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【第2章】赤い薔薇と白い薔薇
その43✤セシリーと子供達 ラビー城への逃避行
しおりを挟む※こちらはセシリー始め、兄のソールズベリー伯、夫ヨーク公リチャードも引き取られ育ったセシリー生家のラビー城
9月のブロア・ヒースの戦いから10月のラドフォード橋の戦いにかけて、ヨーク家の士気は高まっていた。最初の戦いで勝利をおさめたのでもちろんこのまま勝利の波に乗って生意気なフランス人王妃マーガレット・オブ・アンジューを叩きのめしてしまうはずだった。
なので、セシリーはもちろんラドロー城に住んでいるマーガレット、ジョージ、リチャード、そしてベアトリスも、まさかこの城を捨てて逃げることになるとは思っていなかった。
でも10月になって、ランカスター側がどうやら巻き返しを図り、ラドロー城近くに続々と集まり始めた、という報告を受けたヨーク公リチャードは
「子供達を連れて一刻も早くこの城から離れるのだ」とセシリーに言った。
その時にはまさか最終的には敵の城内侵入を許し、略奪されるままになろうとは思ってもいなかったリチャードではあったが、重臣でありセシリーの兄でもあるソールズベリー伯の強い進言もあり、セシリーは子供3人とそしてもちろんベアトリスと、そして何人かの女官達と共に自分の生家であるラビー城に避難することになったのだ。
ミッドランズ南西部にあるラドロー城からダラム郡のステインドロップのラビー城まで約300kmの道のりは、当時は馬でも平均10日はかかる距離だった。またまさに戦闘中でもあり、非常に危険を伴うということは誰の目にも明らかだったので、迅速で目立たない移動をするために、荷物は最小限に、そして敵がいそうにない山道を走るため馬車は使えないので、セシリー達は総勢10人程にて馬で移動することにした。
しかしながらこの女性と子供達だけの移動はランカスター家の敵ばかりか、山に潜む盗賊やあるいは獰猛な山の動物にも備える必要があり、彼女達を守る兵士達も必要だった。
この逃避行に同行すると言って譲らなかったのがエドワードで、しかしながらエドワードはヨーク家の御曹司であり、リチャードの次の君主でもある。このエドワードをいくら母セシリーのためとは言え、今まさに戦いが始まるという時に女子供達のための護衛のために遠方へ旅立せるわけには行かず、次男であり16歳になったエドムンドが兄とそして父の代わりに家族を守ってのラビー城までの行程に付き添うこととなった。
17歳のエドワードはその頃には既に190cmを超える高身長となり、美しい青年に成長してはいたものの、それでも未だにエドムンドのように周りがリラックスできる人柄ではなかったため、もちろん弟達にとってもエドワードよりはいつも一緒に遊んでくれていたエドムンドが一緒に来てくれる方が嬉しかった。
そもそもエドワードはヨーク家の後継者であり、戦況によっては父リチャード公の次にイングランド王になる可能性もあったため、生まれてからこのかた、皆にかしづかれて生きて来たのだ。実はエドワードの1つ上にはヘンリーという長子がいたのだが、生まれてすぐに亡くなったということもあり、セシリーはとりわけエドワードを大事に育ててきた。そのため、エドワードは人の気持ちを読む、という点ではエドムンドより劣っていたのは致し方なかったのだろう。幼い弟達はエドワードを長兄として尊敬してはいたがどうしても遠い存在であり、自分達の近くにいて遊んでもくれる次兄エドムンドを慕っていた。
しかしながらこの目立たぬように進まなければならない逃避行は、10歳のジョージや、まだ7歳のリチャードにとってはもちろん、またセシリー達女性達にとっても過酷な旅となった。それでもこの2人の弟と妹のマーガレット達にとって、そして母セシリーにとって、もちろんベアトリスにとっても愛するエドムンドが側にいて自分達を守ってくれているということはこの辛い逃避行の中、唯一なぐさめられる、そして幸せな事でもあった。
兵士も共に総勢20人ほどで山を超え、谷を超え、川を渡り、野営をしながら、結局2週間位かけてラビー城に到着した。そして城に着いてまず聞いたのがランカスター側によるラドロー城の略奪で、城の高級な装飾品も、家具も、そしてベアトリスが大切に育てていた薔薇も全ては焼き払われた。そして悲しいことに逃げるのが遅くなり残っていた男の使用人達は皆殺しになり、女達は情け容赦ない暴行の末に惨殺されたという聞くに堪えない報告だった。
セシリーを震撼させたのは、万が一自分達の決断が遅く、城に残っていたらどうなっていたのだろうかと考えた時だった。
愛する子供達もそして自分や夫も我が一族皆が皆殺しにされていたのだろうか……。
そして
「今、夫とエドワード達はどうなったというの?!」と震えた。
幸いにして彼女の夫ヨーク公リチャードと愛息子エドワードも、彼女の兄ソールズベリー伯と甥のウォリック伯の親子も捕らえられることはなく、そこから逃げ落ちたのだった。
エドムンドはラビー城に到着してその足で、父に合流するためアイルランドへ急ぐことになる。そしてエドワードはウォリック伯、ソールズベリー伯と共にウォリック伯の本拠地であるカレーへ落ち延びた。
これはヨーク家の運命の日、1460年の12月30日の約1年前の事だった。そして本当の悲劇も訪れてはいなかったのだ。この時はまだ……。
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