面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

文字の大きさ
297 / 661
第11章 新規・新装・戴冠・結婚

第293話 パメラとアビゲイル

しおりを挟む
 しばらく2人でまったりと過ごしたあとの夕刻、城へ戻る前にアビゲイルの荷物を回収しようと宿屋へと赴き、部屋へ入ってからは【無限収納】の中にアビゲイルの荷物をしまっていく。

「改めて見ても凄いですね。一体どれだけ入るのですか?」

「ん? 制限はないよ」

「え……? 【アイテムボックス】ですよね?」

「いや、【無限収納】」

「え……え……?」

 ケビンから伝えられた内容に、アビゲイルは意味がわからなくなって混乱してしまう。

「……ゆ」

「先に行っておくけど勇者じゃないからね?」

 アビゲイルがまさに言わんとしたことを、ケビンが機先を制して伝えるのだった。

 そして、アビゲイルの荷物をしまい込んだケビンは、指輪を2個取り出してアビゲイルのそれぞれの指へはめていく。

「ッ!」

「さっき言ったことは嘘じゃないって証明。2個あるのはうちの決まりごとみたいなもので、1個は婚約指輪で右手の指につけたもの。もう1個は結婚指輪で左手の指につけたものだから」

「……嬉しい……です……」

 アビゲイルは両手の指にはめられたそれぞれの指輪を眺めて、瞳からポロポロと涙を流すのだった。

「アビーの両親って何処にいるの? 結婚の挨拶をしようと思うんだけど」

「……」

「アビー?」

「……両親は殺されてもういないのです」

 その言葉を聞いたケビンは、アビゲイルを抱きしめた。

「ごめん、辛いこと思い出させたね」

「いいのです。もうだいぶ昔のことですから……それに今はもう1人ではありません。ケビン様が新しい家族となってくれました」

「俺だけじゃないよ。俺の城にいる人たちはみんな家族だから、アビーの家族でもあるんだよ。だからこれからはもう1人じゃないし、逆に1人の時間が取れないくらいにいっぱい家族がいるからね。寂しくなんてならないよ」

「私……ケビン様に出会えてとても幸せです。100年以上1人で生きてきましたが、私には仕事しか打ち込めるものがなく仕事が家族みたいになっていました」

 それからケビンは自身のことについてや、城にいる者たちについての説明を終えると、アビーとともに宿屋を引き払って手を繋いで城へと向かっていく。

 城門を通り憩いの広場へやってきたケビンは、アビゲイルをみんなに紹介しようとするのだが、ケビンの姿を捉えた嫁たちがいち早く騒ぎだす。

「あーっ! ケビン君がまた新しい女性を引っ掛けてきた!」

「……受付嬢2号?」

 ニーナはアビゲイルのことを覚えていたのか、交易都市のギルド受付嬢だと見抜いたが、それに反応したのはもう1人の受付嬢だった。

「ちょっとケビン君、どこの受付嬢を攫ってきたのよ!?」

「受付嬢なの? どこのギルドかしら?」

「あの人は交易都市ソレイユの受付嬢だよ」

 ケビンが答えるまでもなく、記憶力のいいクリスがサクッとサーシャとシーラへ答えを告げる。

「ケビン様は受付嬢がお好きなのでしょうか?」

「花形と言われる職業だからですか?」

「私も受付嬢を体験してみるべきでしょうか?」

「それなら私もアリスと一緒に体験したいです」

 王女2人が職場体験の話し合いを進めている中、ケビンが笑いつつアビゲイルへ声をかける。

「ね? これだけ騒がしければもう寂しくならないでしょ?」

「ふふっ、そうですね」

 ケビンとアビゲイルが2人で話していると、ティナが目ざとくアビゲイルの指にはまっている物に気がついた。

「ケビン君の結婚指輪してる!」

「新妻」

「ケビンもやるわね」

「受付嬢2人なんてキャラ被りじゃない!」

「王女も2人いるよ」

「レティと私はキャラ被りなのですか?」

「キャラ被りとは何でしょうか?」

「はいはい、みんな静かに。アビー、自己紹介してくれる?」

 それから1人ずつ自己紹介が始まると、終わったところでケビンがティナへ質問を投げかけた。

「ティナ、アビーの種族ってわかる?」

「あぁー、また馬鹿にしてるでしょ! それくらいわかるわよ、アビーはどこからどう見てもエルフよ! ちょっと日焼けしてるけど……私もたまには日焼けしようかな? その肌の色もいいわね」

