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その程度の芝居では

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「サロメ」は、翻訳家、また演出家の島村抱月と、主演女優松井須磨子のコンビの代表作の一つである。
その芝居は、贔屓目に見ても圧巻と言って良かった。
自身も深く感動をしながら、佐々野は黒木に尋ねた。

「・・・如何ですか?」

しかし黒木は、平静を装い、何事も無かったかのように吐き捨てた。

「・・・その程度の演技をする女優なら、履いて捨てる程いる。帰りたまえ」
「何だと?」

怒り、黒木に掴みかかる須磨子。
その場を収めようと、リュウタロウも助け船を入れようとした。

「社長、僕は今の芝居、良かったと思いましたが」

黒木はその言葉を無視して、リュウタロウを捕まえた。

「リュウ君、君は早くスタジオに戻るんだ。収録が始まるぞ!」
「あ・・・はい。そうだった!」

慌てた様子で去って行く二人。
残された佐々野と須磨子は、作戦を練った。

「手詰まりですね。何とかその、上原先生に会わせてもらえる方法はないかなあ」
「須磨子に良い考えがある。ついて来い。佐々木」
「佐々野です。良い考え?・・・もう、強引なんだから!」

言う間に走り去った須磨子を追う佐々野。
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