面倒くさがり屋の異世界転生

自由人

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第12章 イグドラ亜人集合国

第350話 いざ、ピクニックへ!

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 翌朝、朝食を食べ終わったケビンは冒険者登録をしている嫁たちを連れて、ひと足先にイグドラの冒険者ギルドへとやって来た。

 ゾロゾロと女性たちが集団で受付に向かう様は、周りの冒険者たちから見れば異様としか思えない光景である。

 嫁たちの中には妊娠している者がいるのだが、まだそこまでお腹が膨らんでいないので服の上からでも目立たないのがせめてもの救いか、傍から見ればただの冒険者にしか見えないので不審な目を向けられることもなかった。

 ティナが代表で受付嬢に話しかけて、未だクランに加入していないメンバーの加入手続きと指名依頼の確認を行う。

「加入手続きが終わりましたので、引き続き指名依頼のご説明をさせていただきます」

 亜人が中心となる隣国だからか、女性たちの集団には目を見開かれて驚かれたが、ウロボロスの名前はそこまで浸透していないため周りの亜人冒険者たちが騒ぎ立てることもなくティナたちは説明を無事に受け終わった。

 依頼内容は鉱山が安全に使えるようにドラゴンから解放するのが目的となり、クエスト達成条件にゴワンの現地確認が含まれている。

 そしてケビンを除く総勢13名からなる嫁集団がクエストの手続きを終えると、ギルドを後にして帝城へと戻るのだった。

 帝城についたケビンたちはピクニックの準備を終えたら、帝城前広場にてアルフレッドたちが集まるまで世間話をしながら待っていたら、さほど時間は経たずにアルフレッドたちが急ぎ足でやってくる。

「そんなに急がなくてもいいぞ。彼女たちが大変だろ?」

「いえ、ケビン様や奥様方をお待たせするのは申し訳なく」

 アルフレッドが答えている後ろでは、ガチガチに固まった一般人の女性たちが青い顔をしている。

「《ヒール》これでリラックスできたかな?」

 ケビンが魔法を女性たちへかけると、先程まで感じていた極度の緊張感から解放されて、何故かリラックスできていることに驚いていた。

「ありがとうございます、ケビン様」

「それよりも紹介して欲しいかな? 元奴隷であるアルフレッドたちを色眼鏡で見ない善良な人たちを」

「はい! みんなこっちへ」

 アルフレッドの声かけにより女性たちが綺麗に横一列で並ぶと、アルフレッドの隣の女性から自己紹介が始まる。

「皇帝陛下、お初にお目にかかります。私はアルフレッドとお付き合いをさせていただいております、ヨランダと申します」

「私はビリーとお付き合いをさせていただいております、ウィロウと申します」

「私はカールとお付き合いをさせていただいております、ヴァネッサと申します」

「私はデーヴとお付き合いをさせていただいております、トレッサと申します」

「私はエヴァンとお付き合いをさせていただいております、スーザンと申します」

 一糸乱れぬ流れで挨拶をしていく女性たちに驚いて、ケビンはつかぬことをアルフレッドへ尋ねるのだった。

「アルフレッド、練習させた?」

「……はい。ケビン様へ対して粗相があってはいけないと思いまして」

「気にしなくてもいいのに。さて、俺のことは知ってると思うけど、この国を治めているケビン・ヴァン・エレフセリアだ。アルフレッドたちは働き者のいいヤツらだから、これからも末永く仲良くしてやって欲しい」

「「「「「はい!」」」」」

「おぅ、凄い元気だね……今日はピクニックだからみんな楽しんでくれると俺としては嬉しいかな。最初はちょっとした余興を見せることになるけど」

「……余興ですか?」

 ケビンからピクニックへ行くとしか聞かされていなかったアルフレッドは、余興の部分に反応を示して聞き返すのであった。

「ああ、俺の嫁たちが見せる余興だよ」

「そんな……恐れ多い!」

「ついでだから気にするな。それと、出発前にヨランダたちへ注意事項とお願いがある」

 ケビンから注意事項があると言われたヨランダたちの顔が引き締まる。

「今から遊びに行くわけだが、俺たちの指示に従って勝手な行動は慎むこと。あと、そんなにかしこまらなくていい。できればもう少し柔らかくなってくれるとこちらとしても気を使わずに済むし、どうせなら楽しんだ方が得だろ?」

 ヨランダたちはどうしたものかとアルフレッドへ視線を向けると、アルフレッドは困った顔をしながらもヨランダたちへ伝えるのだった。

「言った通りだったろ? ケビン様はこういうお方なのだ。ヨランダたちも肩肘張らずにいつものような感じでいい。失礼のないようにすれば問題ないから」

 それからケビンは全員を引き連れてクズミ邸の前へと転移した。いきなり景色が変わるという体験をした混乱中のヨランダたちを落ち着かせるのはアルフレッド隊へ任せて、ケビンは馬車作りをサクサクと行う。

