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獣語 躍動編
糸を張る
しおりを挟む賑やかな声が響くサロンの通路には、マグとリンがポータルを
使って実験をしていた。
マグに会うために詰所で待機していたカシャであったが、中々来ない
彼を心配して門番をしている獣人戦士に聞いた所、30分前に既に
王宮へと入ったと言う。そして、サリューに会うためにサロンへ向かっ
た事を聞いて、カシャもサロンへと足を伸ばした。
「あはははっ!マグ!逆さまでも落ちないよ!」
「ちょっ!リン会長!危ないですって!」
「君もやってごらんよ!」
「会長!降りろーー!」
天井から下向きに設置されたポータルに立つリンは逆さまで、万歳を
しながら子供の様にはしゃいでいた。マグがそんなリンに振り回されて
いる様にカシャは呆れていた。
何やってんだよあの2人は。
ケードの警護ほっぽって…それにしてもあれは何だ?
何かの台座か?
「リン大臣!マグ殿!何してるんだ?」
「お、童貞クソ野郎じゃん!何って、遊んでるんだよ?」
「いや!カシャ隊長!違いますよ⁉︎リン会長が1人で遊んでるんです!」
「そんな事よりも!大丈夫なのか?彼を1人にしておいて」
「‼︎」
マグは、リンの勢いに飲まれケードを巻き込まない様にとサリューと
カシャに言うつもりであった事を思い出すと、足元にあるポータルの
スイッチをオフにした。
ドスン‼︎
「いった‼︎頭打ったじゃないか!マグっ!危ないだろ!」
「あぁっ!済みません会長‼︎」
慌てふためきリンを抱き起こすマグの首に、腕を回して抱きつきじゃれ
るリンは、カシャに手招きをした。
やれやれと、面倒臭そうに近付いたカシャの頭をリンは掴むと、その
白い頸に口を寄せた。
「ウィラーは5日後、開門の儀式とやらをムルカイで行う。今日ポータルを王宮に運んで明日朝一番でケードを移す」
「奴は来ますかね?」
「本人に来てもらわなきゃ困るよ」
「どうするつもりです…会長?」
「カイサンの部下に明日、国中にロードルーで〈神座のスキル〉を持った界渡が見つかったと伝聞させる手筈を取ったよ」
「大丈夫なんですか大臣…あからさま過ぎません?」
「ウィラーの希望を砕く爆弾が二つある」
「‼︎」
そっとリンを下ろしたマグは、顔色を変えずにリンの後頭部を摩り
耳元で呟いた。
「一つ目は?」
「それはお楽しみさ」
「俺にもですか?」
カシャは真面目な顔でリンの目を見つめたが、悪戯な笑みを浮かべる
だけで、リンは教えてくれなかった。
「君達には度肝を抜いてもらわなきゃ困る」
「…本当、リン会長は良い性格してますよ」
「知ってる」
カシャは大方の情報をルースから与えられていたが、それでもウィラー
がケードに食い付くかどうかは、五分五分では無いかと思った。
あまりにも急に動き出した状況が、まるで自分達を動かす為に仕掛け
られた罠の様に思えてならず、カシャは眉間に皺を寄せた。
「マグ殿…ケードだが、スキルはなんだったんだ?」
「…分離破壊…後、スキルなのか加護なのか…はたまた称号なのかは分からないですが、太陽の癒し手」
「分離破壊…サリュー様の病の元を破壊…成程な。それと…ザーナンドにウィラーの手先が入り込んだが、1人だけとは思えない…」
リンは背伸びをすると、サロンのサッシを開けて庭に出た。
「それは当然だね。でもね、恐れるに足りないよ…僕を誰だと思っているのさ」
「リン大臣?」
「手先は3人。内2人は既に僕の影が始末した」
「‼︎ マジか…で、後1人は?」
「まぁ、見てなよ。今から彼を見にいくんだからさ」
そう言うと、リンは芝生の上でくるりと回ってゆらゆらと白い尾を
揺らした。
サリューはバシャを膝の上に乗せて、彼の柔らかい立髪を編み込んで
いた。バシャは照れくさそうに目を伏せていたが、元気になった母の
膝の上で、今まで得られなかった愛情を得て幸せそうな顔をしている。
「良かったねぇバシャ王子」
「…リン大臣…揶揄わないで下さい」
「ふふ。バシャ、動かないで」
「はい」
「リン大臣、皆様のお話は分かりました。私もその計画に手を貸しましょう」
「助かりますよサリュー妃!」
「リン大臣、とりあえず出来る事として、私は明日国民の為に表に出ます。そこでケードさんの事を神の御使と宣言しましょう。これでカイサンだけでは無く、この国でも彼の存在は特別な物となりましょう…そして、その彼を支える者としてファルファータ殿の事も公とします」
その言葉に、リンは流石にそれは無謀だと難色を示した。
ケードとファルファータの事は既に公然の秘密となっていたが、相手が
ファルファータと言う事が城の中でも問題になっていた。
「彼もそろそろ許されるべきでしょう?国民も、彼が裏で我々の為に尽くし、貢献していた事を知るべきです。リン大臣…貴方もです」
「だけどなぁ、アイツ…それを知ったら狂っちまうかも知れませんよ?」
「それは大丈夫でしょう」
「どうしてそんな事が言えるんですか?」
マグも、不思議そうな顔でサリューを見ていたが、サリューは柔らかく
微笑むだけでそれ以上は答えなかった。
「さぁ、バシャ。明日、私と共に国民へ遊学の挨拶をするのですから、言葉を考えておくのですよ?」
「はい。母上」
バシャが部屋を出て行った後、サリューは戸外で待機するラムを
呼んだ。
それを合図に、リンは目を細め、その細く白くて長い指を隠していた
薄衣の手袋を外した。
「サリュー様、失礼致します」
賑わう後宮の一室は、何処よりも静かで、蜘蛛が糸を手繰り寄せるかの
様な緊張感が満ちていた。
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