ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮

文字の大きさ
44 / 49

第四十四話「エリオット……どうか、無事でいて」


 エリオットが魔物と戦いに行ってから一か月。
 私はレビィでいつも通り働いていた。

「馬鹿だわ、私……」

 手が空いているときに静かに呟く。
 どうしてあのとき止めなかったのだろう、と後悔と自分に対しての怒りが押し寄せてくる。

 危険な仕事だったはずなのに、「行ってらっしゃい」だなんていつも通り見送ってしまった私は本当に馬鹿だ。
 行かないでって素直に言うべきだったんだ。

 エリオットが行ってしまってから今日まで、彼のことを考えないことがなかった。

 こんなに心配で、不安で、離れているだけで心をかきみだされていくのは……エリオットのことが好きだからに決まっている。

「アイリスさん、危ない!」
「え……あっ」

 重いため息を吐いてルトさんから料理を受け取ったら、そのまま落としてしまった。
 床にパスタと炒められた野菜がちらばる。

「アイリスちゃん! もう休憩しな」
「で、でも……」
「みんなで片付けておくから。お前がこんなにミスするなんて珍しい。何かあったんだろう、休んでくるといいよ」
「ありがとう、ございます」
「……」

 ミルさんからの視線を感じたけれど、私は彼女と目を合わすこともしないまま裏で休むことにした。
 まかないの昼食も食べる気にならず、俯いて何回吐いたかわからないため息を漏らす。

 今日、四度目のミスだ。
 ルトさんとルザックさんがお客さんに心をこめて作った料理なのに……後で二人に謝ろう。

 結局休憩は椅子に座って俯いたまま何もせずに過ごしてしまった。

「アイリスさん、この後用事はありますか?」

 休憩から仕事を数時間行って閉店後、裏で着替えて一人で帰ろうとしたら、ミルさんに呼び止められた。

 休憩後に料理を落としてしまったことをキッチンの二人に謝ったら、「気にするな! 次、気をつけてくれればいいから!」と笑って肩をぽんぽん叩いてくれて、本当に良い人だと感じた。

 この一か月間、仕事に行くたび毎回ミスをしている。
 申し訳ないと思っているのに、どうしてもエリオットのことを考えてしまってミスしない日がない。

「これからミルと一緒にお酒を飲みがてら、夕食を食べようと思ってたのよ。良かったらアイリスさんもどう?」
「私は……」

 気遣ってくれているのがわかった。
 ミルさんもナジェリさんも、私に何かあったことを察しているのだろう。

 相談しようか迷って口ごもっていると、ミルさんが私の肩に腕を回してきた。

「行きましょうよ、アイリスさん! アイリスさん十八歳過ぎてますよね? お酒一緒に飲んでストレス発散しましょ!」

 荷物の支度をしていた私は、半ば強引に一緒に店の外へと出される。
 そのままミルさんに腕を組まれ、夜の街を三人で歩いた。

「はーっ、もうすぐ夏ですねぇ。こないだまであんなに寒かったのに」
「……ええ、そうですね」

 こんな適当な返事しかできない自分が嫌になる。

 ミルさんとナジェリさんは私のことを心配してくれているはずだ。
 なのに、上手く返答できない。

 今すぐ泣きだしてしまいそうなくらいに、胸が痛い。
 ありきたりな返事をしながら三人で歩いていると、不意に立ち止まった。

 目の前には、ノンアルコール含め二百種類以上のお酒を用意しています! と可愛らしい字で立て看板に書かれている、良い匂いが漂ってくるビストロ。

「入りますよ! アイリスさん!」

 ミルさんが勢いよくドアを開けると、カランカランとベルが鳴って、店員が出迎えた。
 三名入ることを告げると、端の席に案内される。

 私たちが座った席以外満席で、人気であることが窺えた。

「ここ、お酒の種類が豊富で有名なのよ。しかも料理も抜群に美味しい。今日は私が奢るから、コースにしましょう」
「えっ! ナジェリさんの奢りですか! ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます」

