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第十三話「今世で初めての甘いパンケーキ」
「ここが、王都……」
屋敷からしばらく歩き、初めて見た王都の景色は壮大なものだった。
あちこちにカフェや屋台が並び、美味しそうな匂いを振りまいている。
仕立て屋や洋服店、宝飾店もあり、大きな百貨店もあった。
見ているだけで気分が高揚して、きょろきょろと辺りを見回してしまう。
そして何より……。
「す、すごい! モフモフがすごい!」
王都には獣人がちらほらといて、頭に生えているモフモフとした大きな耳に私は釘付けだった。
す、少しだけ触らせてもらえないかな……なんて、初対面の人が触ったら完全に不審者扱いだよね。そうよね。
可愛らしい猫や犬の獣人に、ガタイの良い熊の獣人、肌の白い山羊の獣人など様々……!
獣人たちをこちらが見ているとわからない程度に見つめながら歩いていると、長蛇の列ができている店を見つけた。
そこから、ふわりと甘い匂いが漂ってくる。
これは……。
「甘いスイーツの匂いだわ!」
公爵令嬢たるもの、優雅に歩きなさいと言われてきていたけれど、もうその役目も終わった私は全速力で走ってその店の前に辿り着いた。
長蛇の列の中には兎や狐の獣人がいたりして、ワクワクしてしまう。
「こ、ここは……パンケーキ!?」
立て看板には可愛らしい写真映えする二段重ねのパンケーキの絵が描かれていた。
つい大声を出してしまったため列の人たちから視線が刺さる。
「……こほん。とりあえず並びましょう」
長蛇の列の最後尾に並ぶ。
前の方がちょうど犬の獣人で、フワフワの尻尾が左右に揺れていた。
もしかしてパンケーキが楽しみなのかな? と思うほどにブンブン揺れている。
モ、モフモフしたい……!
モフモフ欲を必死に抑えながら待つこと数十分。
店員から名前を呼ばれ、中に入ることができた。
家を出る間際、お父様から私の爵位を剥奪する準備をしておくと言われた。
だから、お店で名前を書く時も「ヴィーレイナ」とは書かない。
アイリスなんて名前、この国にはたくさんいる。
私が元公爵令嬢、しかも殿下の元婚約者だなんて、誰もわからないだろう。
「わっ! すごい、かわいい……!」
お店の中は小さなスプーンが中に入った小瓶や、アンティーク調の小物、ドライフラワーのリースなど可愛いものがたくさん飾られている。
特にドライフラワーは至るところに飾られていて、すごく可愛い。
メニューを開けば美味しそうなパンケーキの写真がずらりと並んでいる。
私は前世でカフェ巡りをしていたときに食べたスイーツを思い出してしまい、思わず瞳が潤んだ。
「美味しそう、美味しそうすぎる……! これ、甘いんだよね!? そうだよね!?」
この十八年間ずっと甘くないスイーツを食べ、カフェにも入れなかった私は嬉しさのあまり天井を見上げた。
この世界で初めて食べる甘いスイーツだから、私はシンプルにメープルシフォンパンケーキを注文した。
店員さんも可愛らしく、笑顔を振りまいてくれてこちらも気分よく注文できた。
メニューの写真からしてすごく美味しそうだったため、ウキウキ瞳を輝かせながら待つ。
そして他のメニューを眺めながら待つこと十数分。
店員がぷるんぷるんと揺れるパンケーキを持ってきてくれた。
二段重ねで、上には四角いバターが乗って溶けだしている。
メープルは別添えで、小瓶に入れて持ってきてくれた。
「それじゃあ……っ、はぁっ、い、いただきます……っ!」
興奮のあまり息切れがしてきた。
メープルシロップをかけてナイフでパンケーキを切ると、とても柔らかくフワフワなのがわかる。
そして、一口。
「ん~~~~~っ!!!」
美味しい。美味しすぎる。
語彙力が消失して今美味しいという言葉しか脳にない。
パンケーキはふわふわのとろとろで、隠し味に恐らく塩が入っていて少ししょっぱさを感じる。
でもしっかり甘くて、メープルをかけると甘さと美味しさはさらに増す。
溶けだしたバターと一緒に食べるとコクを感じられる。
すごく美味しい。
十八年間甘いスイーツを食べていなかった私は、たった一口で嬉しさから泣きそうになってしまう。
そのままもきゅもきゅと食べ続けて、最後の一口になったとき。
低めのコック帽を被った調理人が私の席にやってきた。
「あの……」
「? はい。どうかされましたか?」
「とても美味しそうに召し上がっているなと、キッチンから窺っておりまして……。その、美味しかったでしょうか?」
