無双の始まりは婚約破棄から

真田奈依

文字の大きさ
2 / 34

第二話 引き立て役に利用されたら悪役令嬢になるかもですよ

「この婚約、王国中の誰もが羨むわ」
 令嬢レイカは微笑んだ。
 婚約者は次期王太子のソウマ殿下。



「ねえ、今度会ってほしい人がいるの。私の婚約者」
 従姉いとこのレイカお姉さまが、私にそう言ったのは、ある春の午後のことだった。
 彼女は昔から私を「平凡で地味な従妹イトコ」と思い込んでいて、私の前で輝いていたいタイプだった。おそらく、今回もそのつもりだったのだろう。
(きっと私を引き立て役にして、自分の優位を婚約者に見せつけたいのね)


 紹介されたソウマ殿下は、面食いの従姉の婚約者だけあって、なかなかのイケメンだった。



 その後、殿下は何かと理由をつけて私に接触してきた。婚約者であるレイカお姉さまには内緒で食事に誘われたり、手紙を送られたり――。
「君に好かれる男になる努力をしてみたい。ダメかな?」
「それはどういう意味でしょう?」
「レイカより、君のほうが好きになった」
「何をおっしゃいますか? 貴方はレイカお姉さまの婚約者ではありませんか!」
 もちろん私は断り続けた。

 レイカお姉さまは私より自分のほうがいい女だと思っていて、私を引き立て役に利用したつもりでしょうけど、私のほうがいい女なんですよ。
 婚約者と引き合わせたりなんかしたら、婚約者が心を移すのは必然ではありませんか。

 だけど私、全然うれしくない。私、ソウマ殿下には興味ありませんの。しかも馬を虐待しているそうではありませんか。
 口説けば私がその気になるとでも思っているのかしら。見損なわないで。
 お姉さまが「人の婚約者を奪おうとするなんて、恥知らずもいいとこよ!」とか「あなた、私の婚約者を誘惑したわね……!」とか言って、私と貴方あなたを取り合う修羅場が見たいのかしら。おあいにくさま。婚約者の従妹を口説くような不誠実な殿方なんて、私大嫌い。
 貴方にはお姉さまがお似合いよ。
 割れ鍋に綴じ蓋の似た者同士で、どうぞお幸せに……


________________________________________

 レイカお姉さまは、めでたくソウマ殿下と婚儀を挙げられた。


 それから数ヶ月。レイカお姉さまは幸せだった。
 自分が「選ばれた女」だと思い込んでいた。
 私に会うたび、わざと左手の指輪を見せつけてくる。





 僕がレイカ嬢と結婚したのは、従妹に振られたからだ。
 少なくともレイカは僕を崇めてくれる。自尊心を保つためだった。
 僕はレイカが寂しがっているからと言って、従妹に城に時々訪ねてもらった。レイカも僕も従妹が一緒のほうが楽しかった。




──王宮に届いた一報。
「殿下が落馬により、即死されました」




 最愛の人を失った従姉は嘆いた。

 愛する人との思い出に生きた。

 だが、殿下に愛されていたと思っている従姉は、ますます私を見下すようになった。「知らぬが仏」とは、まさにこのことでしょう。平和ですね。

 ええ。殿下が愛していたのは、従姉ではなく私だったことは絶対に言いません。
 だって、事実を知ったらあまりにもかわいそうじゃありませんか。
 美しい思い出があるからこそ従姉は生きていけるんですもの。


 ああ、それなのに。
 殿下の上の兄君あにぎみが「ソウマは本当は貴女と結婚したかった」なんておっしゃるとは。
 しかも下の兄君まで私に求愛するし。
 この御兄弟ほんとクズ。こんな一族と縁組したレイカお姉さま、お怨みいたします。

感想 0

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

「お前は妹の身代わりにすぎなかった」と捨てられた養女——でも領民が選んだのは、血の繋がらない姉の方だった

歩人
ファンタジー
孤児のフィーネは伯爵家に引き取られた。 病弱な令嬢エーデルの「代役」として。社交も、領地管理も、使用人の采配も—— 全て「エーデル様」の名前で、完璧にこなしてきた。 十一年後。健康を取り戻したエーデルが屋敷に帰還した日、伯爵は言った。 「もう用済みだ、出ていけ」 フィーネは静かに屋敷を去った。 それから一月もしないうちに、領民たちが伯爵に詰め寄った。 「前のお嬢様を返してください」

必要とされなくても、私はここにいます

あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。 口出ししない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 ただ静かに、そこにいるだけ。 そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。 張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。 何かを勝ち取る物語ではない。 誰かを打ち負かす物語でもない。 それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。 これは、 声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、 何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。