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第37話 別れ
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「今、なんと仰いましたか?」
私はお父様から放たれた言葉に、動揺を隠せないでいた。
なぜなら、お父様は——
「聞こえていただろう。この家は婚約破棄されたことを反省するために作った家だ。
反省が必要ない今、お前はこの家にいる必要もない。こちらに帰ってきなさい」
こんなことを言ってきたから。
確かにこの家はもともと婚約破棄されたのを反省するために買った家だ。
けど、もうこの家は私の居場所になっている。
チョコレートスイーツを作って村の人々に提供し、交流を深め、やっと獣人たちも人々から受け入れられるようになってきたのに。
ユリクと二人でこの店を作ってきたのに。
私が家に戻ったら、カフェはどうなるの? ユリクだけでやっていけるの? 村のみんなとの交流は?
ぐるぐると思考が駆け巡り、私は首をふるふると横に振った。
「私はここに残りたいです。何も王都に戻る必要は——」
「カナメ」
澄んだ声に、バッと後ろを振り向く。
ユリクが眉を寄せて複雑な表情をしながら、私の手を取った。
ユリクの温かい体温がひしひしと伝わってくる。
私の片手を両手でぎゅっと包み込み、真っ直ぐな瞳をこちらに向ける。
「家に帰った方がいい。ううん、帰って」
「え……ど、どうして!?」
私は思わず部屋に響くくらいの声で叫んだ。
ユリクは私が家に帰ることを止めて、この家で今まで通りカフェを営むと言ってくれると思っていたからだ。
そうお父様を説得してくれると思っていた。
なのに、なぜ……?
私の胸にもやもやと霧がかかっていく。
「カフェは俺がなんとかしておく。だから、カナメは帰りな」
「な、なんで? カフェはなんとかしておくって、そんなことでき——」
私が反論しようとすると、ユリクは私の手をさらに強く握った。
「……君は令嬢だ。俺みたいな獣人と一緒にいてはいけない」
「……っ!」
ユリクの言葉が刃となって、胸に突き刺さる。
私は令嬢で、ユリクは獣人だから、一緒にいてはいけない。
獣人の偏見はこの村にはなくなってきても、王都にはまだ残っている。
その王都で育った私はユリクと一緒にいてはいけないと、そう言っているのだ。
王太子との婚約破棄の話を聞いて、私が令嬢だということがわかってしまったのだろう。
……どうして。
私の頭の中にその言葉ばかりが浮かぶ。
どうして獣人と令嬢は一緒にいてはいけないの。
仲良くなってはいけないの。
身分差? 私はユリクと過ごして感じたことなんてない。
そんなのどうだってよくて、私はまだユリクと一緒にカフェを開きたいのに。
いつしか私の視界が潤むのが感じた。
喉がきゅうっと締め付けられて、言葉が発せなくなる。
「行くぞ、シェイラ」
お父様が私を馬車に乗るように促す。
ユリクは行きなさいとでも言うように微笑んで、握っていた両手を離した。
瞬間、温かかった自分の手が外の冷気に触れて、じわじわと冷たくなっていくのを感じた。
「ユリク……」
最後に出た私の言葉は掠れていて、絞り出すような声音で、自分でも聞いたことのないくらいだった。
馬車に乗る瞬間後ろを振り向くと、ユリクが眉根を寄せて辛く苦しそうな複雑な表情をしているのが一瞬だけ視界に映って、村の景色と共に消えていった。
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