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第三話 仮面令嬢エミイの破滅劇〜いい子ぶってた幼馴染の結婚、その後〜
「エミイ・ツイスターって、本当にいい子だよね」
誰もがそう言う。
上品で、礼儀正しくて、思いやりがあって、誰からも好かれる令嬢。
町でも、学園でも、社交界でも、彼女は“気立ての良い、完璧な令嬢”として有名だ。
優しくて、誰にでも分け隔てなく接して、勉強もできて、身なりも上品。
礼儀作法も完璧で、言葉選びにすら品格があって、どこへ行っても気配りを忘れない。
けれど、私は知っている。
――エミイが“いい子”でいられるのは、私を陰でいじめてガス抜きしているからだ。
靴に水を入れられたこともある。
日記を勝手に読まれ、内容をばら撒かれたことも。
「うっかり」「気のせい」「ごめん、そんなつもりじゃなかった」
全部、笑顔で済ませて、周りはエミイを信じた。
小さな嫌がらせ、巧妙な悪意、見えない場所での優越。
私にだけ向けられる、仮面の裏の顔。
全部、“悪意”を証明できないように巧妙にやるのが、エミイ・ツイスターのやり口だった。
私をいじめることでストレスを発散していたから。
憎しみを、恨みを、妬みを、全部、私に押しつけて、その毒を抜いたうえで、澄ました顔で微笑んでいたのだ。
それでも、私は黙っていた。
言っても信じてもらえないのは分かっていた。
いい子の仮面を被ったまま、彼女はどんどん評判を上げていった。
そして、エミイは結婚した。
相手は若くして爵位を継いだ新鋭貴族、レオン・ハワード卿。
誰もが羨む組み合わせだった。
……まあ、エミイと釣り合うくらいの人なら、どうせ中身も同じく性悪だろう。
そう思っていた。
――けれど。
結婚して三ヶ月もしないうちに、エミイは離縁された。
噂はすぐに広がった。
「エミイ・ツイスターが? まさか……」
「理由は“性格の不一致”らしいけれど……本当かしら?」
「わたしは価値観の違いって聞いたけど」
「完璧だったはずなのに、どうして?」
私は笑いをこらえるのに必死だった。
完璧なんかじゃない。仮面だっただけよ。
そりゃあ、四六時中、気取って演じることはできないわよね。ボロは出る。
一緒に暮らせば、どんな取り繕いも限界がある。
本当の性格は、日々の小さなところからにじみ出る。
思い通りにならない場面で癇癪を起こし、他人を責め、自分の非を隠すために、使用人に当たり散らすようになった――と、風の噂で聞いた。
今度は使用人をいじめてガス抜きをしたのだろう。
「いい子のエミイさんが? まさか……」と人は首をかしげていたけれど、私には、ありありと想像できた。
本性がばれて、うんざりされたんでしょう。
“似たり寄ったりの相手”かと思っていたけれど、意外にもレオン・ハワード卿はマトモな人だったわけね。
「あたしね、結婚生活では一生懸命尽くしたの。でも、向こうが冷たくて……本当にひどい人だったわ。
あたしばかりが我慢して、あの人はまるで……愛を返してくれなかったのよ」
彼女は涙を浮かべながら、周囲にそう語っていた。
自分に非はなかった。悪いのは全部、相手。
そう言い張って、哀れな“被害者”のふり。
――ああ、やっぱり。
あの仮面は、まだ剥がせないのね。でも、静かにゆっくりと、仮面はひび割れていく。
「でも、レオン・ハワード卿は……とても誠実な方だったと聞いたけれど」
「結婚してすぐに“性格の不一致”って……エミイさん、何かしたのかしら?」
もう周りの何人かは違和感に気づき始めてる。
私はサロンで紅茶を啜りながら、その様子を遠巻きに眺めていた。
優雅な振る舞いの裏で、誰よりも“浅ましい”エミイのことを、誰よりもよく知っている私。
あなたの嘘が、自分を呑み込む日が来るのを、私は静かに楽しみにしているわ。
エミイのことを「無垢な天使」だなんて信じてた世間も、いずれ気づくだろう。
彼女がどれほど冷たく、計算高く、他人を見下しているか。
私は今、清々しい気持ちだ。
やっと、わたし以外の誰かが――彼女の“正体”に気づいてくれたのだから。