「だってさ、アビー。ちなみに他の人は?」

 ケビンの質問に答えられたのはクリスだけで、他の嫁たちはティナ同様にエルフと判定したのだった。

「正解はクリスだけだね。アビーは厳密に言うとダークエルフって種族だよ」

「え……ケビン君もしかして、日焼けしてるからダークエルフって呼んでるの? 安直すぎない?」

「いや、俺が種族名を付けたわけじゃないからね?」

「違うの?」

「そもそもそんなことだったらクリスが知ってるわけないだろ?」

「あ、そうか」

「ティナのあんぽんたん」

「ちょ、ニーナ!」

「ふふっ、賑やかですね」

 それからケビンは、ダークエルフの名前の由来や迫害対象であることを全員に伝えていく。

 ケビンの話が進むにつれてエルフであるティナが怒りだして、「アビーを差別するエルフは根絶やしにすればいいわ!」と、過激な発言が飛び出してしまい、アビー自らが宥める形となる。

「――ということだから。ちなみにサーシャへ朗報。アビーは受付嬢から昇進してギルドマスターになってるからキャラ被りはしないよ。そもそも人とエルフだから被っても受付嬢って職業だけだったし、エルフって点でもティナとも種族が違うから被らないし」

「え……もしかして帝都のギルドマスター?」

「そうだよ。新しく来たギルドマスター」

「ちょ、バリバリの上司じゃない!」

「そうなるね、というか知らなかったの? 復興したら受付嬢するんだよね? 引き抜きの異動だから面接とかはなかったけど」

「王都のギルドマスターが気を利かせてくれて『新婚だから働き始めるのは好きな時期にしろ』って言ってくれたから、のんびり構えていたのよ。それに復興後はバタバタするのが目に見えているから、機を見て落ち着いたら働こうかなぁって」

「ふふっ……サーシャ、明日から新装開店ですよ。一緒に頑張りましょうね」

「ケビン君、なんて時期に上司を引っ掛けてきてるのよ。逃げれないじゃない……」

「俺は働いてるサーシャとかも好きだけど。好きな仕事をしててキラキラしてるから」

「もう! そんなこと言われたら明日から頑張るしか道がなくなるでしょ」

 怒っているように頬を膨らませるサーシャだったが、口元がニヤニヤしているのは誰が見ても明らかである。

「あとは……そうだ! パメラ、おいで」

 ケビンに呼ばれたパメラはトコトコと近づいていき、ケビンへ挨拶をする。

「……おかえ……り……」

「ただいま、パメラ。いい子にしてた?」

「……イスの……とこ……いた……」

 パメラがケビンの服を掴んでいるのとは逆の手で、憩いの広場にある玉座を指さしていた。

「ああ、パメラのお気に入りの場所か。イスに座ってもいいんだよ? 誰も怒ったりしないから」

「……ごしゅじんさまの……ばしょ……」

「座ってみたくないの?」

「…………みたぃ……」

「よし」

 ケビンはパメラを抱き上げてアビーと手を繋いで玉座まで歩いていくと、後ろから眺めていた嫁たちは羨みのため息をこぼすのであった。

「親子よねぇ」

「家族」

「お姉ちゃんも手を繋ぎたい」

「子供欲しいなぁ」

「絵になるね」

「ケビン様はお優しいです」

「その通りです」

 そのような嫁の感想など聞こえていないケビンは玉座の前まで来ると、パメラを玉座へ座らせるのである。

「どう?」

「……おおきい……」

 パメラにはまだ玉座が大きいようで、真ん中にちょこんと座る形になっている。

「アビー、この子はパメラ。見てわかると思うけどちょっと心に傷を負っててね、俺が近くにいない時は近寄らない方がいい。ビックリするぐらい拒絶されると思うから」

「私だけですか?」

「いや、元々前皇帝の奴隷でね、その時同じ奴隷だった人たちは近寄ることができるし、手を繋ぐこともできる。他の奴隷たちはまちまちかな。嫁たちは論外みたい。ねぇ、誰かパメラに近づけた人いる?」

