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獣語 躍動編
嫉妬に狂う
冒険者チームの黒雷がバシャールに派遣されるという話は、
ルルバーナとの会談の後すぐに国中に駆け巡り、多くの冒険者や騎士
隊達の噂になっていた。
「なんでバシャール?」
「さぁ?何でもドゥルシャがヤバいらしいけどな」
「すげぇよなぁ…直々にルルバーナ陛下から派遣要請を頂いたらしい」
「あー…俺も黒雷に入れてくんねぇかなぁ」
「お前みたいな下手くそなアーチャー俺だってお断りだぜ!」
場末の酒場では昼間から冒険者や、非番の騎士隊員で賑わっていて
ナナセ達の派遣についての情報が飛び交っている。
「そういや聞いたか?ウィリアム王子とケーヤルン王子も行くらしい」
「王子も?」
「らしいぞ」
「あのダンジョンを王子と入るって…無理があるだろ!」
姦しく騒ぎ立てる冒険者のテーブルの後ろに座っていた騎士隊員が、
その中に割り込んで話し出した。
「ほら、あの王子悪魔だから!ナナセ殿に教育を任せるみたいだぞ?」
「はぁ?なんだぁ?王族はテメェの子供すらまともに育てられねぇのか」
「まぁなぁ!王族は王族だ陛下も奔放な方だからな、その血を引いたんだろう」
騎士隊員は串焼きを頬張りながら酒を飲み、冒険者に話し出した。
「それに、ザーナンドの王子も一緒に行くらしいし!何しに行くんだろうなぁ…子連れでダンジョン攻略なんて事は無いだろう?」
冒険者と騎士隊員との会話は、酒場の熱を更に熱い物にしていて、
外を歩いている男達も酒場から漏れる騒めきに引き寄せられる様に
店に入って行く。その中で、一人の男が忌々しい顔つきで店の中に
入ってきた。その男はカウンター席の端に座り、店員にビールを頼むと
後ろの席の男たちの会話に聞き耳を立てている。
「俺はさ、褒章式の時広間に居たんだが…黒狼が言った言葉にぐっときたね!」
「なんて言ったんだ?」
「こうさ、ナナセの手を握って真っ直ぐに陛下を見上げて言ったんだよ」
煽られた冒険者達は目を輝かせて騎士隊員の周りに集まると、話の
続きをせがむ様にその肩を揺すり、隣の席に腰を掛けたり覗き込んだ
りしている。
「もったいぶるなよ!で?なんて言ったんだ?」
「私達は二人で黒雷です。これからはどんなクエストも二人一緒でなければ受けませんっ!死ぬ時であっても私はナナセの側を離れない!私からナナセを奪う者は誰であっても許さない!ってさ、凄い圧で陛下達に睨みをきかせていたんだよ!そのファロ殿を見上げるナナセの姿…いやぁ美しすぎる二人だったぜ!」
「おい…話盛りすぎ…」
ペラペラと話す騎士隊員と一緒に来ていたもう一人の騎士隊員は、
うんざりとした顔でその男を見たが、興奮でその騎士隊員の声は聞こ
えていなかった。
「ファロの正装姿も、ナナセの姿も本当に艶っぽくてよ!ドキドキしたぜ」
「マジかよ!最近ギルドで二人を見る事がねぇからよ!羨ましいぜ」
あぁ!いつナナセ達がバシャールに発つのか、早く話せ!
本当にこいつらと来たら、下らない話しばかりして…。
早く日時を確認しなければ、影を放つ事も出来やしないじゃ無いか!