 馬車は2台作って1台はケビンたち用、もう1台はアルフレッドたち用にすると、見かけはこじんまりしているのに空間魔法で中を拡張して狭苦しさを感じさせない物へと仕上がっている。

 馬車自体には快適さを求めるため自重しないケビンがキャンピングカーの如く色々と備え付けて、付与魔法をいつものようにかけると耐衝撃や破壊不可などありえない代物と変わり果てていた。

 その馬車を引くのはバイコーンであり、目の前で作られていく馬車もそうだったが召喚されたバイコーンを目の当たりにして、ヨランダたちはとうとう腰を抜かしてしまった。

 ヨランダたちが腰を抜かしたところでケビンが魔法をかけて回復させてしてしまうので、体は元気でも気持ちが追いつかないという不思議な感覚に陥ってしまうが、馬車の中へ案内されて何度目かわからない驚きをその身に受けるのだった。

「……ヨランダ、これが我らの誇る偉大なる皇帝、ケビン様だ。ケビン様に関して言えば不敬ではあるが常識は通用しない。諦めてそういうものだと納得した方が気持ちが落ち着くぞ」

「俺にだって常識くらいはあるぞ?」

「……陛下……」

 アルフレッドがヨランダたちを落ち着かせている中で、ケビンが自分は常識人だという主張に他の衛兵たちから何とも言えない視線を浴びせられてしまうのであった。

 居心地の悪くなったケビンは御者を1人決めて形だけでも座っておくように伝えたら、いそいそとその場を後にして自分の乗る馬車へと向かうのだった。

「クズミ、俺と一緒に御者台へ乗ってくれ。クズミがいた方が何かと面倒なくルガミズ地区も街門も通り抜けれるだろ」

「わかりました」

 クズミはルガミズ地区を管理している地区代表でもあり、代表者会議に出席するほどの地位を持っていることをケビンはゴワンと別れたあとに聞かされていたのだ。

 それはひとえに過去の事案からルガミズ地区を野放しにはできないという懸念があり、かといって他の代表者が兼任するのも大変なのでクズミ一族のことを獣人族と勘違いをしている代表者たちが、昔から人とも交流があるクズミの大商会が適任だろうと当時白羽の矢を立てたのがきっかけであった。

 そういう経緯があってクズミがその地位に収まり、就任してからはルガミズ地区の治安維持に貢献していて、街を守る衛兵などは当然知っていることだったからだ。

 それ以降は代々クズミの家系(本人がずっと続けているとは代表者たちは知らない)がルガミズ地区の人族代表として世襲しており、クズミ邸の周りに他の家がないのも周りの土地をクズミが買い占めて建物をなくし見晴らしを良くして、本来外へ通ずる門を監視しているということに他ならない。

 そして事件の再発を防ぐために門はないことになっているが、実際はクズミ邸の裏にしれっとあったりする。

 こうしてクズミを御者台へ乗せたケビンは、目的地である鉱山地帯へと出発するのであった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 イグドラの街を出発したケビンたち一行は、道中何事もなく無事に鉱山地帯を遠目に見る場所までやってくることができた。

 そこからケビンはみんなでゆったり座れそうな場所を探し始めてようやく見つけると、バイコーンにその場所へ向かうように指示を出した。

 バイコーンはケビンの指示を受けて、ドラゴンが気にするかしないかのギリギリのラインを攻めてその歩みを止める。

 ピクニック地点についたケビンは結界を張り巡らせると、馬車の中へ入り嫁たちやアルフレッドたちに対して外へ出るように指示を出した。

「見てわかる通り、結界に色をつけて張ってあるからくれぐれもその外側へ出ないように」

 ケビンが行動範囲の説明をしていると、顔面が蒼白になったアルフレッドが震える手で指をさしながらケビンへと尋ねる。

「ケ……ケビン様……あそこに見えるのは……ド、ドラゴンでは……?」

 アルフレッドの質問で気付いていなかった衛兵たちや連れの彼女もアルフレッドが指し示す先を見て、同じように顔面が蒼白になる。

「ああ、中々に壮観だろ?」

 鉱山の方では無数のドラゴンが空を我が物顔で飛び交い、非日常をまざまざと見せつけていた。

「あ奴らは紅の種族だのぅ」

「どんな奴らだ?」

「血の気が多く好戦的で面倒な奴らだ」

「殺して問題ないな」

「ああ、他の種にしょっちゅう喧嘩を売るでな、数も多いし減らして問題ない」

 殺すこと前提で話しているケビンにアルフレッドは理解が追いつかず、ヨランダたちへ常識は通用しないと言ったにも関わらないのに、常識とは何なのかを自問自答しているのだった。