彼女が可怪しいことに、ようやく気づいてくれたことが、嬉しかった。
誰もがそう言う。
上品で、礼儀正しくて、思いやりがあって、誰からも好かれる令嬢。
町でも、学園でも、社交界でも、彼女は“気立ての良い、完璧な令嬢”として有名だ。
優しくて、誰にでも分け隔てなく接して、勉強もできて、身なりも上品。
礼儀作法も完璧で、言葉選びにすら品格があって、どこへ行っても気配りを忘れない。
けれど、私は知っている。
――エミイが“いい子”でいられるのは、私を陰でいじめてガス抜きしているからだ。
靴に水を入れられたこともある。
日記を勝手に読まれ、内容をばら撒かれたことも。
「うっかり」「気のせい」「ごめん、そんなつもりじゃなかった」
全部、笑顔で済ませて、周りはエミイを信じた。
小さな嫌がらせ、巧妙な悪意、見えない場所での優越。
私にだけ向けられる、仮面の裏の顔。
全部、“悪意”を証明できないように巧妙にやるのが、エミイ・ツイスターのやり口だった。
私をいじめることでストレスを発散していたから。
憎しみを、恨みを、妬みを、全部、私に押しつけて、その毒を抜いたうえで、澄ました顔で微笑んでいたのだ。
それでも、私は黙っていた。
言っても信じてもらえないのは分かっていた。
いい子の仮面を被ったまま、彼女はどんどん評判を上げていった。
そして、エミイは結婚した。
相手は若くして爵位を継いだ新鋭貴族、レオン・ハワード卿。
誰もが羨む組み合わせだった。
……まあ、エミイと釣り合うくらいの人なら、どうせ中身も同じく性悪だろう。
そう思っていた。
――けれど。
結婚して三ヶ月もしないうちに、エミイは離縁された。
噂はすぐに広がった。
「エミイ・ツイスターが? まさか……」
「理由は“性格の不一致”らしいけれど……本当かしら?」
「わたしは価値観の違いって聞いたけど」
「完璧だったはずなのに、どうして?」
私は笑いをこらえるのに必死だった。
完璧なんかじゃない。仮面だっただけよ。
そりゃあ、四六時中、気取って演じることはできないわよね。ボロは出る。
一緒に暮らせば、どんな取り繕いも限界がある。
本当の性格は、日々の小さなところからにじみ出る。
思い通りにならない場面で癇癪を起こし、他人を責め、自分の非を隠すために、使用人に当たり散らすようになった――と、風の噂で聞いた。
今度は使用人をいじめてガス抜きをしたのだろう。
「いい子のエミイさんが? まさか……」と人は首をかしげていたけれど、私には、ありありと想像できた。
本性がばれて、うんざりされたんでしょう。
“似たり寄ったりの相手”かと思っていたけれど、意外にもレオン・ハワード卿はマトモな人だったわけね。
「あたしね、結婚生活では一生懸命尽くしたの。でも、向こうが冷たくて……本当にひどい人だったわ。
あたしばかりが我慢して、あの人はまるで……愛を返してくれなかったのよ」
彼女は涙を浮かべながら、周囲にそう語っていた。
自分に非はなかった。悪いのは全部、相手。
そう言い張って、哀れな“被害者”のふり。
――ああ、やっぱり。
あの仮面は、まだ剥がせないのね。でも、静かにゆっくりと、仮面はひび割れていく。
「でも、レオン・ハワード卿は……とても誠実な方だったと聞いたけれど」
「結婚してすぐに“性格の不一致”って……エミイさん、何かしたのかしら?」
もう周りの何人かは違和感に気づき始めてる。
私はサロンで紅茶を啜りながら、その様子を遠巻きに眺めていた。
優雅な振る舞いの裏で、誰よりも“浅ましい”エミイのことを、誰よりもよく知っている私。
あなたの嘘が、自分を呑み込む日が来るのを、私は静かに楽しみにしているわ。
エミイのことを「無垢な天使」だなんて信じてた世間も、いずれ気づくだろう。
彼女がどれほど冷たく、計算高く、他人を見下しているか。
私は今、清々しい気持ちだ。
やっと、わたし以外の誰かが――彼女の“正体”に気づいてくれたのだから。
彼女が可怪しいことに、ようやく気づいてくれたことが、嬉しかった。
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