本当にそれ、鑑定ですか?

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第27話 メスガキですか?

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 『居酒屋よっちゃん』の店内は、僕たちの他に年配の夫婦がカウンター席で静かに飲んでいるだけで、ほとんど貸切のような状態だった。

 宴会の方は葉月ちゃんの大胆な発言で盛り上がった事により、楓さんも緊張が解けたのか笑顔が増えている。

 楓さんをよく見る。身長160cmくらい、肩に掛かるくらいの長さの金髪は玲子さんと同じように輝いている。足も細くてモデルさんのような体型は、多くの男性を魅了すると思います。

 こんな綺麗な女の子なら、恋人とか居てもおかしくないよね。もしかしたら婚約者とか居たりして。

「楓さんは恋人とか居ないの?」

「残念ですが、お付き合いしている方はいません。……でも、ちょっと気になる男性がいるんです」

「本当ですの!?」

 あれ、玲子さんが食いついてきた。やっぱり玲子さんは恋愛話に敏感だよね。でも楓さんが気になる男性って誰だろう?

 楓さんは女子高だし、もしかしたら担任の男性教諭とか!?

 女子高って想像しただけで楽しそうだよね。可愛い女子高生に囲まれて生活するとか、ハーレムじゃないか!

「ふふ、すごく勇気がある方なんですよ?」

「まあ、誰なんですの!? はよはよですわ!」

 玲子さんが酔ってます。はよはよですわって可愛いよね!

 何故か楓さんがこっちを見て来た。ドキドキする!!

「中野薫さんという方なんです」

「……」

 待ってくれ、それは危険だ。せっかく盛り上がっていた空気が凍っちゃったじゃないか!

 楓さんってもしかして空気が読めない方なんですか!?

 僕が葉月ちゃんの恋人だっていう話してたよね?

 分かった、きっと場を和ませる冗談だね。ふぅ、危ない危ない。セーフセーフ。

「はは、楓さんも冗談がうまいね!」

「……冗談なんて言ってませんよ。中野さん、私とお付き合いしませんか?」

「……」

 よし落ち着こう。まずは彼氏として、彼女である葉月ちゃんを不安にさせる訳にはいかないね。しっかりとケアしてあげないと。

 大丈夫、僕は葉月ちゃんを愛してます。そう思って笑顔を葉月ちゃんに向けてみた。

「ぴぃ!」

 葉月ちゃんが激おこだ。目を吊り上げ、楓さんを睨みつけてます。葉月ちゃんが楓さんを睨み、楓さんが僕に熱い視線を向け、僕が葉月ちゃんに笑顔を贈るという訳の分からない三角関係が出来ちゃいました。

 どうしてこうなった? あれか、昨日の救出劇で僕はちょっと気になる男性になっちゃったのか?

 映画とかで良くある吊り橋効果というやつだろうか。事故現場を見た恐怖によるドキドキ感を、僕が助けた事で恋愛のドキドキ感と勘違いしちゃってるって事かな?

 楓さんは思い込みとかすごい激しそうだし……。

 楓さんが怖いけど、ここはキッパリと男らしく断ろう! ハーレム主人公なんて漫画の世界だけで十分です。

「ご、ごめん楓さん。ぼ、僕には葉月ちゃんが……」

「そんなのダメです! 先輩は私と結婚するんです! ここに来る前にプロポーズもされました!!」

「マジかよ薫……」

「カオスですわ……」

 ほんとにカオスだよ……。

 確かにプロポーズっぽい事を言ったのは事実です。葉月ちゃんは可愛いし、性格も良いし、女性としての魅力がいっぱいです。

 本人は家事をやった事が無いって言ってたけど、今の時代、女性が全て家事をやるなんて言うのは古い考え方だ。人間誰しも得手不得手はあります。それに料理を女の子と一緒に作るとかすごく楽しそうだよね! ……広いキッチンが欲しいです。

 現実逃避はこれくらいにして、そろそろこのカオスな状況を納めなければ……。

 チラチラと玲子さんに視線を送り、妹さんを何とかして下さい! って感じでウインクをする。届け! 僕の思い!!

