華麗なるブルゴーニュ家とハプスブルグ家の歴史絵巻~ 「我らが姫君」マリー姫と「中世最後の騎士」マクシミリアン1世のかくも美しい愛の物語

伽羅かおる

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【第1章】幼き3人の姫君達

その1✤アリシア---美しい栗色の髪の婦人

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 数時間後には目的地へ到着したらしいのだが、アリシアは馬車の中で寝てしまい、気が付いたのは、早朝の小さな部屋のベッドの上だった。お母様に会えるのかと思うと、待ち遠しくてたまらず、女官に身なりを整えてもらう間も落ち着かなかった。

 ところがその日は誰とも会わずに終わり、到着して1週間が経ってもその屋敷は静かなままで、彼女と一緒に来た数人の女官以外他には誰もいないようだった。

 アリシアは待ち遠しい気持ちをおさえつつ、女官達と共に森に散歩に出かけたり、祈りを捧げながら日々を過ごしていた。

 その屋敷は大きな森に囲まれていて、屋敷からは森しか見えなかったので、この近くに街があるのか、教会があるのかさえもわからなかった。教会へ行くこともできなかったので、部屋で祈りを捧げるしかなかった。彼女が祈る時、白いロザリオは彼女の小さい手の中に握られていて、物心ついた時からロザリオの祈りをマリア様に捧げていた彼女は、森の散歩の途中にも祈り始めることがあり、そんなわけで、彼女の長いスカートのポケットにはいつもロザリオが入っていたのだ。その白いロザリアが入っている青い袋はまた美しい白い薔薇が描かれたものだった。幼い頃からこの美しいロザリオの袋をいつも身につけていたので、持っていないと何故か不安になるほどだった。

 正直、夜一人で寝るときもこのロザリオとそしてセシリーというお人形がいてくれれば、なんとなく安心な気持ちになれたのは、やはり彼女自身お人形と共にこのロザリオも自身の出自に関係したものだとわかっていたからなのかもしれない。

 そんな日々を過ごしているうちに10日ほど経ったある日の夜、馬車の音がして、女官達が慌ただしく誰かを屋敷へ招き入れたのがわかった。

 そしてその突然の訪問者---若く美しい栗色の髪の女性---はアリシアの部屋へ突然あらわれ、アリシアを抱きしめて懐かしそうな表情でこう言ったのだ。
 
「嬉しい、随分大きくなって……会いたかった、あなたにずっと……」と……。

 ところが彼女はそのまま気を失ってしまい、その日からまた暫くアリシアはその婦人に会うことはなく、でも同じ屋敷内で女官達に介護されているらしいとわかり、もしや母かもしれないその人と同じ屋敷にいるのかと思うだけで、アリシアは幸せな気持ちになることができた。

 その時までアリシアは自分の親はおろか、親族らしき人というのも知らず、世話をしてくれる何人かの女官達だけがアリシアの世界だったので、自分にとって「大切な人」らしいというこの婦人が万が一にも母親ではなくても、彼女が本当は誰なのか、どこから来たのか、それを教えてもらえるのであればかまわないと思うようにもなっていた。

 またそれから10日程が経った頃には、アリシアもどうやら彼女は自分の母ではないのだろうということに薄々気が付き始めていた。

 女官達に
「あの方はどなた?」と聞いても
「貴女様のお母様ですよ」と言う女官は誰一人いなかったからだ。

 その婦人の名前がベアトリスという名前だということもわかり、アリシアはその名前からも気がついていた、それは多分彼女の母の名前ではないということが……。

 前述した彼女が肌身離さず持っているセシリーというお人形---この人形の名前こそ自分に関係する名前、あるいは母の名前だということを実は彼女は知っていたのだ。

「母君様から言われて、貴女様のお母様のお名前をこのお人形につけたのですよ」と、ある日女官がつぶやいた事をアリシアは忘れていなかった。

 幼い記憶の中でもその言葉だけは大きな意味を持って、彼女の心を長年支配していたので、女官がふと独り言のようにつぶやいた彼女自身は幼い頃の話でも、これは彼女には絶対に忘れることはできない話だったのだ。

 親族らしき人に会ったことがないまま育っていた彼女にとって、母親というものはどういうものか理解できていなくても、本能的に母親の存在を欲する強い気持ちがあったのは事実だった。

 女官達は親切で優しく思いやりにも溢れていて、そんな彼女達のおかげで寂しくはなかったけれど、でも遠い記憶で母というものを知っているのも事実だった。

 母と過ごした日というのもあったに違いないとアリシアは感じていた。

 しかしそれにしても、一体このベアトリスという美しく若い女性は誰なのだろう?

 なぜアリシアに関係があるというのだろうか。

 そしてなぜ彼女はアリシアに
「あなたに会いたかった」と言ったのだろう?

 色々なたくさんの「なぜ?」を抱えながら、ベアトリスと話す日を待っている幼いアリシアだった。



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