召喚勇者はにげだした

７．少年だったころの心フォーエバー

そして……ドラゴンを見ると疼く場所がある、古の少年だった頃の心だ。

「これからお前の名前は紅蓮の流星コンキスタドール地獄のインフェルノ征服者ォォォオッだぁあ！　この私に従属を誓うが良いっ！」

沈黙がよぎる。まさか時を止める呪文だとは思わなかった。

「……なんつって」

本物のドラゴンを前に楽しくて調子に乗っていた。ちょっとお酒も飲んじゃったし。中学の時に思いついた俺が考えるウルトラスーパー最強かっこいい名前を言ってみた。ドラゴンは心を少年に戻すんだ。

戸惑ったように赤いドラゴンが目をぱちくりさせて見上げてくる。だが、すぐにクォッっと鳴いた。

『眷属契約が結ばれました。紅蓮の流星コンキスタドール地獄のインフェルノ征服者はあなたの眷属になりました』

不穏な四角い窓が現れた。
ドラゴンのおでこの鱗が一枚、俺の髪の色と同じ黒色に染まった。

「え？」
ネックさんが驚いた顔でこちらを見ている。
「え？」
俺はシビレさんを見た。
「え？」
シビレさんが驚いてドラゴンを膝から落としそうになった。すかさずサバラがそれをキャッチした。

サバラは赤いドラゴンをあのサバンナの王子をお披露目する猿みたいに掲げた。
「紅蓮の流星コンキスタドール地獄のインフェルノ征服者、おめでとう」
と祝福した。小刻みに震えてやがる。

どうやらこの世界、ある程度知性のある野生動物は名前を付けることで眷属に出来るらしい。ただし、それにはたくさん魔力が必要なのと、野生動物自体もそれを受け入れなければ出来ないそうだ。

『なお、名前の変更はできません』
オッケーグリモワール説明ありがとう。俺のバカ！

「これも縁だよ、立派なエンシェントドラゴンに育ててあげて」
シビレはドラゴンの角を撫でた。気持ちよさげに目を細めている。

『エンシェントドラゴン、ドラゴンの最上位種。国宝級のドラゴン　紅蓮の流星コンキスタドール地獄のインフェルノ征服者はエンシェントドラゴンを目指します』
オッケーグリモワール。おもしろがってるだろ。


一人で生きるのが、やっとなのに扶養家族ができてしまった。


俺の扶養家族は優秀だ。紅蓮の流星コンキスタドールインフェルノは呼びにくいのと、思い出すと精神にダメージを与えるため略称でコインと呼ぶことにした。

あの庇護欲をそそる弱弱しさから一転、体力をつけると自分で獲物をとってくるようになった。ごめんよ、俺にはまだ命を狩る勇気はない。だけど、コインが仕留めてきた獲物を調理することはできた。おかげで食卓事情が改善された。謎肉最高！


異世界スローライフ、まったりと馴染んできている。


たらいに水を溜めてそこに聖剣を入れる。少し念じると水がみるみるお湯に変わった。聖剣は相変わらずいい仕事をする。

「コイン。お湯の準備できたよ。おいで」

返り血だらけのコインを洗うのも日常だ。腕まくりして手桶でコインにお湯をかけた。赤い鱗に返り血だから目立たないんだけど、そのままにしておくと生臭いから洗うようにしている。


洗い方はグリモワールが教えてくれた。

『紅蓮の流星コンキスタドールインフェルノを洗うときの注意点。お湯をかけるのは顔から体の順で。鱗を逆立てないよう注意してください』

オッケーグリモワール毎回フルネームなのわざとだろ燃やすぞ？　


気が散ったせいで手がおろそかになってしまった。鱗をひっかけて逆立ててしまったらしく、コインが不快そうにぶるりと身を震わせた。おかげで俺にもお湯が掛かった。

汚れた水でぐっしょりと濡れたシャツに呆然とする。だがドラゴンはきょとんとして悪びれない。可愛い扶養家族のしたことなので許す。


天気が良くてよかった。俺は気を取り直してシャツを洗うことにした。あぁ、ついでにと思いついたまま、シーツや。ズボンも洗うことにした。

魔法があるから浄化で綺麗な状態にすることはできるが、やっぱりこうやって自分の手で綺麗にする方が気持ちがいい。