「薫さん、似合わないからウインクするのやめて下さらないかしら。……はぁ、もしかして楓、お母様から言われた事を真に受けているんじゃないでしょうね?」

「どういうことですか玲子さん!?」

 ウインク作戦成功! 玲子さんありがとうございます。今はこの流れに乗るしかない、ビッグウェーブに!!

「昨晩、両親に楓が事故に巻き込まれそうになった事を話しましたの。薫さんの占いのおかげで無事だったと」

「まあ、親父さんは信じてなかったけどな。けどお袋さんは何故か信じてた。しかもすごい食いつきだったんだぜ。俺の時の占いの結果も伝えたから、尚更だったのかもしれないけどな」

 玲子さんと修二が説明してくれた。どうやら昨晩、ありのままを話したそうだ。僕が玲子さんを占ってから、楓さんを引き留め、事故が起きるまでを。修二の話から察するに、修二の合コン事件も伝えたのか。

 昨日の夕方のニュースでトラック衝突事故が大きく取り上げられていたため、地元ということもありみんな知っていたそうだ。まさかそのバスに楓さんが乗るとは思ってもいなかったようだ。

 ちなみに、バスの運転手は軽いケガ、トラックの運転手も命に別条はなかったそうです。不幸中の幸いだけど、バスの運ちゃんからしてみたら、僕たちが引き留めなかったら事故が起こらなかったんじゃないかとか思ってそうだ。

 そのあたりは正直なところ分からない。もしあのまま楓さんがバスに乗り込んでも、何かしらの強制力が働いて事故に巻き込まれた気がする。こればっかりは気にしてもしょうがない。

「お母さまは昔からオカルトに弱くって、出来ることなら薫さんと縁を作りたいって話していたのですわ」

「私、中野さんなら良いですよ。タイプと違いますが、許容範囲です」

「ダメです、先輩は私と結婚します! ……先輩、明日いちばんに婚姻届を提出しに行きましょう?」

「いや、許容範囲とかそれダメでしょ。それに葉月ちゃん、日曜日は役場やってないんじゃないかな?」

「カオスだな、薫!」

 修二が蚊帳の外で一人で楽しんでます。まいったな、収拾がつかなくなりそうだ。落ち着こう。これが占いにあった修羅場というやつなのだろうか?

 昼間、僕が加藤さんや綾香さんに遊ばれてたのが葉月ちゃんにバレた。あれが修羅場だと思っていた。でも違ったんだ、今が修羅場なんだ!

 確か今日の運勢は『修羅場の危機!! 鑑定を使って乗り切ろう♪』だったはずだ。そうだ、鑑定を使って乗り切るんだ!

 でも何を鑑定したら良いんだ? 修二は絶対に違う。玲子さんでもない気がする。葉月ちゃんか楓さんかのどっちかだな。

 普通に考えて楓さんだよね。なんとかして楓さんを止めなければ。さて、楓さん失礼しますよ。



天王寺楓てんのうじかえで

 身長160cmくらいのぴちぴちな女子高生(2年)
 母親譲りの美貌は女性をも虜にし、学校ではファンクラブがあるとか。でもショタコン。
 姉の玲子みたいな完璧なお嬢様に憧れて日々勉強中。でもショタコン。
 愛読書は【あべこべ世界に迷い込んだショタが、年上のお姉さんに甘やかされてドロドロに溶かされるまで(ラノベ)】


※今日の運勢※

 運命の人を紹介して貰えるでしょう♪



 あー、そういう事ですか。そりゃ僕じゃタイプが違うよね。

 この愛読書、知ってる気がする。埼玉から引っ越しする時に兄貴が餞別だって言ってダンボールに紛れ込ませた本だ。僕のアパートの本棚にあるやつです。ちょっと読んだけど、うん、兄貴の趣味が分かって複雑だった記憶があります。でも内容は素晴らしく、シチュエーションはグッと来るものがありました。

 女性がこれを読むって事は、楓さんがショタっ子を甘々に溶かしたいってことだよね。さすがに楓さんの年齢からいって、年下のショタっ子に手を出したら逮捕されてしまう。きっと強い葛藤があるのだろう。

