竜神様に見初められまして~虐げられ令嬢は精霊王国にて三食もふもふ溺愛付きの生活を送り幸せになる~

青季 ふゆ

文字の大きさ
48 / 65

第48話 訓練の報告

しおりを挟む
「……以上が、本日の一連の流れです」

 夜、王城。
 アランの執務室で、モーリスは淡々と今日の訓練中に起こった出来事を報告し終えた。

「予想以上の成果、ってところかしらね」

 報告内容を聞いたシエルが弾んだ声で言う。

 アランの机に腰掛け足をぷらぷら。
 興奮隠せぬ様子だった。
 
 一方で、じっとモーリスの報告を聞いていたアランが口を開く。

「教えた感触としては、どうだった?」
「天才、としか言いようがございませんね」

 まるで、壮大な物語を読み終えた後の余韻に浸るような表情で、モーリスは言う。

「今まで多くの精霊魔法士を見てきましたがソフィア様ほどの才能を持つ者はとても……」

 モーリスの報告曰く、ソフィアは課された一メートル四方の土の塊を作るという課題に取り組んだところ、最初は巨大で歪な土の塊を作ってしまったらしい。

 加護の指輪で精霊力を制御していたにも関わらず、ちょっとした一軒家ほどの巨大な土塊を創造したことに初手から度肝を抜かれたのは言うまでもない。

 土を創造するのは精霊力を多く使うし何度もやっていたら草原に山ができてしまうと言う事で、二回目からはその土塊を使って訓練を行った。

 最終的に、与えられた数時間では一メートルきっかりの土塊を作る事は出来なかったが……。

「イメージした通りの形……立方体型の土塊を数時間で作るなんて……本来、精霊魔法の制御は何年もかけて少しずつ習得していくものです。自分のイメージした形通りの物体を生成するだけでも一ヶ月、下手したら何ヶ月もかかるところ一日でやり遂げるなど、規格外もいいところです」

 モーリスの言葉には熱が篭っていた。
 それだけとてつもない物を、ソフィアは彼に見せたのだった。

 ソフィア本人は「ごめんなさい……調整が難しくて課題通りのものは作れませんでした……」と見るからにしょんぼりしていたが……。

 ソフィアが数時間で行った事がどれだけ凄いのかモーリスが懇々と説いて、心底ホッとしたようだった。

「ソフィア様にあと必要なのは、“強すぎる精霊力を抑える力”だと思います。彼女の精霊力が莫大すぎるゆえに、そこに一番苦労しているのかと」
「なるほど、精霊力が多い故の弊害だな」
「逆に言うと、そこだけ調整できればもう、言うこと無しだと思います」

 確信的な目で、モーリスは頷いた。

「あと、何よりも舌を巻いたのは……ソフィア様の努力気質というか、負けん気というか……何度も何度も失敗しても、投げ出すことなく精霊魔法に向き合い、休憩する間も無く訓練に励んでいました」
「ソフィアちゃん、偉い! とっても努力家なのね」
「はい、とても教え甲斐があります」

 二人とは対照的に、アランの表情は険しい。

「……努力家、か」

 ソフィアが努力をするモチベーションの根源は、“命令されたらやり遂げなきゃ”という、実家にいた際に植え付けられた強迫観念だろう。

 そう思うと、彼女の頑張り屋気質を手放しに褒めるのはあまりよろしくない。

「報告感謝する。想像以上の成果だ」
「何よりでございます。といっても、私の手はそれほどかかっておりませんが……」
「モーリスの手腕もあるだろう。引き続き、ソフィアの訓練に従事してくれ」
「お任せを」
「あと……休憩は無理矢理でも取らせてくれ。頑張り過ぎて倒れる、という事態は全力で避けてほしい」

 釘を刺すように言われて、モーリスは深々と頭を下げた。

「肝に銘じます」

 その言葉を最後にモーリスは退室し、部屋にはアランとシエルが残される。

「ひとまず安心、ってところかしら」
「まだわかりません」
「あら、用心深いのね」
「まだ一日目です。これから何が起こることやら……」

 未だ険しい表情で言うアランに、シエルはにんまりと笑う。

「ソフィアちゃんの心のケアはお願いね、旦那様」
「何やら含みのある言い方ですね」
「真面目な意味よ」

 スッと瞳の明度を落として、シエルは言う。

「明るく気丈に振る舞っているように見えて、ソフィアちゃんはきっと無理しているわ。急に環境が変わった上に、何より彼女は、過去の自分と決別できていない」

 目を伏せ、どこか痛ましげにシエルは続ける。

「そう遠くないうちにきっと、あの子が抱えている絶望が破裂してしまうわ。その時はしっかりと、ソフィアちゃんのそばに居てあげなさい、そして……」

 アランをまっすぐ見据えて、にっこりと笑ってシエルは言った。

「貴方の、正直な気持ちを伝えてあげてね」
「…………善処します」
「善処なのね……」

 これだから堅物竜はと言わんばかりにシエルは頭を押さえた。

「まあ、いいわ。ソフィアちゃんの心配は当然のこととして、自分の身体にも気を使ってあげなさい」
「自分の?」

 アランが尋ねると、シエルはまるで子供に言い聞かせるように人差し指を立てて言う。

「貴方は真面目すぎるのよ。そんなに気を張っていたら、貴方の方が倒れちゃうわよ」
「竜人の体力を甘く見ないで頂きたい」
「同じ生き物である事は変わらないでしょうにー」

 そう言われるとそうなので、反論は出来ない。

 とはいえ……。

(気を張り過ぎ、か……)

 それは否定出来ない。

 事実、ここ数日の自分は少々、精神を尖らせていた。

 自分らしくない。
 だがソフィアの事となると何故か気を強く張ってしまうというか。

 心配で、気が気で無くなってしまうのだ。

「…………」

 自身の中に芽生えつつある確かな感情をどう取り扱えばいいか、アランの中で明確な答えはまだ出ていない。

 ここで考えても仕方がない事だろう。

 ……何はともあれ、ソフィアがこの国において与えられるであろう役割については、そう遠くないうちに力を発揮出来そうだと思った。

 その点については、安心しても良いかもしれない。

 アランは立ち上がる。

「あら、どこへ?」
「ソフィアと夕食の時間です」
「まあ!」

 両手を合わせて感激したようなポーズをするシエル。

「夫婦なんですから、当たり前でしょう」
「うんうん、そうねそうね」

 なんでこんな、やけに嬉しそうなのだろう。
 そんな疑問が顔に出ていたのか、シエルは言う。

「一匹狼ならぬ一匹ドラゴンだった貴方が、こうして人と関わるようになった事が、嬉しいのよ」
「……褒め言葉として受け取っておきましょう」

 最後に一礼して、アランも部屋を退室する。

 後に残ったシエルはひとり、少女のような笑顔を浮かべて言葉を落とした。

「さてさて、いつになったら素直になることやら」
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

正当な権利ですので。

しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。  18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。 2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。 遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。 再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...