「え? ええ! とってもとっても美味しかったです! もうふわっふわのとろっとろで、最高でしたよ!」
「そう、でしたか……」
その人は少し悲しそうに目を伏せている。
「あの、どうか?」
「その……このメープルシフォンパンケーキは、この店で一番人気がないんです」
「ええっ!? こんなに美味しいのに!」
「ありがとうございます……。人気がないメニューをこんなに美味しそうに食べてくれて、嬉しくて。つい、来てしまいました」
調理人が嬉しそうに目を細める。
顔立ちを見るに女の人で、目がくりっとしていて可愛らしい方だった。
でも、こんなに美味しいのにどうして人気がないんだろう……。
「シンプルなメニューなので、他のパンケーキより見劣りするのかもしれません」
それとなく聞いてみると、調理人は悲しそうに言った。
試しに再びメニューを捲ってみると……確かに、他のパンケーキと比べて装飾が少ない。
イチゴパンケーキはイチゴの他にブルーベリーやクランベリーも飾られ、イチゴのホイップクリームも乗っている。
チョコレートパンケーキも色んな種類のナッツがかかっているし、バニラアイスも乗っていて見映えする。
それらと比べると……確かにこのメープルシフォンパンケーキはバターとメープルだけという、かなりシンプルなメニューだ。
確かに物足りなさはあるかもしれない……。
「このメニューを考案したのは、貴方?」
「はい。調理人みんなでメニューを考案しています。私は新米で、このメニューでやっと通りました。でも、やっぱり人気がないんです。売上を伸ばせと、店長からよく怒られてしまってて……あはは」
「うーん……そうね……」
シンプルなのも私は全然いいと思うけれど……この店にくるお客さんが、きっと見映えのある立派なパンケーキを求めているのだろう。
だけど、上にバターが乗っているから生クリームを乗せるわけにもいかない。
上に何かを乗せるより、パンケーキの皿に余白が残っているから、そこに何かを飾ったほうがいいだろう。
余白を埋めればきっとお客さんも満足するんだろうけれど……。
私は前世で行ってきたカフェを思い返す。
何か良い案はないだろうかと店内を見渡した。
店内はそこかしこにドライフラワーが装飾されていて……あっ!
「花の形をしたクッキーを飾ったらどうかしら?」
「花の形をしたクッキー、ですか?」
「ええ。ここはドライフラワーがたくさん飾ってありますよね。花の形をした小さなクッキーを、お皿の余っているところに飾ったらいかがでしょうか。味は、プレーン、イチゴ、チョコ、というようにカラフルにしたり。あとは、小皿にアイスを盛ってクッキーの横に添えるとか。カラフルなクッキーに粉糖をかけても可愛いと思います。あと、他のパンケーキもそうですが、三段重ねのメニューも取り入れたほうがいいと思います。男性だとこの量では足りないと思いますから」
「おお……おおお……!」
調理人が目を輝かせ、ポケットからメモとボールペンを取り出した。
「メ、メモしてもよろしいでしょうか……!」
「はい。大丈夫ですよ」
私が言ったことをせっせとメモし終えると、私の手を彼女の両手でガシッと包んできた。
「あ、あの……! ありがとうございます! すっごく参考になりました! 店長に提案してみます! 本当にありがとうございます……! お名前を、教えてはいただけないでしょうか!」
「アイリスと申します。貴方は?」
「私はカリナです! またぜひ、ぜひともこのお店にお越しください……!」
「ええ。また来ますね」
私がにこりと笑うと、「て、天使……! 女神……!」とわけのわからないことを言ってさっきの私みたいに天井を見上げていた。
カリナさんは私が会計をするときも「ありがとうございます!」と頭を下げてくれて、本当に悩んでいたんだなと感じた。
私のアドバイスであのパンケーキが売れるといいな。
屋敷からしばらく歩き、初めて見た王都の景色は壮大なものだった。
あちこちにカフェや屋台が並び、美味しそうな匂いを振りまいている。
仕立て屋や洋服店、宝飾店もあり、大きな百貨店もあった。
見ているだけで気分が高揚して、きょろきょろと辺りを見回してしまう。
そして何より……。
「す、すごい! モフモフがすごい!」
王都には獣人がちらほらといて、頭に生えているモフモフとした大きな耳に私は釘付けだった。
す、少しだけ触らせてもらえないかな……なんて、初対面の人が触ったら完全に不審者扱いだよね。そうよね。
可愛らしい猫や犬の獣人に、ガタイの良い熊の獣人、肌の白い山羊の獣人など様々……!
