嘘つきの怪人は記憶泥棒(初恋)の始まり

書くこと大好きな水銀党員

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嘘つきは泥棒(初恋)の始まり④

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 タカナシのお兄様と言う存在を喰った日から数日が過ぎた。朝はタカナシと一緒に登校する。非常にふとましい彼女はいつも「痩せたい」と言っており、私は具体的な案を出すが全部、彼女はめんどくさがってやらない。

「あーあ、ヒムみたいに彼氏ほしいなぁ」

「彼氏?」

「え、彼氏でしょ? マサキくん」

「ヒカリは違う。そんなんじゃない」

「は?」

「幼馴染みだよ、中学からの。わかってるでしょ? タカナシも」

「卒業後に告白してないの?」

「なんで告白しないといけないの?」

 私は首を傾げる。怪人にそんな感情は持ち合わせてない。理解はできる、彼女のお兄様が私にくれた感情を私はしっかり引き継いでいる。

「ええええええ、てっきりもう付き合ってるかと」

「付き合ってる? それは男女の仲ってこと? それは……違うんじゃないかな」

「そうそう。でも、遠くから見たら普通に付き合ってるみたいだよ」

「親友が近いかな。恋人ではないかなぁ」

「ふーん、変なの。でも、好きじゃないの?」

 今日はタカナシがグイグイとくる。非常に女性らしい恋愛好きな思考だ。確かに私とマサキは「付き合ってる」と周知されてもおかしくないほど仲がいい。冷やかしも多いが、私は「ふーん」と鼻で笑っていた。

「好きか嫌いかで言うと……私は……」

 悩む。怪人としては敵であり、そして魅力的なヒーローでもある。一緒に居て楽しいし、深く深く考えれば考えると私の答えは非常に苦しい物になる。

「……彼になら。消されてもいいかも」

「え?」

「あっ、いや。好意はある。絶対に」

「だよねぇ~驚いた」

 私は心臓がバクバクする。友に怪人とバレる所だった。そんな中で私たちのスマホにアラーム音が一斉に鳴る。それは通告人全員のスマホにも同じ光景が広がる。

「あ、怪人警報だ」

「どこどこ?」

「えっと……この近く」

「いや、アラーム鳴ってるからそうでしょ……タカナシ、逃げるよ」

 私はスマホを見て怪人の居場所を理解し、タカナシの手を引っ張り走り出す。数人の武器を持った人間とすれ違いながら「記憶を奪う」。怪人はどうやら、陽動らしい。本命は別の場所で「政治的な目的を達成するために暴力および暴力による脅迫」の行為に及んでいるらしい。

「ねぇねぇ、ヒムちゃん。ヒーロー見ないの?」

「タカナシ、あなたが居て危ない。それに私は『託された』側」

「本当、ヒムは……昔から私を護るの過剰よね」

「一応、バイトで雇われてるよ?」

「そうだよねぇ。変な感じ、なんで雇ったんだろ?」

「あ、な、た、が!! 引きこもり気質だからよ!!」

 走りながら学校の校門を潜る。先生たち、学生で公安活動者が集まり、身構えていた。その中にマサキも居る。

「ヒム、大丈夫か? また、ヒーロー眺めに行ってないかヒヤヒヤした」

「友達を置いて行かないよ。だから今から行くよ。学校お休みでしょ?」

「行くな、お前はヒーローじゃないから邪魔になる。人質に取られたら一緒に殺されるんだぞ?」

「それをするヒーローは少数。それに……戦ってる彼らを私は目に焼き付けたい」

 それが私の任務である。学園のヒーローはもう調査済みで報告済みだ。だから記憶を喰って「私が登校後行方不明」として抜け出そうと考えた。だが、私は……躊躇する。自分のために能力使っている。

「ほら、生徒は危険だから校舎に」

「はーい」

 なので私は黙って大人しく従った。







 私は校舎で電話する。それはもちろん上司である。

「総統、電話大丈夫ですか?」

「どうした? 今回は『怪人解放軍』の行動だから関係性はないぞ。それとも現地に居るのかね?」

「………いいえ」

「では、何か気になる事でも」

「私は抜け出して情報を集めようと思いました。しかし、記憶を喰う事に抵抗があります」

「それで最近、君の依頼が滞っているのだね。なぜ喰わなくなったか聞いてもいいかい?」

「……わからないんです」

「わからない?」

「怖いんです。悲しいんです。そして、嫌なんです」

「それは……君が喰った記憶で『殺した』事が要員かい?」

「はい、よくお分かりになりましたね?」

「そりゃぁ、君が数週間で感情豊かになり、ピアノが得意になり、完全に『女性』で潜入しているからね。君は怪人だ。殺める事もあるだろう」

「総統はわかるのですね」

「わかる。そして、君は優しくなった」

「………怪人失格ですね」

 苦しくなる。怪人としての存在に苦しくなる。

「失格? 合格さ、潜入は上手い。能力も素晴らしい物がある。自信を持て、そして力に溺れない今の君の方が組織的に安心できる。勝手に『記憶を喰って歴史を変えない』からね。ただ自分を護るために使うのは躊躇しない事だ」

