華麗なるブルゴーニュ家とハプスブルグ家の歴史絵巻~ 「我らが姫君」マリー姫と「中世最後の騎士」マクシミリアン1世のかくも美しい愛の物語

伽羅かおる

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【第2章】赤い薔薇と白い薔薇

その56✤神がもたらした大逆転劇

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※この絵はイギリス・ノーサンプトンシャーにあったフォザリンゲイ城。
エドムンドの遺体はポンテフラクト修道院に埋葬された後、1476 年 になって父ヨーク公リチャードと伯父であるソールズベリー伯リチャード・ネヴィルと共にフォザリンゲイ城に盛大に埋葬された。ファザリンゲイ城とはヨーク公リチャードの末の息子リチャード(後のリチャード3世)の生誕の地であり、また1587 年に投獄されたスコットランド女王メアリーの処刑場所でもあるが、残念なことに17世紀に城は取り壊され現存していない。



 セシリーはその報せを聞いた時、夢ではないかと思った。それは実際には遥かに予想を超えた嬉しい一報だった。

 2月17日に2回目のセント・オールバンズの戦いでヨーク軍は敗退したというのに、現在まだ王であるヘンリー6世が城内に入ることができなかったというのだ。

城内どころか街の門すら通ることができなかったというではないか。

「私の愛する夫リチャードと息子エドムンド、そして兄のソールズベリーを惨むごたらしく処刑することを命じたあの憎いフランス女マーガレットが、再び王妃の地位に返り咲くわけがない」とは思っていたが、でも現実にはこのセント・オールバンズの戦いで負けてしまい、このままだったら今は当主となったエドワードはもちろん、まだ12歳のジョージもその下のリチャードもきっと追われ見つけ出され、そして囚われた後に処刑されることになっていただろう。

 男達ばかりではなく、ヨークの奥方である自分や、まだ結婚すらしていないマーガレットや、あるいはランカスターの血を引くベアトリスだって、捕まって首を刎ねられていた可能性もあったのだ。むしろその可能性のほうが強い程だった。

 戦いには勝利したというのに、ヘンリーとマーガレット王夫妻は城内に入ることができなかったため、当初の目的であったヘンリー王の後継はヨーク家に渡るという誓約書を破り捨て破棄することができなかった。

それは

「ヘンリー6世が自身の息子である王太子エドワードの王位継承権を剥奪し、ヨーク公とその一族を次期の王位継承者に指名する」という正式な誓いだった。

 この誓約書が残ったということは次期国王になるのは、今ではヨーク家の当主となったエドワードということになる。

 この誓約書を手に入れることができなかったことは王妃マーガレットの陣営にとって、その後、取り返しのつかない出来事となったのだが、それまで兵士の傍若無人な近隣市民への略奪や殺人に目をつぶって来たツケがこんな形で彼らの運命を決める決定打になるとは、ヘンリー王そしてマーガレットと王太子エドワードは悲運というよりなかった。

 セシリーは思う。

 「マーガレット王妃はもちろん、ヘンリー王ですら城へは戻れなかった。そして息子エドワードが、甥のウォリック伯の手引きにより、城の中に入り、当初の予定通り次期王と皆に認められたというではないか。このような奇跡的なことが神の意志なしに起こるわけがないであろう」

 そして

「やはり神は私達ヨークを見捨てなかった。神よ、心から感謝致します」と、『全知全能の神』の存在を強く感じ、日に千回も感謝の祈りを捧げたのも頷ける。

事実このような大逆転劇が起こるなんて、信心深いセシリーにとっては

『神の思(おぼ)し召(め)し』以外の何ものでもなかった。


 また、ユトレヒトの親戚の元へ預けておいたマーガレット、ジョージ、リチャードの3人をここミデルブルグに呼び寄せ、3人が無事セシリーの元へ到着したら、家族皆でロンドンの城へ戻るようにと、エドワードからの文(ふみ)も届いた。またその文(ふみ)にはベアトリスの様子を案じ、そして一時も早く彼女に会いたいとも書かれていた。

 セシリーは、思い出す。


「晴れて家族全員でロンドンの城へ戻ることができるとは、なんと素晴らしいこと! 

 あぁ、でも、そうだ……忘れていたが、今こそあの子(その時エドワードはまだ18歳の青年であった)はベアトリスと会いたいのだわ。だが、しかしベアトリスはどうなのだろうか……」

このままベアトリスをロンドンへ連れて行けばどういう事態になるかはベアトリス自身にもわかっていることなのだ……。


「ベアトリスに確認しなければいけないわ、そうまずは医学の心得のある者も呼んで診察させ……そう、それから考えなければ……」

 ここへ来てから約1ヶ月近くの間、いや、それどころか今もまだベアトリスの体調不良は続き、食事も満足に取ることができない状態が続いているのだ。

 愛するエドムンドを亡くしたという理由が大きいのだろうが、理由は果たしてそれだけなのだろうか?

 もともと細いベアトリスの身体は今ではますます細くなり、突然血の気が引いて倒れることもある状態は決してこのまま見過ごすことはできなかった。

 そして彼女はロンドン---つまりエドワードの元へ行きたいのかどうか、行くのは可能なのかどうか、それも確認する必要がある。


 ベアトリスの思いを確認すべく、寝室で伏せている彼女の元へと急ぐセシリーであった。



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