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第十七話「新婚夫婦みたいで、照れてしまいます!」
この国はスキンケアが豊富だ。
王都や地方に住んでいる有名な薬師が生み出すスキンケアは、とても効果があるため貴族平民問わず誰もが持っていると聞いたことがある。
様々な薬草や花のエキスが使われており、特に王都に売っているものはとても質が良い。
ベスティエ街は王都から近いから、さっき歩いていたときに感じたけれど、王都で売られている化粧品やスキンケアの店が多かった。
家を早々に追い出されたためスキンケアを持っていなかった私は、エリオットが使用しているスキンケアを少~しだけ使わせていただく。
「おかえり。夕食作ったから、一緒に食べない?」
着替えてリビングに繋がる扉を開けたら、エリオットが夕食を用意して待っていた。
お風呂にお湯も溜めてくれて、その上私がお風呂に入っている間に夕食の準備!?
嬉しくは思うけれど、同時に申し訳なさも感じてしまった。
「エリオット。その……いろいろしてくれて、ありがとう」
「全然構わない。それより、馬車に乗って風呂も入って、腹が減っただろう。良かったら食べてくれ」
王都を抜けるにはかなり時間がかかる。
このローズウェリー王国の王都はとても大きく、私たちがいた場所が王都の中でもかなり中心部だったから、そこから馬車で抜けるには時間を要するのだ。
スイーツブッフェでお腹は大分満たされていたけれど、エリオットの言う通り馬車に揺られてお風呂に入ったらまたお腹が空いてきてしまった。
木製のテーブルに置かれているのは、ガーリックチップが乗ったステーキとハーブサラダ、コーンスープ。
こんなにしっかりしたものを作ってくれるなんて、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「じゃあ……食物の神よ、ありがたく頂戴します」
この国で食べ物を頂くときに言う挨拶をする。
パンケーキを食べたときは興奮のあまり「いただきます」と言ってしまったが、他人と食事をするときにはこう言わないと怪しまれてしまう。
まあ、この国にない挨拶をしたからといって異世界から来た人間だなんて予想できないと思うけど。
コーンスープはもったりしていて甘く、ステーキはにんにくが多すぎず食べやすい。
ハーブサラダは香り豊かで、玉ねぎが入ったドレッシングとも相性が抜群だ。
「すごい。エリオットって、料理がとても上手なのね」
「はは。そんなことないよ。一人暮らしをしているうちに身に着けたってだけだ」
エリオットも挨拶をして料理を食べている。
エリオットの皿に盛られているガーリックステーキは、私のものよりも量が多い。
やはり狼獣人だから、かなりの量を食べるのだろう。
私はそのくらいでもぺろりといけてしまうのだけれど。
「アイリスは、イチゴブッフェの他にどんなカフェに行ったの?」
「パンケーキ屋とか、イタリアンの店や、ジェラート店……。いろいろ周ったわ」
「なにが一番美味しかった?」
「選び難いけど……やっぱりパンケーキ! フワッフワのとろっとろでとっても美味しくて……」
こんな風に普通の会話で食事するの、いつぶりだろう。
両親と食事していたときは、全然何も喋らなかった。
口を開いたかと思えば、次に買う参考書の話や家庭教師からこの部分ができていなかったと伝えられたとのお怒りの言葉。
殿下との食事も自慢ばかりで楽しくなかった。
前世だって、一人暮らしをしていたから誰とも喋らずに食事していた。
誰かと会話を弾ませながら食べることがこんなに良いものだなんて。
それからエリオットとはお互いのオススメのカフェや、騎士団で普段は何をしているのか、好きな花の種類などいろんな話をした。
それは友人同士でするようなごく普通の会話だったけれど、とても楽しいものだった。
どうやらエリオットは、騎士団の中でもかなりの功績を残している団員らしい。
魔物が大量発生するスタンピードといわれる現象を一人で止めたり、地方に棲みつくドラゴンの心臓を一突きで刺して仕留めたり、SS級ランクの魔物を一人で倒したり、エリオットの直属の部下は彼の教育により素晴らしい実績を残していたり……。
団員の中でも一番の実力を持っているため、団長候補なのだそうだ。
今は若いから、まだ団長になれない歳なのだろう。
エリオット自身は「たいしたことないよ」と言っていたけれど、私としてはドラゴンを仕留めたりだとか大量の魔物を平気で倒したりだとか、想像もつかないけれど普通の人より圧倒的な力を持っていることはわかる。
私、こんな人と『運命の番』でいい……の?