「総統は私の能力をどこまで知ってたんです?」

「今、知った。私は完璧ではない。それよりも会議に出てくれないか? ピアノの腕を生でみたい」

「………切ります」

 私は面倒だなと思い電話を切った。怪人としての私は青い空の下でどのように見えるかを考えながら座る。そして、世界を見つめた。

「ああ、なんて綺麗な青に白いフワフワの雲なんだろう」

 手を伸ばして撫でるように空気を掴む。美しい。そして、思考する。思考しながらわかったのは感情の暴走が起きていることだった。

「ああ、なんて世界は綺麗なんでしょう」

 空がこんなにも綺麗だと気付かなかった。あの青空を飛ぶ白い鳩に目を奪われる。あんな綺麗な白い鳥がいる。スマホを取り出し、写真を取る。

「ああ、これが『残す』という行為」

 写真と言う。刹那の過ぎ去る過去の時を封印する能力は何故あるかを私に教えてくれた。

「………私のスマホ。空っぽ」

 スマホになにも入ってない写真。今までの人生、何してたんだと私は悪態をつく。

「ああ、人生じゃない。私は怪人。人生は人間の物」

 私は一体何者だろう。

「………」

 スマホの履歴に連続で載っている名前をタップする。そして、スピーカーにした。

「もしもし、私だよ。ヒムだよ」

「なんだ? お前、教室いるんじゃないのか? どこに居るんだよ」

「屋上で空を見てる。今日は一段と空が綺麗なの。飛べそうな空」

「ヒム!? 待て行くから!! 通話そのままで!!」

「ん?」

 私は彼の慌てぶりがわからない。通話先で息の荒れる声がする。そして、屋上に息を荒くしたマサキが現れた。あわててる事に疑問になる。

「なんで急いでるの?」

「お前、今、『飛ぼう』としただろ?」

「………ああ、それもいいね」

 「その発想はいいな」と思った。きっと落ちるだろうけど、全能感がある今なら出来そうで倒錯的で綺麗な青春を謳歌してそう。

「やめろよ。自殺なんて」

「しないよ。でも、嬉しい。不安になって走って来たんだ……嬉しいよ。凄く。嬉しいよ、『私は愛されてる』ってわかるから」

「はぁ、ヒム。最近また、なんかあった?」

「あった。答えのない悩み事が多くて、それも君の焦った顔を見たら『馬鹿馬鹿しくなった』よ」

「はぁ……もう!!」

 彼は苛立ちながら私の隣に座る。

「午前中は授業ない。先生たちが身構えてる。銃を取り出して構えてる」

「午後も無さそうだね。行かなくていいの?」

「俺は予備。そう、予備なんだ」

「……悔しい?」

「ああ、悔しい。でも、向かって行くほど子供じゃない。我慢する」

「偉い、『邪魔』だもんね」

「そう、邪魔なんだよ。でも、必要。もしもの時は皆の盾になるよ」

「カッコいい。応援してるよ、隠れたヒーロー」

「……」

 彼の横顔を見ながら、怪人である私は褒める。真っ直ぐ、目的を見失わず。自分の出来る事を見定める賢さに。

「ああ、賢くなったのはお前のお陰だよ。覚えてるか? 色々なこと」

「……なに?」

 私は焦りだす。覚えてる事が多過ぎてわからない。

「お前、結構具体的にアドバイスくれるじゃんか。特に敵側の思考を読め。敵側の嫌がる事を考える。あと『◯非子』だっけ? 必要な人材、ダメな人材とか……その年ですげぇ詳しいの。で、それを実施すると本当にまぁうまく行くわけよ」

「やっぱ組織に属するからね。処世術だよ。普通に勉強不足だったでしょ」

「まぁ……はい」

 照れ隠しなのな顔を背ける。私はヒーローになにアドバイスばっかやってるんだと苦笑する。

「頑張れ、私のヒーロー。私はあなたの事を見ているから」

「……本当にお前ってやつは」

「なに?」

「恥ずかしくないのか?」

「ない」

 胸を張って言える。だって、私の恥ずかしい『嘘つき』の能力より、正直な能力なのだから。







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