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第三話 出会い
しおりを挟む「うわ、涼しー」
俺たちはシュロピア村の北にある、アギオ湖に来ていた。
北といってもシュロピア村は小さな村だから、仕事場から歩いて十分程度というものだ。
アギオ湖は周りが森に囲まれている小さな湖。
ささやかな梢の音が聞こえる。
橙色の落ち葉を木漏れ日が照らして、その隣にはキノコや小さな花が咲いている。
風に揺れて木々が囁く音も、日暮れの太陽に反射して虹色に煌めく湖も、鳥たちのさえずりも俺にとっては最高の癒やしだった。
それにアギオ湖にはあまり人が近寄ってこない。
村の中でも住宅街から離れたところにあるためだと思う。
だから、悪魔契約者がこんなところに来るな、みたいな差別を受けることもない。
俺とセーレの秘密基地みたいで、癒やされによく仕事終わりに行くのだ。
「カトレア、見て。オオルリがいますよ」
「あ、本当だ。かわいい」
セーレが指さした木の枝には、光沢のある鮮やかな蒼色をした鳥が止まっていた。
羽根から顔にかけて黒くグラデーションされ、つぶらな瞳はどこか遠くを見つめている。
「綺麗な色をしてるなぁ」
「カトレアだって、美しい黒髪だと思いますよ」
セーレが少し伸びをして俺の髪に触れる。
俺の髪はこの国では珍しい黒髪で、シュロピア村以外のところに行くとよくじろじろと見られる。
俺が悪魔契約者だから見てくるっていうのもあるだろうが、村の外を歩けばひそひそと囁かれるのであまり自分の髪色は好きではない。
どうせなら、セーレのように向日葵畑みたいな金色の髪が良かった。
「あ、見て見て。ノコンギクが咲いてるよ」
視線を足元に映すと、雑草に紛れて小さな薄紫色の花――ノコンギクが咲いている。
しゃがんで草の間からいくつも顔を出すノコンギクは、木々が運んでくる涼しい風に吹かれて揺れていた。
「きっと良いことがありますよ。この花の花言葉は、長寿と幸福ですからね」
「ふふ、いいことあるといいな。……っ!?」
そのとき、ザワリと不自然に近くの木が鳴った。
同時に、人の呻き声のようなものも聞こえた。
なんだ? とその木を見ると、風に合わせて銀色の細い何かが揺れているのが見える。
「……」
「……」
セーレと顔を見合わせた。
このアギオ湖に、人が……?
セーレがゆっくり頷いて、行きましょうと合図を送る。
もしかしたら盗賊かもしれない。音をなるべく立てないように土を踏み、その木の近くまで行った。
「う……ん……」
最初に聞こえたのは、少し苦しそうな声だった。
いや、苦しいんじゃない、これは……。
「……!」
その木の下に来たとき、俺は思わず声を上げそうになった。
木漏れ日で美しく輝く白銀色の細い髪。風に吹かれて密かに揺れ、先ほど見えた銀色の何かは髪だったことがわかる。
閉じられた目を縁取る、髪と同じ銀色の睫毛は時々震えていて、どこか翳りがある。
すっとした鼻先は高く、唇は少し厚い。
目を奪われるほどの美貌だった。
その青年は木にもたれかかってすやすやと眠っている。
よほど居心地が良いのか、高価そうな服が汚れることを気にもせずに片膝を立てて座っている。
人形のように美しい青年だけど、上下にゆっくり動く胸が、彼が生きていることを主張していた。
「ん……」
青年が瞼を震わせ、ゆっくりと開く。
そこにあったのは、海のように深く、澄んだ蒼い瞳。
深緑の木々や花が映し出されていて、宝石箱みたいだった。
「……どうした。俺に用か?」
「あ……えっと」
耳に心地よく響く低い声だと思った。
用、というのもなくて、ただ青年の顔に見惚れていたら起きてしまっただけだから、なんと言えばいいか迷ってしまう。
視線を泳がせていると、セーレが俺の一歩前に出た。
「さっき、人の声が聞こえたので見に来ただけなんですよ。このアギオ湖はあまり人がいないので」
「ああ……」
青年は髪をかき上げ、ゆっくりと立ち上がった。
立ち上がるだけでも品の良さを感じて、この人は身分の高い人なんだというのがわかる。
だけど、高そうな服は土に塗れて茶色く汚れてしまっていた。
「俺は仕事が面倒くさくて逃げてきただけだ」
そう言ったあと、青年は靴音を立てて俺に近づいてきた。
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