「希望」という名の毒薬をあなたに

ゴカンジョ

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ある被害者遺族の思い

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 自ら死を望む者に死刑を科すことは、果たして刑罰としての意味があるのだろうか――。

 最近、俺の国ではそんな話題があちこちで盛り上がっている。「生きる希望」を失った人間が、自ら死刑になることを目的に、凄惨な凶悪犯罪を起こす事例が、社会問題となるくらい増えているせいだ。

 死刑制度の是非を含め、憲法・法律・国家・人権・倫理・哲学・歴史と、さまざまな専門家がさまざまな小難しい、貴重なご意見を述べている。だが世論の多くは「死にたい奴は死刑にしてしまえ。それで被害者遺族も少しは報われる」という感情論を支持していた。

 それに、「死刑にしてくれ」と言いながら、逮捕・収監後は生への執着を見せ始める者も少なくなく、そういった死刑囚にとって死刑は十分意味があるとする意見もあった。

 その一方で、終始一貫して死刑を望み、そして望み通りクソみたいな人生にケリをつけた死刑囚も確かにいる。そういう奴らにとって、死刑とは「刑罰」ではなく「殺人のご褒美」なのかもしれない。正直それが羨ましいと、思わないでもない。

 ある大量殺傷事件の被害者遺族は、犯人の死刑執行に立ち会った後にこう言った。

「結局被告の望みどおりになったんだと思うと、無念が晴れるどころか増すばかりです。何をしたって息子が帰ってこないことは知っている。それでも、せめて犯人が『生きたい』と懇願する中、その望みを断ち切るような死刑にしてほしかった」

 憎しみを微塵も隠そうともしない苛烈な言葉は、その正否はともかく、少なくない人の共感を呼んだようだった。事件で幼い愛息を失ったという父親は、何かしらの思いを込めているのか、髪の毛を坊主のように剃り上げており、メディアの前では必ず額に入れた息子の写真を大事に抱えていたのが印象的だった。

  ―――

 本気で死刑を望む人間に、「生きたい」と思わせることはできるのだろうか? 

 最近引っ越したばかりのマンションの一室で、俺は猫用トイレの砂を入れ替えながらぼんやりと考えてみた。まだ昼過ぎだというのに、五階の窓から見る外は不吉なくらいどんよりと暗く、分厚い雨雲が低く垂れこんでいる。遠くでゴロゴロと雷の音も聞こえる。

 俺は砂を入れ替え終えると、部屋の明かりをつけた。二十平米ほどのフローリング敷きされたリビングに、長方形のローテーブルが置かれ、その上にホワイトガーベラの切り花が花瓶に活けてある。そのほかにもソファ、ラグマット、テレビ台とテレビ、ステレオセット、スタンドライト、雑誌ラックなどが、まるで映画のセットのように配置されている。業者に配置も頼んだのは俺のはずだが、あらゆるものが新品のため生活感がなく、どうにもショールームみたいな部屋に見えてしまう。

 ソファーに腰を下ろした俺は、改めて考えを巡らせた。本気で死刑を望む死刑囚に、「生きたい」と思わせることができるのか。

 まあ、無理だろうな。俺の頭の中に、雨雲ようにどす黒い思いがモコモコと膨らんでくる。俺には、よくわかる。死刑を望んで凶悪犯罪を引き起こすような連中の気持ちが。俺だって、

 突然ビリっと、俺の脳裏に電流が走った。いや、もちろんただの例えで、本当に電流が走ったわけではない。ともかく直感的に「できる」という思いが、強い確信を伴って湧いてきたのだ。窓に目をやると、雨雲の隙間から一瞬だけ太陽の光が差し込んでいるのが見えた。

 そうだできる。何を言っている。絶望し死を望む人間だって、「生きたい」と思うことは絶対にできるはずじゃないか。俺自身が、そうだったのだから。
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