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8 サティと王子の“デート”イベント
学園の休日――
王立都市の中央広場では、季節祭の準備が始まり、色とりどりの屋台が並び始めていた。
この日は、本来ヒロインと王子が二人で偶然出会い、屋台を巡る“お忍びイベント”があるはずの日。
だがサティは、ゲーム知識を最大限に使っていた。
(王子は午前十時頃に視察ってイベントだったわね。
なら、この噴水の前で“偶然の出会い”を起こすのよ!)
サティは、完璧な笑顔の練習までして準備万端。
そして十時五分。
「リューダリア嬢?」
来た。
サティはゆるりと振り返った。
「まあ、レオンハルト殿下。ご視察でいらっしゃったのですか?」
「うむ。学園の生徒も訪れる祭だ、事前に状況を知っておこうと思ってな。
……君は一人なのか?」
(ふふっ、聞いてきた!)
サティは控えめに微笑む。
「ええ。あたくし、お祭りの準備を見るのが好きでして。
でも……一人では少し寂しいですわ」
王子は一瞬迷ったように視線を落としたが、やがて決意した顔で言った。
「もしよければ、一緒に回らないか?」
(よっしゃあぁぁ!!)
もちろん顔には出さず、お淑やかに答える。
「喜んで、殿下」
初夏の風のなか、人々が賑わう通りを二人で歩いていく。
サティは王子と並んで歩くその距離にも悦楽を感じていた。
(ヒロインが体験するはずだった胸キュンシーン、ぜーんぶいただきよ)
王子がふと足を止めた。
「これは……蜂蜜の焼き菓子か。珍しいな」
「殿下、お好きでしたの?」
「父王が陛下になる前、よくこれを買って帰ってきてくれた。懐かしい味だ」
「まあ……そういう思い出が。殿下の幼い頃を想像すると、なんだか微笑ましいですわね」
サティがほっこりした顔で言うと、王子は照れたように視線をそらした。
「……おかしなものだ。君と話していると、素の自分が出てしまう」
(うんうん、その調子!)
サティはチャンスを逃さない。
「殿下、これを半分こいたしません?
お菓子って、誰かと一緒に食べるともっと美味しいんですよ」
「……いいのか?」
「もちろんですわ」
焼き菓子を二人で分け合いながら歩くと、王子はほんの少し頬を赤くした。
(お菓子の半分こイベント、完璧に奪取!)
通りの真ん中で、子どもが走ってきてサティにぶつかりそうになった。
(ここでヒロインは王子に手を引かれるはず!)
サティはわざと一歩踏み出す。
「きゃっ――」
腕を掴んだのは、予想通り王子。
「危ない!」
ぐっと引き寄せられ、サティの身体は王子の胸板に吸い寄せられる。
間近で見上げる王子の顔。驚きと心配、そして少しのどぎまぎ。
(うん、100点満点の表情!)
サティはわざと頬を赤らめる。
「殿下……ありがとうございます。
あたくし、殿下に助けていただけるなんて……」
「当たり前だ。君を危険に晒すわけにはいかない」
王子の手は、すぐ離されるかと思いきや、ほんの数秒だけそのまま。
彼自身も気づかぬほど、自然にサティをかばっていた。
その手の温もりに、サティは満足げに微笑んだ。
夕暮れの帰り道、祭の灯りがポツポツと点り始める。
「今日は……楽しかった。
リューダリア嬢、君といると時間が早く過ぎてしまう」
「まあ……あたくしもですわ、殿下」
ほんのり紅潮した頬で言うと、王子は言葉を失ったようにサティを見つめた。
そして――
「また、君とこうして歩きたい。
……それは、迷惑だろうか?」
(迷惑だなんて言うわけないでしょ!)
「迷惑だなんて、とんでもありませんわ。
殿下とご一緒できるなら……あたくし、何度でも」
夕陽の差す中、王子は静かに笑った。
「……リューダリア嬢。
君のことを考える時間が、前より多くなった気がする」
サティの心でガッツポーズが炸裂する。
(よしよしよし! 完璧!!
どんどん落ちろ、素敵な王子様!)