フードを被り、チラチラと背後で盛り上がっている騎士隊員の席を
見ている男、マリエリバをウェイターは訝しげな顔で見ていたが、
それにマリエリバは気付かずにいる。
「なぁ、あんた。どっから来た?冒険者って訳じゃなさそうだが」
ウェイターに話しかけられて、マリエリバは顔をカウンターに向けると
フードを更に目深に被り視線を手元に落とした。
「ロートレッドから来た…」
「へぇ…ロートレッドから」
「なんだ?文句でもあるのか」
「いや、さっきから騎士隊員達を食い殺しそうな顔してるからよ」
「…なぁ、あんたは黒雷のバシャール行きの事知っているか?」
ウェイターはグラスにおかわりのビールを注ぐと、余った酒を瓶から
直接飲み干した。
「さぁなぁ?俺達に降りてくる話なんざ嘘か本当かわかんねぇ物ばっかりだからな。ロートレッドから来たアンタがなんでそんな事を気にする?」
「…どうだって良いでは無いか」
「そうはいかねぇよ。黒雷の話にそんな顔をしてちゃあな、俺達も黙ってられねぇなぁ」
その言葉に、マリエリバは不思議に思って思わずウェイターの顔を
見上げて首を傾げた。
「どう言う事だ?」
自身を見上げるその瞳に、ウェイターは目を細め誰かを思い出そうと
しているが、思い出せずに首を傾げている。
何処かで見た事のある瞳と風貌だが、誰だったか…。
「俺、アンタを知っている気がするんだよな。何処かであった事あるか?」
「いや、初めてこの店に入った。お前の事など知らん」
ウェイターはまじまじとマリエリバの顔を見て、ふと記憶の片隅に
あった、ロードルー第一王子リフェリエルの立皇祝賀パレードに参加
していたある人物の顔を思い出し、急に青ざめ始めた。
「アンタ…そのピンクオパールの瞳…まさか…マリエ」
自身の存在が気付かれた事に、慌ててマリエリバは辺りを見渡し、
口元に指を当てて『静かにしろ』と言ったが、ウェイターはまさかこん
な所に王侯貴族が訪れるなんて事を思っても居なかった為、慌ててぶん
ぶんと頭を上下に振って、マリエリバに頭を下げたまま「失礼致し
ました!」と叫んでしまった。
「しっ!口に出すな!…ここへは忍んで来た…騒ぎにしたく無い」
「あっ…あぁ、いやっ!は、はいっ!」
「な、何故こんな店に?」
声のトーンを落とし、顔を近づけたウェイターは、マリエリバがここ
に居る事を不思議に思っている顔をしている。
「おい、お前。黒雷の出立日について何か聞いていないか?」
「あ、いえ…噂程度しか」
「それでも良い。噂ではいつと聞いている?」
「明日発つと…」
「明日⁉︎くそっ!これでは影を放てぬではないか!」
「影⁉︎ちょっ…何をなさるつもりですか!」
「勘違いするな…ナナセは私の物だ…取り返すつもりだったのだがな…失敗した。だからバシャールでのナナセの行動を調べるのだ」
「陛下はその…ナナセにご執心なので?」
「陛下とか言うな!市井ではリーバと名乗っている」
「失礼しました…その…リーバさんは…ナナセを追うためだけにわざわざ?」
その言葉にムッとしながら、マリエリバは酒を飲むとウェイターを
睨みながら吐き捨てるように思わず叫んだ。
「私がナナセを影ながらロートレッドで育てたと言うのに、あの獣に奪われたのだ…今度こそ取り返す…」
これ以上国を空けて居られないが、今回を逃せばナナセを取り戻せなく
なる。出立前に何とかしてナナセと話をしなくては。
あぁ、愛しい私のナナセ。捕まえて、閉じ込めて、そして腕の中で
あの黒く潤んだ瞳で私を見つめて欲しい…。
手に入らなければ、入らない程渇望するのが人の常なのか、4年もの
間、ナナセに恋焦がれているマリエリバは、もう形振り構って居られ
なかった。
「そりゃ…また…難儀な事ですね」
「煩い…私は…エルヒムがナナセとチームを組んでいた頃から、その存在を影ながら見守って来たのに…あの獣に奪われた私の気持ちなどお前には分かるまい」
「まぁ、まぁ…それが運命ってやつなんでしょ」
「運命⁉︎そんな物、欲求を満たした者の言い訳だ!本当の愛を知ればナナセもきっと私の元に帰ってくるはずだっ!」
「いやいや…子供も居ますしね?リーバさん、落ち着いてください」
焦りと、ファロへの嫉妬に今にも爆発しそうなマリエリバは、酒を
飲み干すとギルド硬貨をカウンターにパチリと置いて、ウェイターに
袋を渡した。
「おい、この金でナナセの情報を集めてくれ…情報が集まったら斜向かいの宿に居るクルーガーという男に伝えろ。これはその前金だ」
ウェイターが袋の口を開くと、そこには金貨が山程入っていた。
その金額に慌てて顔を上げたが、もうそこにマリエリバの姿は
無かった。
「ナナセもまた…面倒な人に捕まったなぁ…」
店から出ると、マリエリバはフードをぐいっと目を隠す様に深く被る
り、ピンクオパールの瞳に炎を灯した。
「私以外の子を成したというだけでも腑が煮えくり返りそうだと言うのに…次は必ず…」
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