エリオットもお風呂を済ませ、しばらくリビングで他愛ない話をしたあと、寝る準備をすることになった。
私は二階にあるエリオットの隣の部屋。
案内されると白の壁と薄い色の床板の部屋で、シングルベッドと観葉植物のみが置かれている。
「ごめん、シンプルな部屋で」
「いえ、このくらいシンプルなほうがとても居心地がいいから、平気よ」
公爵令嬢のときにいた屋敷の部屋は、薔薇の壁紙だの有名な画家が描いた天井画だので前世の記憶を思い出してから全く落ち着かなかった。
こっちのほうが断然いい。
「ベッドは来客用だから、全然使ってない。シーツもちょうど昨日洗っていたから、このベッドで良ければ休んでくれ。もし寝心地が悪かったら明日新しいのを買いに行こう」
「いえ、このベッドで十分だわ。ありがとう」
「それじゃあ、おやすみ。アイリス」
「おやすみなさい。エリオット」
キィ、と音を立てて扉が閉まる。
扉に背を預け、口に両手を当てて固まる。
い、いまの、すごい新婚夫婦みたいじゃなかった!?
お互いの名前を呼んでおやすみなさいって……完全に夫婦じゃない。
どうやったって意識してしまうでしょ。
「もう! 今更恥ずかしくなってきた!」
バッグに入っていたネグリジェに着替えた私は、ベッドにぼふんっと沈んで悶える。
勢いでエリオットと一緒に住むことになっちゃったけど、この先どうなるんだろう。
まず、働き先を決めないと。
宿代が意外とかかったから、恐らくこのまま食費などに使っていたら貯金が尽きてしまう。
エリオットは私の『運命の番』だ。
エリオットは、本当に愛してくれるのかな。
私は太っているし、殿下みたいに愛想をつかれてしまったら、どうしよう。
そもそもこんなに太っていて顔もまんまるの女が『運命の番』だなんて、エリオットは嫌じゃないのかな。
ぐるぐるいろんなことを考えていると、次第に瞼が重くなり、ゆっくり目を閉じた。
翌日、小鳥の囀りで目が覚めた。
壁に時計が飾ってあり、時刻は八時。
エリオットはもう起きているだろうか。
ネグリジェからカバンに入っている私服に袖を通す。
今は昨日の服と、今日着る服しか外に出られるようなものは持ち合わせていない。
宿にいる間に私服を洋服店で買おうかと思っていたが、いかんせんバッグが小さくて入らなかったからやめた。
今日の服は梯子レースが繊細に施されたラベンダー色のワンピースだ。
階段を降りてリビングに着くと、エリオットがパンをトースターで焼いてくれているところだった。
「おはよう。寝起きの君も綺麗だね」
「おは……へ!?」
エリオットが何の躊躇いもなく口説いてきて、私は固まってしまう。
綺麗だなんて言われたこと、一度もない。
前世でもない。きっとお世辞だろう。一応礼を言っておこう。
「ありがとう、エリオット」
「こんな綺麗な人が俺の番で、すごく嬉しい」
「……」
……お世辞で間違いないわよね。
でもエリオットの瞳は純真で、本当のことを言っているように錯覚してしまう。
私はとても太っている。
それも理由の一つで殿下から婚約破棄された。
それなのに、どうして綺麗だなんて言ってくれるんだろう。
「スープは昨日の残りものでもいい? 結構余っちゃってて」
「あ、ええ。構わないわ」
昨日の夕食は、ガツガツ食べるのもどうかと思って少しだけしか食べなかった。
エリオットから貰った分は完食したけれど、おかわりはしていなかったのだ。
といっても普通の人間の女性が食べる量だったのだろうけれど。
挨拶をして焼きたてのパンと温まったスープを飲む。
「今日も休みで、明日から仕事なんだ。二人で住むにあたって必要なものを買いに行かない?」
確かに私の部屋はベッドと観葉植物くらいしかないし、自分用のスキンケアやシャンプーもない。
私はこくりと頷いてパンを食べ、エリオットと二人で外に出かけることにした。
王都や地方に住んでいる有名な薬師が生み出すスキンケアは、とても効果があるため貴族平民問わず誰もが持っていると聞いたことがある。
様々な薬草や花のエキスが使われており、特に王都に売っているものはとても質が良い。
ベスティエ街は王都から近いから、さっき歩いていたときに感じたけれど、王都で売られている化粧品やスキンケアの店が多かった。
家を早々に追い出されたためスキンケアを持っていなかった私は、エリオットが使用しているスキンケアを少~しだけ使わせていただく。
「おかえり。夕食作ったから、一緒に食べない?」
着替えてリビングに繋がる扉を開けたら、エリオットが夕食を用意して待っていた。
お風呂にお湯も溜めてくれて、その上私がお風呂に入っている間に夕食の準備!?