獣人たちをこちらが見ているとわからない程度に見つめながら歩いていると、長蛇の列ができている店を見つけた。
そこから、ふわりと甘い匂いが漂ってくる。
これは……。
「甘いスイーツの匂いだわ!」
公爵令嬢たるもの、優雅に歩きなさいと言われてきていたけれど、もうその役目も終わった私は全速力で走ってその店の前に辿り着いた。
長蛇の列の中には兎や狐の獣人がいたりして、ワクワクしてしまう。
「こ、ここは……パンケーキ!?」
立て看板には可愛らしい写真映えする二段重ねのパンケーキの絵が描かれていた。
つい大声を出してしまったため列の人たちから視線が刺さる。
「……こほん。とりあえず並びましょう」
長蛇の列の最後尾に並ぶ。
前の方がちょうど犬の獣人で、フワフワの尻尾が左右に揺れていた。
もしかしてパンケーキが楽しみなのかな? と思うほどにブンブン揺れている。
モ、モフモフしたい……!
モフモフ欲を必死に抑えながら待つこと数十分。
店員から名前を呼ばれ、中に入ることができた。
家を出る間際、お父様から私の爵位を剥奪する準備をしておくと言われた。
だから、お店で名前を書く時も「ヴィーレイナ」とは書かない。
アイリスなんて名前、この国にはたくさんいる。
私が元公爵令嬢、しかも殿下の元婚約者だなんて、誰もわからないだろう。
「わっ! すごい、かわいい……!」
お店の中は小さなスプーンが中に入った小瓶や、アンティーク調の小物、ドライフラワーのリースなど可愛いものがたくさん飾られている。
特にドライフラワーは至るところに飾られていて、すごく可愛い。
メニューを開けば美味しそうなパンケーキの写真がずらりと並んでいる。
私は前世でカフェ巡りをしていたときに食べたスイーツを思い出してしまい、思わず瞳が潤んだ。
「美味しそう、美味しそうすぎる……! これ、甘いんだよね!? そうだよね!?」
この十八年間ずっと甘くないスイーツを食べ、カフェにも入れなかった私は嬉しさのあまり天井を見上げた。
この世界で初めて食べる甘いスイーツだから、私はシンプルにメープルシフォンパンケーキを注文した。
店員さんも可愛らしく、笑顔を振りまいてくれてこちらも気分よく注文できた。
メニューの写真からしてすごく美味しそうだったため、ウキウキ瞳を輝かせながら待つ。
そして他のメニューを眺めながら待つこと十数分。
店員がぷるんぷるんと揺れるパンケーキを持ってきてくれた。
二段重ねで、上には四角いバターが乗って溶けだしている。
メープルは別添えで、小瓶に入れて持ってきてくれた。
「それじゃあ……っ、はぁっ、い、いただきます……っ!」
興奮のあまり息切れがしてきた。
メープルシロップをかけてナイフでパンケーキを切ると、とても柔らかくフワフワなのがわかる。
そして、一口。
「ん~~~~~っ!!!」
美味しい。美味しすぎる。
語彙力が消失して今美味しいという言葉しか脳にない。
パンケーキはふわふわのとろとろで、隠し味に恐らく塩が入っていて少ししょっぱさを感じる。
でもしっかり甘くて、メープルをかけると甘さと美味しさはさらに増す。
溶けだしたバターと一緒に食べるとコクを感じられる。
すごく美味しい。
十八年間甘いスイーツを食べていなかった私は、たった一口で嬉しさから泣きそうになってしまう。
そのままもきゅもきゅと食べ続けて、最後の一口になったとき。
低めのコック帽を被った調理人が私の席にやってきた。
「あの……」
「? はい。どうかされましたか?」
「とても美味しそうに召し上がっているなと、キッチンから窺っておりまして……。その、美味しかったでしょうか?」
「え? ええ! とってもとっても美味しかったです! もうふわっふわのとろっとろで、最高でしたよ!」