 コース料理は一つしかなく、前菜とお肉料理、この店の名物であるラザニア、デザートの焼き菓子とスイーツ三種盛りを頼んだ。

 運ばれてきた前菜はローストビーフと春野菜のシーザーサラダで、野菜がシャキシャキで美味しい。
 そういえば、聖夜祭の日にエリオットが作ってくれたサラダもシーザーサラダだったなと思い出す。

 それだけで泣きそうになって、涙を流さないようにシーザーサラダを口に押しこむ。

「……アイリスさん」
「はい、なんでしょう……?」
「何かありましたか?」

 シーザーサラダが食べ終わって、鴨肉のソテーが運ばれてきたころにミルさんが切り出す。

「この一か月間、アイリスさんお仕事も上の空って感じじゃないですか? 何かあったでしょう。私たちに話せることがあれば、話してくれませんか?」
「ミルと話していたのよ。アイリスさんが何か危険な目に遭ってるんじゃないかって。お願い、私たちに話してみない? 絶対に誰にも言わないわ。私たちを信じて」

 ミルさんとナジェリさんから、真剣な瞳で告げられる。
 ああ、私は本当に素敵な仕事仲間を持ったんだなと、それだけで涙腺が緩んだ。

 相談するか迷っていた自分が馬鹿馬鹿しい。
 この気持ちを吐き出すだけでも、私は楽になれるはずだ。

「その……危険な目に遭っているのは、私じゃないんです」
「じゃあ……エリオット様が?」
「はい。一か月前に、地方の村の大きな魔物を倒しに行く、と言ったきり帰ってこなくて……」

 本当のことを話した瞬間、わっと滝のように涙が溢れた。
 ナジェリさんがハンカチを差し出してくれて、礼を言いながら溢れ出す涙を一つ一つ拭う。

「わ、私、さっさと止めれば良かったんです……っ。なのに、行ってらっしゃいって、きっと帰ってくるだろうなって思って、止めなかったから……」

 しゃくり上げながら、一つ一つ言葉を零す。
 視界が滲んで見えなくて、料理の皿にぽつぽつ涙が落ちた。

 ミルさんが、「アイリスさん」と呼びかける。

 顔を上げてよく見えていない視界から、ミルさんが私を安心させるように笑いかけているのがなんとなくわかった。

「アイリスさんのせいじゃありません。だから、どうか泣かないで」
「ええ。それに、まだ、亡くなったと決まったわけじゃないわ」

 二人の冷静な言葉に、涙が徐々に止まってくる。

「エリオット様って、アイリスさんが番なことは騎士団のみなさんに伝えているのですよね?」
「……は、はい」
「それならもしエリオット様が亡くなってしまったら、騎士団のほうから連絡が来るはずよ。番が亡くなってしまったことを話さない人はいないわ」
「大丈夫です。きっと、今戦っている最中なんですよ。だからエリオット様の無事を祈って、アイリスさんはいつも通り過ごしてください。エリオット様だって、アイリスさんを悲しませたいだなんて思っていないはずですよ。笑っていてほしいはずです」
「そう……ですね。そうですよね……っ」

 二人の励ましに、私は再び涙を一筋だけ落とした。
 そうだ。エリオットは、私がいつまでも悲しんでいることを望んでいたりしない。

 エリオットがいなくても、しっかり仕事をこなして笑っているほうが、きっと彼が帰ってきたときに安心するはずだ。

 それ以降の料理が運ばれてきても、私は泣くことなくミルさんたちと他愛のない話をした。
 今月の季節限定メニューも私が考えたものが採用されたことに喜んでくれたり、料理が美味しいと談笑したり。

 二人に話したことによって大分心が楽になり、エリオットが無事に帰ってくることを毎日祈ろうと決意した。
感想 16

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。 また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。 残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。