嬉しくは思うけれど、同時に申し訳なさも感じてしまった。
「エリオット。その……いろいろしてくれて、ありがとう」
「全然構わない。それより、馬車に乗って風呂も入って、腹が減っただろう。良かったら食べてくれ」
王都を抜けるにはかなり時間がかかる。
このローズウェリー王国の王都はとても大きく、私たちがいた場所が王都の中でもかなり中心部だったから、そこから馬車で抜けるには時間を要するのだ。
スイーツブッフェでお腹は大分満たされていたけれど、エリオットの言う通り馬車に揺られてお風呂に入ったらまたお腹が空いてきてしまった。
木製のテーブルに置かれているのは、ガーリックチップが乗ったステーキとハーブサラダ、コーンスープ。
こんなにしっかりしたものを作ってくれるなんて、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「じゃあ……食物の神よ、ありがたく頂戴します」
この国で食べ物を頂くときに言う挨拶をする。
パンケーキを食べたときは興奮のあまり「いただきます」と言ってしまったが、他人と食事をするときにはこう言わないと怪しまれてしまう。
まあ、この国にない挨拶をしたからといって異世界から来た人間だなんて予想できないと思うけど。
コーンスープはもったりしていて甘く、ステーキはにんにくが多すぎず食べやすい。
ハーブサラダは香り豊かで、玉ねぎが入ったドレッシングとも相性が抜群だ。
「すごい。エリオットって、料理がとても上手なのね」
「はは。そんなことないよ。一人暮らしをしているうちに身に着けたってだけだ」
エリオットも挨拶をして料理を食べている。
エリオットの皿に盛られているガーリックステーキは、私のものよりも量が多い。
やはり狼獣人だから、かなりの量を食べるのだろう。
私はそのくらいでもぺろりといけてしまうのだけれど。
「アイリスは、イチゴブッフェの他にどんなカフェに行ったの?」
「パンケーキ屋とか、イタリアンの店や、ジェラート店……。いろいろ周ったわ」
「なにが一番美味しかった?」
「選び難いけど……やっぱりパンケーキ! フワッフワのとろっとろでとっても美味しくて……」
こんな風に普通の会話で食事するの、いつぶりだろう。
両親と食事していたときは、全然何も喋らなかった。
口を開いたかと思えば、次に買う参考書の話や家庭教師からこの部分ができていなかったと伝えられたとのお怒りの言葉。
殿下との食事も自慢ばかりで楽しくなかった。
前世だって、一人暮らしをしていたから誰とも喋らずに食事していた。
誰かと会話を弾ませながら食べることがこんなに良いものだなんて。
それからエリオットとはお互いのオススメのカフェや、騎士団で普段は何をしているのか、好きな花の種類などいろんな話をした。
それは友人同士でするようなごく普通の会話だったけれど、とても楽しいものだった。
どうやらエリオットは、騎士団の中でもかなりの功績を残している団員らしい。
魔物が大量発生するスタンピードといわれる現象を一人で止めたり、地方に棲みつくドラゴンの心臓を一突きで刺して仕留めたり、SS級ランクの魔物を一人で倒したり、エリオットの直属の部下は彼の教育により素晴らしい実績を残していたり……。
団員の中でも一番の実力を持っているため、団長候補なのだそうだ。
今は若いから、まだ団長になれない歳なのだろう。
エリオット自身は「たいしたことないよ」と言っていたけれど、私としてはドラゴンを仕留めたりだとか大量の魔物を平気で倒したりだとか、想像もつかないけれど普通の人より圧倒的な力を持っていることはわかる。
私、こんな人と『運命の番』でいい……の?