 よし、まずはこっそり楓さんに確認しよう。メモ帳を取り出し、愛読書のタイトルを書き込みます。

 みんなの前でこれを確認するのは可哀想だよね……。ちょっと気を遣おう。

「葉月ちゃん、ちょっとごめんね。楓さん、少しだけ隣の席でお話しませんか?」

「構いませんが……」

 通路側に座る葉月ちゃんに通してもらい、楓さんと二人で隣のテーブルに移動してコソコソと会話します。

 葉月ちゃん浮気じゃないんです。そんな見つめないで!!

「……楓さん、これに心当たりはありますか?」

「な、何故これを!?」

 やっぱり正解らしい。ぎょっとした目で僕を見つめて来る。きっと誰にも知られていない秘密なのでしょう……。

「実はうちの兄貴もその本が好きなんだよね。趣味ピッタリじゃない? あと、これがうちの兄貴の写真ね」

「……」

 スマホを操作し、兄貴の写真を見せる。実はうちの兄貴、背が155cmくらいしかなく、しかも女顔なのである。本人はそれを逆手に女装コスプレを楽しんでいます。

 今見せたのはスマホゲームで人気のあるロリキャラだ。玲子さんみたいな輝く金髪は腰まで届き、ブレザーとチェックのスカート、ニーソックスというドキドキしちゃう恰好です。

「背が小さくて女装コスプレしてるけど、間違いなく女の子が好きだから安心してね。さっきの本が好きなんだもん」

「……」

 楓さんが僕のスマホを引ったくり、写真を凝視している。撮影会の練習とか言われて何枚も撮らされたからね……。

 しばらく見た後、スマホを返してくれました。

「紹介して頂けますよね?」

 紹介しなきゃぶっ殺すぞ! っていう鋭い目付きで言われてしまっては、断ることは出来ません。僕は恐怖に震え、首を縦に振る事しか出来ませんでした。

 楓さんは憑き物が取れたような爽やかな笑顔を浮かべ、元の席に戻って行きました。

「葉月お姉さま、私間違ってました。中野さんは葉月お姉さまに差し上げます」

「何を言ってるんですか。先輩はもともと私のものです!」

「すげー会話だな」

「我が妹ながら、カオスですわ」

 もうみんな楽しんでるよね!

「それよりも楓、どうしたんですの急に」

「お姉さま、運命の人を中野さんに紹介して貰える事になりました」

「運命の人ですの……?」

 やばい、玲子さんに睨まれてます。しょうがない、みんなに兄貴を紹介するか。

「これがうちの兄貴です。22歳独身彼女なし童貞です。大学4年で就職活動中ですが、サボってコスプレしてます……。これが写真です」

 スマホをテーブルに置いた。写真はロリな魔法少女のコスプレである。銀髪のロングツインテールにぴちぴちの魔法少女の服、超ミニスカートでパンツが見えそうです。そして白いニーソックスがエロい。手には魔法のステッキを持ち、ウインクしてます。

 どこからどう見ても可愛い女の子です。コスプレ会場でスカートの中を撮影されても恥ずかしくないそうです。

「これが先輩のお兄さん……」

「可愛いですわ!!」

「すげーな!」

「私、この人に決めました」

「いや楓さん、紹介はするけど兄貴がオッケーするか分からないよ?」

 兄貴もさすがに好みとかあるし、今まで童貞を貫いて来たってことは何かしら理想というものがあるんだと思う。

 コスプレ会場で知り合った女性とかと仲良くなってるようだけど、男女の関係に発展はしないそうです。

「じゃあ中野さん、早速紹介してください」

「えっ、今から?」

「はよはよ!!」

 楓さんのキャラが分からなくなってきた。完璧なお嬢様かと思ったら欲求に愚直だ。昨日会ったときは芯が強いけどお淑やかに見えたんだけどな……。まさかお酒飲んでないよね?