「そう、でしたか……」
その人は少し悲しそうに目を伏せている。
「あの、どうか?」
「その……このメープルシフォンパンケーキは、この店で一番人気がないんです」
「ええっ!? こんなに美味しいのに!」
「ありがとうございます……。人気がないメニューをこんなに美味しそうに食べてくれて、嬉しくて。つい、来てしまいました」
調理人が嬉しそうに目を細める。
顔立ちを見るに女の人で、目がくりっとしていて可愛らしい方だった。
でも、こんなに美味しいのにどうして人気がないんだろう……。
「シンプルなメニューなので、他のパンケーキより見劣りするのかもしれません」
それとなく聞いてみると、調理人は悲しそうに言った。
試しに再びメニューを捲ってみると……確かに、他のパンケーキと比べて装飾が少ない。
イチゴパンケーキはイチゴの他にブルーベリーやクランベリーも飾られ、イチゴのホイップクリームも乗っている。
チョコレートパンケーキも色んな種類のナッツがかかっているし、バニラアイスも乗っていて見映えする。
それらと比べると……確かにこのメープルシフォンパンケーキはバターとメープルだけという、かなりシンプルなメニューだ。
確かに物足りなさはあるかもしれない……。
「このメニューを考案したのは、貴方?」
「はい。調理人みんなでメニューを考案しています。私は新米で、このメニューでやっと通りました。でも、やっぱり人気がないんです。売上を伸ばせと、店長からよく怒られてしまってて……あはは」
「うーん……そうね……」
シンプルなのも私は全然いいと思うけれど……この店にくるお客さんが、きっと見映えのある立派なパンケーキを求めているのだろう。
だけど、上にバターが乗っているから生クリームを乗せるわけにもいかない。
上に何かを乗せるより、パンケーキの皿に余白が残っているから、そこに何かを飾ったほうがいいだろう。
余白を埋めればきっとお客さんも満足するんだろうけれど……。
私は前世で行ってきたカフェを思い返す。
何か良い案はないだろうかと店内を見渡した。
店内はそこかしこにドライフラワーが装飾されていて……あっ!
「花の形をしたクッキーを飾ったらどうかしら?」
「花の形をしたクッキー、ですか?」
「ええ。ここはドライフラワーがたくさん飾ってありますよね。花の形をした小さなクッキーを、お皿の余っているところに飾ったらいかがでしょうか。味は、プレーン、イチゴ、チョコ、というようにカラフルにしたり。あとは、小皿にアイスを盛ってクッキーの横に添えるとか。カラフルなクッキーに粉糖をかけても可愛いと思います。あと、他のパンケーキもそうですが、三段重ねのメニューも取り入れたほうがいいと思います。男性だとこの量では足りないと思いますから」
「おお……おおお……!」
調理人が目を輝かせ、ポケットからメモとボールペンを取り出した。
「メ、メモしてもよろしいでしょうか……!」
「はい。大丈夫ですよ」
私が言ったことをせっせとメモし終えると、私の手を彼女の両手でガシッと包んできた。
「あ、あの……! ありがとうございます! すっごく参考になりました! 店長に提案してみます! 本当にありがとうございます……! お名前を、教えてはいただけないでしょうか!」
「アイリスと申します。貴方は?」
「私はカリナです! またぜひ、ぜひともこのお店にお越しください……!」
「ええ。また来ますね」
私がにこりと笑うと、「て、天使……! 女神……!」とわけのわからないことを言ってさっきの私みたいに天井を見上げていた。
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