エリオットもお風呂を済ませ、しばらくリビングで他愛ない話をしたあと、寝る準備をすることになった。
私は二階にあるエリオットの隣の部屋。
案内されると白の壁と薄い色の床板の部屋で、シングルベッドと観葉植物のみが置かれている。
「ごめん、シンプルな部屋で」
「いえ、このくらいシンプルなほうがとても居心地がいいから、平気よ」
公爵令嬢のときにいた屋敷の部屋は、薔薇の壁紙だの有名な画家が描いた天井画だので前世の記憶を思い出してから全く落ち着かなかった。
こっちのほうが断然いい。
「ベッドは来客用だから、全然使ってない。シーツもちょうど昨日洗っていたから、このベッドで良ければ休んでくれ。もし寝心地が悪かったら明日新しいのを買いに行こう」
「いえ、このベッドで十分だわ。ありがとう」
「それじゃあ、おやすみ。アイリス」
「おやすみなさい。エリオット」
キィ、と音を立てて扉が閉まる。
扉に背を預け、口に両手を当てて固まる。
い、いまの、すごい新婚夫婦みたいじゃなかった!?
お互いの名前を呼んでおやすみなさいって……完全に夫婦じゃない。
どうやったって意識してしまうでしょ。
「もう! 今更恥ずかしくなってきた!」
バッグに入っていたネグリジェに着替えた私は、ベッドにぼふんっと沈んで悶える。
勢いでエリオットと一緒に住むことになっちゃったけど、この先どうなるんだろう。
まず、働き先を決めないと。
宿代が意外とかかったから、恐らくこのまま食費などに使っていたら貯金が尽きてしまう。
エリオットは私の『運命の番』だ。
エリオットは、本当に愛してくれるのかな。
私は太っているし、殿下みたいに愛想をつかれてしまったら、どうしよう。
そもそもこんなに太っていて顔もまんまるの女が『運命の番』だなんて、エリオットは嫌じゃないのかな。
ぐるぐるいろんなことを考えていると、次第に瞼が重くなり、ゆっくり目を閉じた。
翌日、小鳥の囀りで目が覚めた。
壁に時計が飾ってあり、時刻は八時。
エリオットはもう起きているだろうか。
ネグリジェからカバンに入っている私服に袖を通す。
今は昨日の服と、今日着る服しか外に出られるようなものは持ち合わせていない。
宿にいる間に私服を洋服店で買おうかと思っていたが、いかんせんバッグが小さくて入らなかったからやめた。
今日の服は梯子レースが繊細に施されたラベンダー色のワンピースだ。
階段を降りてリビングに着くと、エリオットがパンをトースターで焼いてくれているところだった。
「おはよう。寝起きの君も綺麗だね」
「おは……へ!?」
エリオットが何の躊躇いもなく口説いてきて、私は固まってしまう。
綺麗だなんて言われたこと、一度もない。
前世でもない。きっとお世辞だろう。一応礼を言っておこう。
「ありがとう、エリオット」
「こんな綺麗な人が俺の番で、すごく嬉しい」
「……」
……お世辞で間違いないわよね。
でもエリオットの瞳は純真で、本当のことを言っているように錯覚してしまう。
私はとても太っている。
それも理由の一つで殿下から婚約破棄された。
それなのに、どうして綺麗だなんて言ってくれるんだろう。
「スープは昨日の残りものでもいい? 結構余っちゃってて」
「あ、ええ。構わないわ」
昨日の夕食は、ガツガツ食べるのもどうかと思って少しだけしか食べなかった。
エリオットから貰った分は完食したけれど、おかわりはしていなかったのだ。
といっても普通の人間の女性が食べる量だったのだろうけれど。
挨拶をして焼きたてのパンと温まったスープを飲む。
「今日も休みで、明日から仕事なんだ。二人で住むにあたって必要なものを買いに行かない?」
確かに私の部屋はベッドと観葉植物くらいしかないし、自分用のスキンケアやシャンプーもない。
私はこくりと頷いてパンを食べ、エリオットと二人で外に出かけることにした。
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失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。