こうして――
本来のヒロインの大事な恋愛イベントは、また一つサティによって強引に奪われたのだった。
王立都市の中央広場では、季節祭の準備が始まり、色とりどりの屋台が並び始めていた。
この日は、本来ヒロインと王子が二人で偶然出会い、屋台を巡る“お忍びイベント”があるはずの日。
だがサティは、ゲーム知識を最大限に使っていた。
(王子は午前十時頃に視察ってイベントだったわね。
なら、この噴水の前で“偶然の出会い”を起こすのよ!)
サティは、完璧な笑顔の練習までして準備万端。
そして十時五分。
「リューダリア嬢?」
来た。
サティはゆるりと振り返った。
「まあ、レオンハルト殿下。ご視察でいらっしゃったのですか?」
「うむ。学園の生徒も訪れる祭だ、事前に状況を知っておこうと思ってな。
……君は一人なのか?」
(ふふっ、聞いてきた!)
サティは控えめに微笑む。
「ええ。あたくし、お祭りの準備を見るのが好きでして。
でも……一人では少し寂しいですわ」
王子は一瞬迷ったように視線を落としたが、やがて決意した顔で言った。
「もしよければ、一緒に回らないか?」
(よっしゃあぁぁ!!)
もちろん顔には出さず、お淑やかに答える。
「喜んで、殿下」
初夏の風のなか、人々が賑わう通りを二人で歩いていく。
サティは王子と並んで歩くその距離にも悦楽を感じていた。
(ヒロインが体験するはずだった胸キュンシーン、ぜーんぶいただきよ)
王子がふと足を止めた。
「これは……蜂蜜の焼き菓子か。珍しいな」
「殿下、お好きでしたの?」
「父王が陛下になる前、よくこれを買って帰ってきてくれた。懐かしい味だ」
「まあ……そういう思い出が。殿下の幼い頃を想像すると、なんだか微笑ましいですわね」
サティがほっこりした顔で言うと、王子は照れたように視線をそらした。
「……おかしなものだ。君と話していると、素の自分が出てしまう」
(うんうん、その調子!)
サティはチャンスを逃さない。
「殿下、これを半分こいたしません?
お菓子って、誰かと一緒に食べるともっと美味しいんですよ」
「……いいのか?」
「もちろんですわ」
焼き菓子を二人で分け合いながら歩くと、王子はほんの少し頬を赤くした。
(お菓子の半分こイベント、完璧に奪取!)
通りの真ん中で、子どもが走ってきてサティにぶつかりそうになった。
(ここでヒロインは王子に手を引かれるはず!)
サティはわざと一歩踏み出す。
「きゃっ――」
腕を掴んだのは、予想通り王子。
「危ない!」
ぐっと引き寄せられ、サティの身体は王子の胸板に吸い寄せられる。
間近で見上げる王子の顔。驚きと心配、そして少しのどぎまぎ。
(うん、100点満点の表情!)
サティはわざと頬を赤らめる。
「殿下……ありがとうございます。
あたくし、殿下に助けていただけるなんて……」
「当たり前だ。君を危険に晒すわけにはいかない」
王子の手は、すぐ離されるかと思いきや、ほんの数秒だけそのまま。
彼自身も気づかぬほど、自然にサティをかばっていた。
その手の温もりに、サティは満足げに微笑んだ。
夕暮れの帰り道、祭の灯りがポツポツと点り始める。
「今日は……楽しかった。
リューダリア嬢、君といると時間が早く過ぎてしまう」
「まあ……あたくしもですわ、殿下」
ほんのり紅潮した頬で言うと、王子は言葉を失ったようにサティを見つめた。
そして――
「また、君とこうして歩きたい。
……それは、迷惑だろうか?」
(迷惑だなんて言うわけないでしょ!)
「迷惑だなんて、とんでもありませんわ。
殿下とご一緒できるなら……あたくし、何度でも」
夕陽の差す中、王子は静かに笑った。
「……リューダリア嬢。
君のことを考える時間が、前より多くなった気がする」
サティの心でガッツポーズが炸裂する。
(よしよしよし! 完璧!!
どんどん落ちろ、素敵な王子様!)
こうして――
本来のヒロインの大事な恋愛イベントは、また一つサティによって強引に奪われたのだった。
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