「ということで、ここからは嫁たちによるドラゴン討伐の余興を楽しんでもらう」

 ケビンは余興の説明が終わると再度結界外へ出ないように注意喚起して、地面に大きなシートを広げるとドラゴン討伐鑑賞会の準備を着々と進めていく。

 身重の戦わない嫁たちへは体の負担にならないようにソファを設置して、トイレやキッチンを使う場合は乗ってきた馬車を利用することにさせた。

「ソフィさん、私の子供を保護して気分が悪くならないようにってできる?」

「あら、クリスは戦うつもりなの?」

「うん、滅多にない機会だから」

「いいわよ。楽しんでらっしゃい」

 ソフィーリアが力を行使するとクリスは光に包まれて戦う準備が整うと、ケビンが慌ててクリスへ尋ねる。

「クリス、近接戦をやるつもりか!?」

「そうだよ」

 ケビンとしては安全圏から魔法だけを撃ち出す作戦でいこうと思っていたのに、クリスから近接戦をするつもりだと告げられて驚いてしまう。

 そのようなやり取りを他所に、他の戦う妊婦たちもクリスと同様にソフィーリアへお願いして次々と準備を済ませていた。

「マジかよ……」

「レティ、リンちゃんとシャンちゃんを預かっていてください」

「任せてください! ちゃんとアリスが戦う様子を一緒に目に焼き付けますね」

 双子のパンブーは既に目が開いてよちよちと歩き回るまで成長しており、ベビースリングでは抱えられなくなったのでケビン作の押し車に乗せられていて、アリスはそれをスカーレットへ預けていたのだった。

 そしてサクサクと準備が進む中で、アルフレッドたちはドラゴン相手に物怖じせず勇ましく見えるケビンの嫁たちを、ケビンと同様に常識が通用しないのだと実感するのであった。

「あなた、お腹の子供と母親の体調は私が管理するからあの子たちには好きにさせてあげなさい。あなた自身もあの子たちにそれぞれ結界を張っているのでしょう?」

「仕方ないか……楽しそうにしているしな」

 ケビンはソフィーリアから諭されて、嫁たちの要望を受け入れることにするとチーム分けを始めていく。

「Aチームのリーダーはティナ、メンバーは前衛にニコル、中衛にアリスとティナ、後衛はニーナでいく」

「「「「はい!」」」」

「Bチームのリーダーはクリス、メンバーは前衛にクリス、中衛にアビゲイル、後衛にシーラとクズミでいく」

「「「「はい!」」」」

「最後のCチームのリーダーはプリシラ、メンバーは前衛にルル、中衛にライラ、後衛にララとクララでいく。プリシラは適宜自分で配置を決めて応戦」

「「「「はい!」」」」

「各チーム合同でやるからリーダーは3人ともどう動くのかをリーダー同士で話し合ってくれ。それと、プリシラとライラ、アビゲイルには武器を渡しておく」

 ケビンがドラゴン戦へ向けて相応の武器を【創造】で創り出すと、それぞれに渡して使うように促すのであった。

「相手は腐ってもドラゴン。普通の武器では通用しないからな、それを使ってダメージを与えるといい」

「ありがとうございます。これは宝物としてさせていただきます」

「ありがとうございます。ケビン様の創り出した武器なら天下無双です」

「旦那様、ありがとうございます。これで私も皆さんのお役に立てそうです」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 やがて嫁たちの作戦会議も終わり、観客たちが席についたところで最初の1匹目となるドラゴンへケビンが挑発をすることにした。

「さて、1匹目を挑発するかな」

 ケビンは1匹目となるレッドドラゴンへ向けて、ウザイくらいのちまちまとした殺気を飛ばすと、それに苛立ちを覚えたレッドドラゴンが鉱山地帯から飛んでくる。

「グルァァァァッ!」

「おお、喧嘩っ早いだけあってすぐに釣れたな。何て言ってるかわからないけど」

「あれは『人間如きが図に乗るな!』と言っておる」

「そうか、クララはわかるんだったな。で、お前は参加しないのか?」

「嫁たちが危なくならない程度にここで支援するのだ。私が出張ってはグーパン1発でケリがつくからのぅ」

「手加減を覚えただろう? だが、配慮してくれてありがとな」

「よい、主殿とその家族は私にとっても家族だ」

「そう思ってくれて嬉しいよ。それと、ここにいるついでに面白そうだから通訳をしてくれ」

「お安い御用だ」

 レッドドラゴンが近づいてくると、ケビンは他のレッドドラゴンが触発されてやってきては邪魔にしかならないので、バトルフィールドを決めたら結界をドーム状に展開させて嫁たちへ伝えるのだった。

「ドラゴン戦は余裕があっても1匹ずつの戦闘だ。他のが来ても邪魔ができないようにしてあるから、存分に自分たちの力と連携を試してくれ」

 こうして、ドラゴンVS嫁たちによる前代未聞の熱きバトルが幕を開けようとしていたのであった。
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