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番外編 第2話 ミルクー!
しおりを挟む僕は今、全力で走っていた。運動神経の悪い僕が、精一杯に足を動かし全力で走っていたのだ。きっと中学生の方が僕より走るのが速いだろう……。それでも急いでスーパーへ行かなければならないのだ、お猫様のために!!
スーパーへ到着し、息を整えながらペット用品売り場へ向かう。色々な種類のミルクが売っていたが、とりあえず液状ミルクを購入してみよう。子猫用って書いてあるし、きっとこれで良いよね! あと子猫用の哺乳瓶も買おう。
ついでに買い忘れた調味料を一式カゴに入れ、はやる気持ちを抑えて椎名さんのレジへ並ぶ。やましい気持ちはありません。単に椎名さんのレジが一番早かっただけですよ?
「あれ、ハル君また来たの?」
「えっ!? どうして僕の名前……」
もしかして椎名さんはエスパーなのだろうか? 心が読めたり!?
「ふふ……さっきポイントカード作った時に名前とか書いてもらったでしょ?」
「そうでした。……あれ、でも僕の名前覚えてくれたんですね!」
こんな綺麗なお姉さんに僕の名前を憶えて貰えて嬉しい。自然と笑顔になってしまった。けれど椎名さんは、きっと僕の事を弟とかそんな感じに見ているんだと思います。期待するだけ無駄だな……。
僕は生まれて18年、モテた事がないのです。ましてや名前で呼んで貰うなんて初めての経験だ。もちろん家族は除いてだけど。……きっとモテないのは、この低い身長が原因だと思います。ぐぬぬ……。
「ハル君が可愛いから覚えちゃった。これからも宜しくね」
「は、はい……」
少しだけ顔を赤くした柔らかい笑顔を見た瞬間、僕の顔が熱くなるのを感じた。だってしょうがないじゃないか、こんな綺麗なお姉さんに可愛いって言われるのは初めてなのだから……。
「あれ、猫ちゃん飼ってるの?」
椎名さんが子猫用のミルクをレジに通して聞いてきた。もしかして椎名さんも猫好きなのだろうか!? 猫好きな人に悪い人は居ませんよね!
「実は借りている家に子猫が住み着いていたらしくて、ミーミー鳴いていたのでミルクをあげようと思ったんです。母猫とかも居ないようだったので……」
今日から住む家は実家でも無いし別荘というのも違った気がした。詳しく説明するのも変な感じだし、借りている家と言ってしまった。まあ両親から借りている状態だから間違いじゃないよね。
「えー! いいなぁ……。私の借りてるボロアパートじゃ猫なんて飼えないから羨ましいな。そうだ、もし飼う事になったら見せてね!」
「は、はい」
これはもう、お猫様の下僕になる以外に道は無いのではないだろうか……。この美人なお姉さん、椎名さんと仲良くなれるチャンスかもしれない!? いやいや、そんな下心は無いですよ? 単に子猫を見捨てられないっていうだけですからね?
よし、早く帰ってお猫様にミルクをあげよう。
笑顔で送り出してくれた椎名さんと別れ、走って家へ急いだ。
◇
台所で哺乳瓶にミルクを移し、急いで中庭へ向かった。縁側からサンダルに履き替え祠へ向かうと、祠の中でちんまりとお座りしているお猫様が居た。子猫なのに大人しい猫ちゃんだ。
『……おなか……すいたの……』
またあの声が聞こえて来た。この声は何なのだろうか……。もしかして僕にしか聞こえていないのだろうか? そもそも、本当にこの子猫から言葉が伝わっているのだろうか?
色々と気になる事もあるけれど、まずはお猫様にミルクを献上しなければならない。祠の奥にお座りしているお猫様を抱き抱えるのは気が引けたので、そのままの状態で哺乳瓶の口を差し出して見た……。
「ミルク買って来たよ~。さあ飲んでね」
お猫様が首を傾げたが、哺乳瓶の口をお猫様の口元へ持って行くと吸い付いてくれた! そして勢い良く飲み始め、あっという間に哺乳瓶が空っぽになってしまった。ミルクに書いてあった子猫の量だけど、少なかったのだろうか……?
『……もっと……欲しいの……』
「ちょっと待っててね。すぐに用意するから!」
このお猫様が普通の子猫じゃない事はすぐに分かった。だって、自分から言葉で伝えて来る猫なんて居ないでしょ。そう、きっとこの猫は神様なのだ! 神様だったら、ミルクの量だって少しくらいオーバーしてても良いよね!
台所へ向かい哺乳瓶にミルクを追加する。猫を飼った事もないけど、神様なんて以ての外だ。誰か神様との接し方をご存じの方は居ませんか? 現実逃避は止めて急いでミルクを献上する事にしましょう。
「どうぞミルクです……」
お猫様が勢い良く哺乳瓶の口に吸い付き、ゴクゴクと飲み始めた。チュパチュパという音が癒される……。哺乳瓶に小さな手を当てグーパーグーパーとニギニギする姿が最高に可愛いです。
またあっという間に空っぽになってしまった。さて、これからどうしよう……。
『……ポンポンいっぱいなの……寝るの……』
お猫様が足場を踏み踏みして寝ようとしている。猫は狭い場所が好きって言うけど、さすがにこの場所で寝るのもどうかと思った。
「あの、良かったら家で寝ますか? クッションありますよ?」
『……ねむいの……』
だめだ、お猫様がうつらうつらしている。不遜かもしれないけど、僕は意を決してお猫様をそっと両手で優しく持ち上げた。
「し、失礼します!」
両手に感じるお猫様は温かく、そしてフワフワとしていた。大事に抱え、畳張りの客間へ急いだ。フカフカのクッションの上にお猫様を乗せると、足場を踏み踏みしてから丸くなってしまった。
『……おやすみなさい……なの……』
「ご、ごゆっくりどうぞ……」
スマホで子猫の大きさから年齢を調べてみたが、だいたい生後1ヶ月くらいに見えた。でも喋る猫なんて聞いたこともないぞ……。
よし、良く分からないけど起きたら聞いてみよう。
僕は考える事を止め、お風呂場からバスタオルをお猫様に優しく掛けてあげたのだった。
今まで神様なんて信じて来なかった僕だけど、もしかしたらこの猫ちゃんは神様なのかもしれない……。
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