嘘つきの怪人は記憶泥棒(初恋)の始まり

書くこと大好きな水銀党員

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正直者は英雄(失恋)の始まり⑧

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 怪我をした、腕から落ちる血を見ながら。疲れた体を鞭打ちし、ソファーに寝そべる。すぐに疲れからか眠い。目を閉じ、そして揺さぶられる感覚の後に目を開けるとそこにはヒムがおり、笑顔で俺の体を揺す。

「ヒーロー、起きて。ご飯だぞ」

「……うーん」

 「眠たい」と思っていたが、急に眠気が吹き飛び目を覚ます。

「ふわぁあああ、ヒム。来たのか……鍵は開いてたのか」

 疲れて鍵をかけ忘れたのだろう。

「合鍵ほしいね。たまたま開いてたから良かったけど。ご飯用意したよヒーロー。今回、ニュース見てたけど凄い相手だったね」

「ああ、実際。誰か死んでもおかしくない相手だった。辛勝……多くの犠牲者を出したよ」

 怪我人は多く、そして俺も勝てた気もしないほどにボロボロだ。

「先生も入院?」

 頷き、答える。

「1日な。俺は軽傷だったから」

「そっか」

 ヒムが俺の手を取る。あたたかい。

「良かった、帰って来てくれて」

 満面な笑みに照れ隠しで鼻をかいたあとにお腹を空いているのを感じてヒムに聞く。

「うん、それよりもお腹空いたから。カレー食べたいな。俺が勝ったから作ったんだろ?」

「そう、テレビで撃退したって発表あったから」

 本当に撃退しか出来なかった。倒せなかった。しかし、死んでいないのも奇跡である。

「じゃぁ、用意するね。ヒーロー」

「うん、頑張ったよ俺」

「頑張れヒーローこれからも、『私のために』ね」

「なんか、活動目的を変えて来てない?」

 ヒムのためにヒーローになった訳じゃない。しかし、彼女は「ヒムのために」と言わせたいのだろう。

「だってそうでしょ? 私を護ることは『世界観を護る』ことに繋がる。『全く道理からはずれた。とんでもない』。一言で言うなら『大それた』。その目的は身を滅ぼす」

「大それた目的か……」

「何かあるの?」

「何もない」

「そういえば私には夢を語らせてさ、マサキの聞きたいな」

「カレー食べてからでいい?」

「いいよ」

 俺は食べながら考え込む。「彼女に言ってなかったっけ?」と。







 食事も風呂も終わり、俺は寝巻きの身軽な姿でソファーに座るヒムを眺めていた。ヒムが確認の電話しており、内容は先生の負傷では明日学校は休みにならないらしい。授業の代理をAiがすると言う。流石、Aiは賢い。

「明日、学校あるんだって」

 残念そうにヒムは答えて俺はニヤつく。

「授業が押してるしな、隣いい?」

「いいよ」

 ヒムの隣に俺は座り、600mlのコーラの飲みかけを握ったままである。

「ねぇ、私にもコーラ頂戴」

「え、新しいの冷蔵庫にある」

「それでいいよ」

「まじか……」

 ペットボトルをヒムに奪い取られて蓋を開ける。そして、口を見ながらヒムは固まった。

「飲まないのか?」

「意識する」

「勢いが大事だろ」

「わかってる」

「………」

 ヒムは蓋を締める。諦めたようだ。俺の心臓は高く跳ねており、体が熱い。意識したからこそ、俺は覚悟を示す。

「全く、目を閉じろ」

「……?」

 ヒムの肩を掴む。そのまま、抱き寄せて口に触れる。非常に心臓が痛いほど鼓動するが。それどころではない。俺は一線を越えた。

「勢いが大事だろ……」

「う、うん」

「これで意識せずに飲めるだろ……」

「うん……」

「………」

「………」

 沈黙、ヒムは唇に触れた後に口をつけて一口含み、笑みを向ける。あまりのかわいい仕草にそっぽ向いて俺は口元を押さえた。

「甘いね、コーラ」

 恥ずかしい空気だけが静かに流れる、その緊張を壊したい。恥ずかしくて死にそうだ。

「夢って……叶わないばかりの物だけじゃないよな」

「………そうだね」

 俺は空気を変えるために唐突に話をする。「実は……」から畳み掛ける。

「会いたい人を探すために公安部隊員、立候補しようと思ってる」

「警察に居るの?」

「いや、わからないけど。情報は持ってる筈。推薦状も書いてくれるらしいし、飛び込んでみようと思う」

「会いたい人ってどんな人?」

「多分、女性。俺が怪人に襲われてる時に目の前に現れて怪人を力で撃退したんだ。公安部隊員だと思うんだけど……ただわからないんだ。顔も声も会えば多分、思い出す」

 声はどこな、ヒムに似ていて。髪の色も似ている。関係者な気がする。陰謀論のような、変な話でヒムの親族だったとか、あるのかもしれない。

「そっか……推薦かぁ……頑張ってるもんね。評価されて良かった。気をつけてね、すぐに調子乗って、格好いい事をしようと思うんだから。怪人に甘いのもダメよ」

「欲は出さないように鍛えるよ。甘いか?」

「あまい、でも大人になるってそういう事だから。私は応援してる」

 俺の手を握って彼女は握っては応援してくれている。

「あっ!! だからと言ってお金の支援は憚れるよ」

「わかってるよ!! ヒム、なんでそう……変な事を言うんだよ」

「子供だから。私たちはまだ『学生』だからね」

「学生がお金の支援の話はしないと思う」

「今の子は賢いんだよ」

「じゃぁ、今日は帰るね」

「泊まっていけば……」

「知り合いが遊びに来てるの」

「えっ、ならなんで俺んちに」

「彼氏の死地からの帰りに何もしない女性は魅力的?」

「……」

 玄関まで見送ってもらった後、ヒムは笑顔で「さようなら」と伝える。それに俺は「またな」と言い返した。

 そのまま彼女が居なくなったあとに大きいため息吐き、背伸びをして息を整える。

「付き合うって……怪人と戦うぐらいつかれるな」

 今はまだ。甘く、始まったばかりのお付き合いに慣れない体から疲れを感じるのだった。






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