華麗なるブルゴーニュ家とハプスブルグ家の歴史絵巻~ 「我らが姫君」マリー姫と「中世最後の騎士」マクシミリアン1世のかくも美しい愛の物語

伽羅かおる

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【第2章】赤い薔薇と白い薔薇

その60✤フェリブリッジとタウトンの戦い

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※タウトンの戦いで矢で総攻撃をかける兵士達


 タウトンから17㎞ほど手前の場所にフェリブリッジがあるが、最初の戦いはこのフェリブリッジで始まった。

 フェリブリッジとはロンドンから北へ300㎞ほど遠方の、右上方にあるヨークまではたった43㎞の、昨年12月30日にヨーク家が大敗を喫したウェイクフィールドの戦いの場所からも20㎞と離れていない場所だった。

 ヨーク公リチャードとベアトリスの愛するエドムンドが殺されたあの悲劇的な、そしてヨーク家にとっては決して忘れることのできない屈辱を受けたあの日から、わずか3ヶ月で状況は激変したとはいえ、戴冠式を済ませていないエドワードの王としての位置はまだ脆弱(ぜいじゃく)なものであった。それを強固なものにするために絶対に勝たなければならない---しかし、この戦いはランカスター陣営の待ち伏せから始まった戦いで、ヨーク側は突然のことに不意を突かれてしまう。

 3月とはいえ、その日はとても寒い日で、川の水は凍りつくようで、先に進んでいたウォリック伯の軍はランカスター陣営に入ったネヴィル男爵ジョン・ネヴィルの軍隊に不意打ち攻撃をくらい、冷たい川の中で矢を射られ殺された者が多かった。

 エドワードの母セシリーの甥に当たるこのジョン・ネヴィルという男を覚えておられるだろうか。ネヴィル男爵ジョン・ネヴィルはヨーク公リチャードの腹心でありながら、ウェイクフィールドの戦いでランカスター側に寝返った、ヨーク家にとってはいくら憎んでも憎み切れない裏切り者だ。

 彼はウォリック伯にとっては従兄弟(父親同士は腹違いの兄弟)でもあった。

 ヨーク公リチャードはあの時サンダル城でこのジョン・ネヴィルが応援を引き連れ戻ってくるものと信じていたために、城から出たのだ。それが反対にそのジョン・ネヴィルから攻撃を受けて捕らえられ、処刑された。ジョン・ネヴィルに裏切られたと知った時のヨーク公リチャードの無念の思いはいかばかりであったことだろうか。

 そして今回もまた優勢を誇ったのは、このジョン・ネヴィル率いるランカスター軍だったのだ。
ヨーク側の兵士達は遠くから矢を射られ、戦死した3,000人の兵士のうちの多くはヨーク側だったといわれている。

 エドワードが軍を引き連れ到着した頃には、橋は壊され、川は死者で溢れかえる状態であったが、ウォリック伯のやはりもう一人の伯父にあたるフォーコンバーグ卿(こちらもセシリーの母違いの兄)はクリフォード卿を追い詰め、殺した。彼は仲間を呼ぼうと、大声を出すために邪魔な喉を防護する兜を外していて、そしてなんとちょうどその場所にフォーコンバーグ卿の放った矢が突き刺さったのだ。不思議な事にこんな些細な一瞬の過ちによって死ぬことになる。
 
 クリフォード卿とはエドムンドを殺害した男であり、皆が恐れる腕の立つ騎士であり、勇敢で有能な指揮官の一人だった。この当たりからヨーク家に「勝てるかもしれない」という一抹の望みが生まれたのかもしれない。

 その翌日の1461年3月29日のタウトンの戦いは、猛吹雪の中視界も悪く、誰が敵で誰が味方かもわからないというような中で戦闘が始まり、記録によればランカスター派が42,000人、ヨーク派が36,000人参加したらしいが、死者は2万人から3万人だったのではないかと言われている。

 しかしここでも幸運の女神はヨーク家に微笑んだ。戦闘4時間後に風向きが変わり、ランカスター軍は向かい風の中で大量の矢の攻撃を受け総崩れとなるのだ。

 凍るような川で溺死した者もいれば、川を渡り逃げようとした兵士達は逃げやすくなるために武器や兜などを脱ぎ捨てて、少しでも早くその場から退去しようとしていた。云わば防御服を全く身に着けていない状態だったこの兵士達はやはり恰好の標的になり、牧草地の草原はこれらの兵士達の血で真っ赤に染めあがったという。そこでは地獄絵のような光景が広がっていたのだ。

 前日にはヨークの宿敵クリフォード卿が死に、そしてこの日の戦いではネヴィル家の恥さらしである、憎き裏切り者のジョン・ネヴィルもついに戦死してしまう。

 しかしこの2人は捕らえられれば拷問の末に殺された可能性もあったので、戦さの中で死ぬことができたのは幸運だったかもしれないが……。

 ランカスター側のこの2人の有能な指揮官は亡くなり、ヘンリー元国王と王妃マーガレット夫妻はエドワード皇太子を連れスコットランドへと逃げることとなった。残された貴族は全員ヨーク家の元に跪(ひざまづ)くしか生き残る道はなく、ついに、エドワードがイングランド王エドワード4世として正式に即位することに異を唱える貴族はいなくなったのであった。
 
 
 
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