まりの中で親友は中央に立ち、私も一歩後ろで身構える。布を口に押し付けられた令嬢は喋る事が出来ない。

「彼女……私との縁を残してうまいことしましたね」

 私は愚痴り、親友は公演所の中心で口を開いた。

「えっと、では謀反者の裁判を行う。なお、学園内での事なので法律も関係ない。ただ、罪を明確にするための事だ」

 それは無慈悲なお家潰しにつながる。家は反逆者のレッテルが張られて没落するだろう。わかっているのか泣き出す令嬢もいる。

「ええ、では彼女達の裏切りを話すより。まずはここに居る方々に感謝を。反体制暴力集団から王を護り、私を護ってくれている事を感謝を述べさせていただく。ありがとう」

 私にアイコンタクトをする。私も深々と頭を下げて感謝の言葉を口にする。一連の動作で……私は親友の物になる実感をする。これは……私が正当な婚約者であること。そう、いつか王妃になる事を私は予見した。もう既に親友は王になるつもりだ。後継者争いに首を突っ込んでいる。

「で、一応彼女は正式な婚約者である。襲撃前からのね。君達に報告が遅れた事を謝罪するよ。護衛としてずっと私を支えてくれた幼馴染みだ。時に男性を演じて、時に女性を演じ……指で数えるのが無理なぐらい助けられた」

 懐かしい思い出が甦る。殺した襲撃者。盗まれたおやつ。一緒に入ったお風呂で喧嘩。

「婚約者にするには手が汚れすぎていると思うかも知れないが……俺を殺そうとする奴を護るのに必要な事。それよりも治安の悪い今を体現している。君達は知っているだろう? 最初の襲撃。あれが日常だ」

 緊張感が走る。若い子だからこそ、わからないだろう。その死が隣にいることを。

「君達もそれをわかってほしい。そして……それに従事する君達は誇りだ。しかし!!」

 親友が指を差し、令嬢に向かって怒声を発する。

「その任務を放棄し!! 反王政、反政府派の暴力者達と同じ暴力で婚約者を殺そうとした。金の力で従え、釈放されているが!! その罪は重い!! わかるな? 私の婚約者と言うのはいずれは王妃だ。それを殺そうとするのは裏切り者だろう」

 私は狼狽える。堂々と王妃と言った事に、表情に出さないが背筋が汗でびっしょりだ。暗殺者一家が王族へ。それも王妃と言う。それも恐ろしいが私はこれから王妃としての振る舞いを考えないといけない事が確定した。早い、早すぎる。

「罪状はわかったな。では、どうするべきかを問う。私は護衛隊解雇だけしか権限はない。それでよろしいなら……声をあげないでくれ」

 静まり返る中である一人の騎士が声をあげる。

「一方的な断罪です。ここは裏切り者の弁明を聞きませんか? 王子様も婚約者の報告の義務を怠ったでしょう」

「よし、わかった。では布を外せ」

 声を上げた騎士はどうみても筋肉粒々なあのトレーニングで合った騎士で言わせた感じがする。令嬢たちの布が外され、声を出す事ができた。

 令嬢の中には『お許しを』や『ごめんなさい』などが交じり。言葉の謝罪ばかりで弁明は聞こえない。

「謝罪しか聞こえないなぁ。弁明はないのか?」

 その言葉に反応した令嬢が一人喋る。

「私は王子様を慕い、そして、その王子様に悪い虫が着くと思い行動を移しました。婚約者と聞いておらず、それに暗殺者家と聞いておりました。そんな方を国母とするには他国や国民は恥ではないですか? 私の行動はある意味で王政派の考える事とも思います」

 私はそれに関してごもっともと思う。私の家は褒められるような家柄ではない。

「そうだな、家柄は褒められた物じゃないだろう。では逆に問うが……私に似合う令嬢を今ここで紹介して貰おうか? 誰がいる?」

「それは……」

 私はなんて恐ろしい事を聞くのだろうと思った。今のこの時に手は上がりにくいでしょうと。私ですと言わないのは……言った瞬間。それは私利私欲で動いた証明になる。また他の令嬢も手を上げるには勇気が必要だった。