 ケビンが嫁たちに声をかけると、返ってきたのは予想通りの反応と予想外の反応の2パターンである。

「まだ誰も近寄れないわ」

「無理難題」

「お姉ちゃんも無理」

「私もダメみたい」

「私は距離が縮んだよ」

「私もです。少し近づけます」

「私も少しだけ近づくことができます」

「え? クリスたち近づけたの!?」

「ビックリ」

「いつの間に試したのよ?」

「私にもヒントが欲しいわね」

 意外にも少し近づけたという嫁たちがいたことで、嫁たちの話題はパメラへ如何に近づくかの議論となってしまう。

「とまあ、あんな感じでね、だから少しずつ慣れていければいいと思う」

「……」

 ケビンの言葉を聞いたアビゲイルが何かを決意して、パメラの目線に合わせるためにしゃがんで話し始めると、意外にもパメラがその言葉に反応を示したのだった。

「パメラちゃん、私はアビゲイルっていう名前です。アビーって呼んでくれますか?」

「…………あびー……」

「はい、アビーです。これから仲良くしてください」

 アビゲイルが手を差し出すと、パメラが恐る恐るアビゲイルの手先の部分を掴んだ。

「……なか……よく……」

「そうですね。これで私とパメラちゃんは仲良しです。お友だちでもあり、家族でもあります」

「……か……ぞく……」

「パメラちゃん、抱っこしてもいいですか?」

「……」

 少し逡巡したパメラは、アビゲイルの手を掴んでいた手を離すと両手を広げて抱っこの姿勢を見せた。

 そしてパメラの許可がおりたと感じたアビゲイルは、優しくパメラを抱き上げるとそのまま抱きしめるのだった。

「パメラちゃん、これからいっぱい幸せになりましょうね」

「……アビー……も……」

「はい、ありがとうございます。私も一緒に幸せになりますね」

「……ごしゅじんさま……も……」

 アビゲイルとパメラのやり取りを見ていたケビンは驚きで呆けていたが、パメラに声をかけられて正気に戻ると、パメラへ微笑みかけて言葉を返すのであった。

「ああ、みんなで幸せになろう」

 それを見ていた嫁たちは驚きで口を半開きにしている者や、目が点になっている者、微笑ましく眺めている者と三者三様である。

「……うそ……」

「初見で懐いた」

「何か秘密があるのかしら?」

「ケビン君が近くにいるからじゃない?」

「負けたぁ」

「アビーさんはお優しいですね」

「ケビン様と同じです」

 嫁たちが感想をこぼしている中で、一連の流れを見ていた周りの奴隷たちも呆然としていた。まさか今日来たばかりの人に、あのパメラが懐くとは想像だにしていなかったのだ。

 パメラを抱っこしたままのアビゲイルとケビンがティナたちの所へ戻ってくると、ティナがアビゲイルへ食いついた。

「アビー、一体どうやったの!?」

「何も特別なことはしてません」

「パメラちゃん、私とも仲良くして!」

 ティナがパメラへ近づき声をかけるも、パメラはアビゲイルに抱きついて顔を隠すのであった。

「え……」

「ティナはガツガツし過ぎなんだよ。パメラが怖がってるだろ」

「うぅ……仲良くしたいだけなのに……」

 早くも撃沈したティナを他所に、ケビンたちは夕食を食べるために食堂へ向かうのだが、パメラはアビゲイルに抱っこされたまま移動して、下りようとする仕草は見せなかった。

「完全に懐いた」

 ニーナの呟きに周りの嫁たちも頷き、どうすればパメラに懐いてもらえるのか嫁会議の議題にしようと話し合うのであった。
しおりを挟む
感想 774

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...