48 / 49
番外編2「フレッドの怪我」
エリオットが帰って来てから数日。
帰ってきた当日に、私はエリオットから団員たちの安否を聞いていた。
行方不明者はなし。怪我をした人は軽度を含め百名前後。
その中に、フレッドも含まれていたらしい。
フレッドは重症で、毒性のある魔物に脇腹を刺されてしまったそうだ。
――幸い毒消し草のドリンクを薬師が飲ませてくれて、毒の効能は消えた。けど、それでも目覚めてないんだ。
私と想いを通じ合わせたあとも、エリオットはフレッドのことが心配で仕方なく、元気がなかった。
「今日はエリオットの大好きなオムライスよ」
「あ……ありがとう。アイリス」
今日の昼食でなんとか元気づけて欲しくて、オムライスをエリオットの前に置く。
エリオットはこの数日間、獣人騎士団の団長と政府に報告書を提出していて、とても忙しくフレッドの様子を見に行けていなかった。
他の団員にも聞いてみたけれど、フレッドはまだ目覚めていないらしい。
「フレッド……良くなってるといいわね」
「ああ。今日は非番だから、様子を見に行きたい」
そう言って、エリオットがオムライスを頬張った、そのとき。
「エリオットさん! エリオットさーん!」
コンコンとドアを叩きながら誰かが叫んでいる声が聞こえて来た。
窓を覗くと、私たちの家の前に馬車がいくつか止まっている。
この少し高い声は、恐らく……。
「ルギル? どうした?」
エリオットがドアを開けてルギルを中に入れる。
ルギルの他にも何人もの騎士団の服を着た団員たちがいて、何か一刻を争う事態なのかと私は身構えた。
ルギルはエリオットの服を掴んで、嬉しそうな声音を放つ。
「フレッドさんが目覚めたって!」
「! 本当か!」
「意識もしっかりあるみたいだから、今すぐ病院に行きましょう! みんなで会いに行きましょう!」
「わかった! アイリス、君も来てくれ!」
「あ……はい!」
エリオットに手を引かれ、私も騎士団が乗っている馬車に乗りこんだ。
この国の病院は、治癒魔術師と薬師が治療している。
王都に行けば王族の治療も行うため、宮廷魔術師の一部も病院で働いている。
フレッドは意識も昏倒するくらいの重症だったから、タニア村付近の病院に運ばれた後、王都の病院に搬送されたとエリオットが言っていた。
王都の中でもベスティエ街と近い病院に運ばれたから、ここから近い。
馬車に揺られている間も、団員たちはフレッドの目覚めに喜んでいるのか、少し興奮気味だった。
「フレッド様は、今ポーションを飲んでいる時間です。腹部の傷もあるため、くれぐれも刺激しないよう、静かに病室でお過ごしください。それと、その人数では病室に入りきれませんので、少人数ずつお入りください」
病院に到着すると、薬師の人が出迎えて注意を促した。
団長は仕事で夜に見舞いに行くと連絡があったらしく、最初は副団長であるエリオットと何故か私、そして第一班班員のルギルが入ることに。
静かに病室のドアを開けると、フレッドがベッドから身を起こして空のポーションを弄んでいるところだった。
「おや、可愛いエリオットの番も来てくれたのか?」
再会早々第一声が口説き文句ということは、フレッドも大分元気になったのだろう。
「心配したんですよ、フレッドさん! もうこのまま目覚めなかったら、俺、どうやって生きていこうかと……」
「重い重い」
「俺も心配した。傷はどうなんだ?」
「深いっちゃ深いけど、大声で笑ったり伸びをすると痛くなる程度。心は驚くほど元気だよ。そんな心配すんなって」
ルギルとエリオットと会話しているフレッドは、いつも通りの声の調子で、いつも通りの笑みを浮かべていた。
……フレッドが無事で安心したけれど、少し気まずい。
私が獣人騎士団じゃないというのもある。
もっと問題なのが、私がフレッドを振ってから最初の再会だということだ。
フレッド的には、気まずくないのだろうか。
二人と話しているフレッドを盗み見ていたら、不意にばちっと視線がかち合った。
「アイリス、どうしたんだ? 俺に何か言いたいことでもあるのか?」
「え、いや、その……」
私のバカ!
フレッドがこんな自然に振舞ってるのに、私がこんなに挙動不審だったら申し訳ないじゃない!
それでも何も言えなくて下を向いていると、二人も不思議そうな顔をしていた。
「ごめん、エリオット、ルギル。五分でいいからアイリスと二人にしてもらってもいいか?」
「は?」
「いやそんな怒んなって。五分だから、五分」
「わかりました! 俺、外出てますね!」
「はあ……疚しいことしたらお前の脇腹殴るからな」
「いやえげつないだろそれ」
フレッドの言葉に従って、二人は病室の外に出て行ってしまった。
バタン、と扉が閉じられる。
エリオットの香りがなくなって、怖い。
フレッドと二人きりで気まずい。
どうしよう、何を喋ればいいんだろう。
ていうか、なんで二人にしたんだろう。
「毛先、エリオットと同じ色だね」
「え? ええ」
「似合ってるよ」
フレッドが微笑む。
これは、『運命の番』として想いが繋がった証拠の、髪色だ。
私とエリオットが両想いになって、恋人同士になった、証。
フレッドは……その話を知っているのだろうか。
「こないだのこと気にしてるんでしょ」
「へ!? き、き、気にしてないから!」
「バレバレだって」
くくっとフレッドが押し殺すように笑う。
わかりやすく動揺した私が恥ずかしくて、フレッドが笑っている間ずっと黙っていたら、「アイリス」と優しく呼ばれた。
「デートって言ったことは冗談だから。気にしないで」
「え……冗談?」
「そ。冗談」
フレッドが笑っているように見えたけれど、ちょうど太陽が雲から顔を出して、逆光で詳しい表情は見えなかった。
「……もう! からかわないでよ!」
「ははっ、だって、面白くて」
つい本気にしちゃったじゃない。
怒りで肩でもバシッと叩こうとしたけれど、病人なのだからやめておこうと手を下げる。
初めて会ったときも、エリオットはフレッドに女で遊ぶなよ、みたいなことを言っていた気がする。
私は遊ばれていたのだろう。
まったく、顔が良いからってそういうのは良くないと思うわ。
「フレッド、そろそろ時間だ。入っていいよな?」
「ああ、入っていいよ。……アイリス」
「え?」
「これからも『友達』として、よろしくな」
扉が開く直前、フレッドはなんとなく辛そうな声音でそう言った。
怪我が痛んだのだろうか。
それからはフレッド含め四人で騎士団の話をしたり私のお弁当の話をしたり、楽しく会話して他の団員と交代したのだった。
あなたにおすすめの小説
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】捨てられた悪役はきっと幸せになる
ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。
強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。
その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。
それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。
「ヴィヴィア、あなたを愛してます」
ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。
そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは?
愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。
※本作は、一般的な爽快ざまぁ・即溺愛を主軸とした作品ではありません。
また、人によっては元鞘に見える展開や、ヒーローが執着・独占欲強め(ヤンデレ寄り)と感じられる描写があります。
残酷な描写、精神的トラウマ描写を含みますので、苦手な方はご注意ください。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。