「では、婚約者に問うが俺の前に立って楯として死ねるか?」

「えっ、もちろん。今も見張ってます。当たり前の事を……なにをおっしゃいますか?」

 そういう生き方をしてきた。この場で庇って死ぬ事もいとわない。

「答えは単純だが。それが出来る令嬢は中々いない。同じ事を出来る方がいるなら聞こう。この場で騎士に囲まれても勝てる自信があるならな。国民感情、王政派の前に……俺が死んだら終わりだ」

 目の前の令嬢が私を睨む。そして……口でモゴモゴして私は察して口から出てきた物を避ける。驚いたのは令嬢と周りの目のいい騎士。その令嬢は取り押さえられる。

「え、何が?」

 彼には見えなかったようだ。

「見えなかったのですか? 毒針です。口から魔法と息の勢いだけで攻撃する暗殺方法です。避けなくて良かったんですけど……顔が傷は流石に罪が重くなるでしょうから」

 神経が研ぎ澄まされている。今なら直感で裏切り者見つけて始末出来そうだ。

「布を外すと危ないのがわかったよ。私利私欲、婚約者を殺り、その場に変わろうとした罪。それに加担した令嬢。君達の顔と名前は覚えた。二度と護衛隊には入れない。以上解散。もう皆も彼女たちと話すことはないだろう」

 あっけなく終わり、解散する。令嬢たちはそのまま置いてきぼりに皆が部屋を去る。その去った先で私にミルクが近付いた。

「良かったね。婚約出来て」

「ええ、でもなんで裏切ったのにあなたはここに?」

「土下座いっぱいした、王子様に。そんなことよりも……これからは婚約者として、王政派、貴族派をまとめないといけないよ? さぁ名前と顔がわかる名簿だよ。私も一緒に頑張るからね?」

「………」

「信じて、私はずっとあなたと王子様がくっつくと思ったんだから。さぁ、頑張ってねぇ未来の王妃さまぁ」

 私は名簿を受け取り、そして……生まれ変わった事を悟る。これからは……個人ではない。上の者として生きていかないといけない事を。彼女はそうなる事を最初から考えていた。

「ミルク・アッサム。あなたは私の前で楯になって死ねる?」

「も~ち~ろ~んぅ。で~ぇす」

「……気が抜ける」

 いつもの調子に戻った彼女に甘ったるいミルクの匂いがするのだった。





 断罪が終わった後、学園内で私は大きい地位を得た。第一王子様の婚約者として指揮をとる事になってしまう。屋敷に帰った時に親友に聞いた。

「なんで、他の婚約者候補を見捨てたんですか?」

「個人的に婚約者になれるのは政治力もいる。また、殺される事もあるだろう。それを無理なく出来る候補は君だけだった。結局、元男だろうが、女だろうが……関係なく。婚約者競争トップだぞ。王妃さま」

「………気が早い」

「そう言うが……卒業後すぐだし、もうまとめ役として動いているだろう?」

「はい……」

「そういう事だ。期待してるよ……親友」

 私はどうやらどうやっても男に戻れそうにない。そして……ずっと。親友の側からも離れられない事を悟る。

「結局、私の進路は……親友と共にか」

「嫌か?」

 ソファーに座る彼の対面に座る。

「嫌なら一緒に帰ったりしない。それに……男に戻れそうにない」

「なんで?」

「抱き癖、ついちゃった」

 私はもう僕に戻れない。僕は居るが、僕に戻れない。

「じゃぁ次はキス癖つくろう」

「わかった。王様の言うとおりにします」

「王になるには流石に父上が亡くなってから。当分、先だよ。他に聞きたい事は?」

「初恋を聞いてもいい?」

「痛い所を……実は最初。女の子かと思ってたんだ。まぁ綺麗な女の子だと」

「それでそれで」

「教えて貰って驚いたが。まぁいい感じの親友として……付き合ったよ」

「それだけ?」

「ああ、なんだよ。いいじゃないか」

「いいよ。もう、女の子だからね」

「変な気持ちだよ。まぁ、腰を据えられるから大丈夫」

 きっと上手くいく。そう感じるほどに今が満たされている。





 あの罪を明確にした後。私を狙った家は罰金処置で事なきを得た。多額な借金を背負った家は弱くなり、じっくりと弱体化する。また学園も転校を余儀なくされ、それはそれは惨めな話を聞いた。