 ここまで話を進めちゃったからには、連絡くらいしてみるか。まぁ、ダメでも僕には関係ないしね! どうにでもな~れ♪

「じゃあちょっとテレビ電話するから、みんな黙っててね。途中で楓さんに代わるから、準備しておいてください」

 そう言うとみんな黙ってくれた。楓さんは手鏡を取り出し、前髪や顔のセットに余念がない。いや、十分綺麗ですから大丈夫ですよ……。

 兄貴にテレビ電話を発信し、しばらくしたら繋がった。

『もしもし~。あれ、テレビ電話? カオルにしては珍しいね!』

「突然ごめん。兄貴今大丈夫?」

 スマホに映る兄貴は、ダボダボのTシャツにスパッツという、この時期にどうかと思う格好をしていた。頬が赤く、少し汗が浮かんでいる。筋トレでもしていたのかな?

 さすがに今はコスプレをしておらず、普段と同じ黒髪のボブヘアーだった。

『だいじょぶだよ~。いま筋トレしてたの!』

「筋トレ中にごめん。えっと、実は大学の友達の妹さんが、兄貴の事が……その、気になったというか、そんな感じでお話したいようなんだけど、代わってもいいかな?」

『え~、別にいいよ~? けどボク、女の子の好みには厳しいよ?』

 兄貴がハードルを上げて来た! やばい、こっちが緊張してきたぞ。

 楓さんに視線を送ってみる。楓さんは兄貴の声を聴いて興奮しているのか、すごく高揚している。早く代われと目で訴えて来た。

「じゃ、じゃあ代わるね」

 そしてスマホを楓さんに渡した。

「初めまして、天王寺楓と申します」

『こんばんは! 中野日向なかのひなた、22歳童貞です♡』

 あ、兄貴、自分で童貞って言うのはやめた方が良い。楓さんが真っ赤になっちゃったよ!

「私は高校2年生ですが、良かったらお付き合いしませんか?」

『うーん。楓ちゃんは綺麗で素敵だけど、ボク年下はあんまり興味ないんだよね~』

 兄貴もズバッっと言うな。こりゃ無理そうです。残念でした楓さん、今回はご縁が無かったという事で……。

「私とお付き合いしてくれたら、ヒナタちゃんの事をいっぱい可愛がって上げますよ?」

『えっ!? ボクを……?』

「ふふ……そうです。身も心もトロトロになるまで甘々に溶かして上げます。ヒナタちゃんが戻って来れなくなるまで、ずっとです」

 あれ、おかしいぞ。絶対楓さんお酒飲んでるよね?

 玲子さんも自分の妹がこんなキャラだったとは思ってなかったのか、放心してます。

『ふ、ふ~ん。でもどうせ口だけなんでしょ!? ボク知ってるんだから!』

「じゃあ今度会いましょう? ヒナタちゃんをベッドに縛り付けて、朝まで可愛がってあげます。ふふ……泣いても許して上げませんからね?」

『ご、ゴクリ……』

 兄貴頑張れ! さっきまでの強者ムーブはどうした!? 今の兄貴はグチョグチョにされるメスガキみたいになってるよ!

「後で連絡しますので、楽しみに待ってて下さいねヒナタちゃん」

『う、うん……』

 そうして僕にスマホが戻された。最後に見た兄貴の顔は真っ赤になって、何かを期待しているのかソワソワとしていた。

 そんな状態の兄貴と会話するのも気まずいので、無言で電話を切った。

「……」

 誰も喋らない。

 店内からは、カウンター席にいる老夫婦と大将が楽しそうに会話している声だけが聞こえてくる。

 みんなビックリしているのか、気まずいのか、目線で牽制し合っている。このままでは玲子さんに怒られそうだ。よし、逃げよう。

「ちょっとトイレ行ってきます……」

「待ちなさい薫さん! うちの妹になんて事をしてくれましたの!?」

「僕のせいじゃないよ! 僕は兄貴に電話しただけです~」

「お姉さま、私はヒナタちゃんと幸せになります」

「……カオスだな」

「……カオスですね」

 修二と葉月ちゃんは我関せずでお料理を楽しんでいます。僕もそっちに混ざりたいです。

 どうやら飲み会は、まだ続きそうだ……。
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