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【第2章】赤い薔薇と白い薔薇
その39✤1458年3月25日『Loveday(愛の日)』のパレード
しおりを挟む※こちらはヘンリー6世のイギリスのライオンとフランスの百合両方の印を入れた旗を持つ、ヨーク公リチャードの肖像画になります。
ヘンリー6世は精神錯乱に陥る以外は、僧侶のような静かな王だった。
ヘンリー6世の狂気の血は母キャサリン・オブ・ヴァロワから受け継いだもので、キャサリンの父フランス王シャルル6世も「狂気王」だったが、こちらは突然暴れて家臣を切りつけたりするような精神錯乱であったが、ヘンリー6世の方はあまり害はなく、ただ記憶をなくし、何もわからなくなるという、精神錯乱状態の中でも喚いたり騒ぎ立てたりするというよりは、何も理解できず寝たきりになる、というような精神疾患の病だった。
久しぶりに、正気を取り戻した王は考えた。「双方を仲直りさせることが先決である」と…。それはヨーク家リチャードと王妃マーガレットの両陣に対して、最も有意義な解決策とならなければいけない。「そうだ、もうすぐ『受胎告知祭』ではないか!」
キリスト教会の主要な祝日の一つに受胎告知祭というのがあり、それはクリスマスの9カ月前の3月25日に祝われる。大天使ガブリエルが聖母マリアに「祝福された方、あなたは神の子を生むでしょう」と神の子イエズスの受胎を告知したと言われている日だ。
1455年の「第一次セント・オールバンズの戦い」において互いの妥協案を探り、賠償金も決め、そして最後の行事として、信心深かったヘンリー6世はこの日に「Procession」つまり「パレード」を執り行うと決めた。反目しているもの同士に手を繋がせて、ロンドンを練り歩くのだ。
共に手を携え行列している間にお互いの敵意が消えるばかりか、ロンドン市民達も平和が訪れた事を知り安心するだろう。自分の健康な姿も見せよう。国民もさぞや喜んでくれるに違いない---と、ヘンリー6世はこのように考えた。
このような考え方からも、ヘンリー6世は心根の優しい王だったのだろうということは理解できるが、彼は僧院で暮らす方が合っていて、不幸にも王には向いていなかったのに違いない。
3年前のその戦闘において、王の側近サマセット公エドムンド、パーシー家のノーサンバーランド伯ヘンリー・パーシーとクリフォード男爵トマス・クリフォードを討ち取った当人達と、そしてその討ち取られた息子達を共に行進させ、王は王室のロープと王冠を身につけ、その後に手を携えたヨーク公リチャードと王妃マーガレットをパレード最後に従え、ウェストミンスターからセント ポール大聖堂までの行進とした。もちろんその後にはそれぞれの兵士達が続き、その数は3000人ほどだったろうか。
しかしながら、ここで手を繋いでいたのは皆敵同士か、反目している者同士である。こんなパレードでお互いの遺恨が消えるわけもなく、「空気中に愛は感じられず、この『愛の日』という命名は皮肉でしかない」と後に歴史家に酷評される日となる。
またこの日はヨ-ク公リチャ-ドと16歳の長男エドワードと15歳の次男エドムンドが初めて華やかな行列に参加した日でもあった。リチャードの妻セシリーもこの行列を見学するために、ベアトリスとマーガレットと弟ジョージとリチャードを連れてロンドンへ行くことにした。夫や息子達の晴れ姿を一目見ておきたかったからだ。マーガレットは11歳、ジョージは9歳、末の弟のリチャードも6歳になっていて、父や兄達の晴れ姿を見るのは良いことだろうとセシリーは考えた。
父に似ず大柄な2人の息子エドワードとエドムンドの若武者姿は美しい。また夫のリチャードも王妃と歩く姿はまるで本当の王のようだ。見ている子供達も父や兄の姿に惚れ惚れしているではないか、苦労してここまで来た甲斐があったというものだ、セシリーはそんなことを考え、幸せな気分に浸っていた。
しかしそのパレード見学中にセシリーはあることに気がついてしまった。息子エドムンドが行進の中から愛を込めた目で見つめたのはベアトリスだということに。見つめられたベアトリスの方もエドムンドのことしか見ていないようだった。セシリアは思った。「この2人はお互いに恋をしているのね、どうしたものか。これは許して良いものかどうかまずは夫に相談しなければ……」
そう気が付いたと同時にもう一つの疑惑が生まれた。それはエドワードだった。遠くから見つめ合っているエドムンドとベアトリスを見ているのはセシリーだけではなかったのだ。ヨーク家の御曹司であるエドワードも遠くから2人を見つめていることに気がついたセシリーだったが、なんとそのエドワードの顔には嫉妬心が強くあらわれていたのだ。「これはどういうこと? まさかエドワードもベアトリスに恋をしていたというの? これは困ったことになったわ、エドムンドはともかく我がヨーク家の跡取りであるエドワードにはヨーク家にとって最大の利益になる姫を迎えるつもりだというのに……間違いが起こらないうちに何か方法を考えねば……」
先日の次女エリザベスの突然の結婚、彼女の子供達でも自分達の強い意志があれば勝手に結婚までしてしまうこともあるのだということを既にわかっていたセシリーだった。
セシリーがあれこれ考え始めたことに気が付かないエドムンドとベアトリスは、ほんの一瞬のつかの間の逢瀬を、幸せに感じていたのだった。
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