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第二章 社長生活の開始

特訓

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「左右田さんに、演技のレッスンを受けに行く」

その話を聞いた新谷ねむの反応は意外だった。

「ありがたいお話しですぅ」

かつてない程のやる気を見せたのだ。
この間の面談から、彼女は彼女なりに現状打破のきっかけを探していたのかもしれない。

水曜日。
オレとれむは左右田さんのマンションに行った。
2LDKのマンション。
リビングはお世辞にも片付いているとは言えなかった。
酒の空瓶やビールの空き缶が散乱している状態で、オレとねむはまず左右田さんの居間を片付けた。

「そんな事をしてもらって悪いな」
「いえ、弟子にしていただくのですから、これくらい」

ゴミを片付け、洗濯をし、床に雑巾をかけると、左右田さんの家は見違えるように綺麗になった。

「じゃあ、レッスンを始めようか」

左右田さんは腰を叩きながら立ち上がった。

「この部屋で、ですか?」
「違う、奥の部屋に行け」

奥にあったドアを開けると・・・
そこには板張りのスタジオがあった。
大きな鏡もある。
オレとねむが身体を動かすには十分なスペースだ。
そしてその部屋は、埃一つなく綺麗に維持されていた。
この部屋だけは、綺麗にしていたのか。
それとも、オレたちが来るので、綺麗にしてくれたのか。
どちらにせよ、左右田さんがオレたちに稽古をつける事を、楽しみにしていた事が伺えた。

「いいスタジオだろ?」
「はい」
「昔はここで、沢山の声優が稽古をしたもんだ。ここ十年はそんな連中もさっぱり来なくなっちまったがな」
「・・・よろしくお願いします」

オレは居間で、稽古着に着替えた。
ねむも着替えたいと言うので、オレは一度スタジオから出た。
ねむは上はTシャツ一枚、下は短パンになっていた。
ファンが見たら発狂するかもしれない露出度だった。
これから毎週水曜日は、ここでねむと演技レッスンを受けられるのか。
なかなか悪くない。

「さて」

左右田さんの指導が始まった。

「まずはじっくりストレッチからだ。身体が温まっていないのに声出しをするな。喉がいかれるからな」
「わかりました」

オレとねむは、じっとりと汗をかき始めるまで柔軟体操を続けた。
すぐ近くで柔軟をする美少女の存在はオレの心をかき乱したが、出来るだけ気を散らさないように心がけた。
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