 だが、必要なことなのだ。同じ事をした場合の処罰が分かりやすくなり。裏切る事を思い止まるだろう。

 私も生活が変わった。護る側から離れ、私が中心となりまとめる必要が出たのだ。

 男だった事がそこで足枷になる。感覚の違い、価値観に苦労するが……これが婚約者になると言うことなのだと我慢しながら苦労する。政治する必要もあり。そう婦人会も開く事も大切で、名前も顔も家の序列も、家同士の軋轢も覚える事が多く、学業も成績が立派でないといけない。

 気付けば親友と学園で距離を取り、会える時間は王宮に帰って来た時だけ。

 だが、そんな私たちは評判はいい。真面目な付き合い方が信用となって評価される。

 それも親友の考え通りなのだと聞く。たった一人を愛するのは令嬢に対して評価が良くなると。それはそのとおりで……私は質問攻めにあった。

 出会いから初恋、二人の営みを話さないといけない。そんな日々が続き気付けば季節を跨ぎ、政治思想的暴力主義者が学園占拠もあったが。私は男に戻らず……何年目かの冬休みに入る。

「あれから……早いものね」

 テーブルの上に私が淹れた紅茶が2つ。それに大分大人になった親友が紙と睨んでいた。

「それだけ忙しいからね。おれ、予算書計算もしないといけないし……学園で休んで外で挨拶ばっかり。冠婚葬祭に顔出しで時間なくなる。君もだろう?」

「はい、そうですね。それは別にいいですが……喋ったでしょう夜の営みを」

「……」

「後輩、友達からぜ~んぶ聞いてます。ベラベラ喋って……怒ります」

「お、男は興味ある話なんだ。それにハニートラップを説明するのに必要だ。毒死するぞと」

「それで、私の事を鬼嫁と伝えたんですか? 尻に敷かれていると」

「あっいや。怖い、優しく」

 狼狽える姿から、罪悪感はあるのだろう。

「はぁ、女の子として頑張ってるのに酷い人」

 それだけで許す甘さに自分自身で溜め息を吐く。弱い……

「それは感謝してる。それにしても指輪外さないのか?」

「……それは外せと? 嫌です」

「いや。婚約指輪をそんな肌身離さないのに驚いてる」

「これ、魔法具でしょう? いい魔法具です。暗器は怖がらせてしまうので。良いものです」

 私は指に嵌まっている指輪を撫でる。つい笑みがこぼれる。

「……休みだが。何処かいきたい所あるか?」

「いいえ、一晩中愛してくれたらそれでいいです」

 頷く親友、紙を置き、立ち上がって肩を掴んで寄せる。私は身体を預けた。

「さぁ僕を倒して。私にしてね」

 あの頃には……私はもう。親友の関係に戻れない。でも今の私は幸せである。







「お母様」

「あら、何かしら?」

「お友達出来ました」

「そう、偉い。今度紹介してね」

「はい」

 懐かしい夢を見た気がする。生まれた男の子は元気でしっかりと聡明な子になった。第一の双子、長女も元気であり。恵まれている。

「お母様、今度は妹? 弟?」

「両方かな。長男だけど、気にせず友達を大切にしなさい」

「はい、お母様」

 子供は多い。教える事も多い。母親が助けてくれるから楽ではある。

「……多産になるなんてね」

 懐かしい夢のあの日、こんなに子供に恵まれるとは思わなかっただろう。そして……もう婚約者の話がある。

 気が早い、だけど……それが王家。

「あの子たちにもいい人見つかるといいわね」

 そう願いながら重い体を起こし、笑みを溢す。家族の肖像画を見て、親友だった二人の肖像画を見ながら。










 




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