異世界探訪記

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思い出の品

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 向こうの世界で伝え聞く座敷童や家妖精は、稀に失せ物探しをしてくれるという。ふと、そんな話を思い出したのは無くしたと思っていたものが見つかったからに他ならない。この世界に来た時のどさくさで見失っていた大事なもの。それが今、掌の中に収まっていた。



 〝空〟色の髪飾り。白い〝翼〟の形をした髪留め。二つ買って一つずつ交換したのは、かなり前の話だ。
 片方は妹が好いて私が厭い、片方は私が好いて妹が嫌がる。けれど、相手が好きと言ったから多少なりとも好きになれた。そんな思い出を形にしたいと、小遣いを掻き集めて買った品だった。それを私は一度も付けた事はないけれど、いつもお守りとして持ち歩いていた。

 けれど、この世界へと来て色々と起こり、ふと気付いた時には見当たらなくなっていた。それを仕方がないと思う一方、探さなければと焦る気持ちも湧き起こる。纏まらない思考は、結局諦めるという結果に繋がった。
 全く探さなかったという訳ではない。月に幾度か思い出した様に探し、結局諦めるその繰り返し。それだけ探しても見つからなかった。その筈だった。



 それが何故か此処にある。それに、何か意味があるのかと勘繰ってしまう。けれど、考えても答えは出なかった。ただ、この世界では何でも起こり得る。そんな思いを再認識したに過ぎない。
 そして、その思いは見つかった思い出の品が見覚えのない首飾りと共にあった事で膨れ上がる。何故なら、一緒に見つかったハート型のロケットには向こうの世界に残してきた妹の名前が記されていたのだから。
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