絶対服従幼稚園

夕日 空

文字の大きさ
1 / 10

絶対服従幼稚園 1話

しおりを挟む
「ぶ~ん!ぶ~ん!キキ―!赤信号です!」

「じゃあエミちゃんはお医者さんね!私がケガした人!」

「ねぇねぇ、緑のクレヨン貸してー。」
「うん、いいよ~。」

 給食が終わって少し経った、午後の幼稚園。高く上った太陽が優しく照らす教室では、十数名の園児たちが思い思いに遊んでいる。年長クラスともなれば、この時間に眠たいと泣くような園児もおらず、いつも通りの穏やかな光景が広がっていた。

「ピーポーピーポー!道を開けてください!救急車が通ります!」

 教室の一角、日差しがわずかに差し込む窓際で遊んでいるのは、タクミ。車のおもちゃが大好きで、いま手にしている救急車は特にお気にいりだ。タクミは友だちとよりも一人で遊ぶことの方が多く、この時間帯は、専ら自分の世界に浸っている。
 
―ある男児が、その平穏な世界を壊さなければ、の話だが。

「おいタクミ!」

 背後から、突然大きな声が響く。恐る恐る振り返ったタクミの前には、体格のいい男児が仁王立ちしていた。

「ショウタくん…。」
「その救急車よこせ!そっちの車も!俺が使うんだ!」

 ショウタと呼ばれた男児は、そう言いながら次々と車のおもちゃを鷲掴みにしていく。

「ダ、ダメだよ…。」
「うるさい!今日はこれで遊びたい気分なんだよ!」
「そんな…。」

 ショウタは、ありったけのおもちゃを腕に抱えて、ズンズンと教室の中央に歩いていった。タクミはと言うと、それ以上言い返すこともなく、唇を噛んで泣くのを堪えるのが精いっぱいだった。




「でね、ショウタくん酷いんだよ!僕のおもちゃ、取っていっちゃうの!」

 ダイニングテーブルを囲んだ夕食どき。タクミは、両親に事の顛末を話した。母親は、大皿に盛った料理をタクミの皿に取り分けながら、うんうんと頷き、優しく語り掛けた。

「そんなことがあったのね…悲しかったわねぇ…。」

 一方の父親は、気弱なところがあるひとり息子を心配してか、やや強めの口調で口を開いた。

「あのな、タクミ。お前が強く言い返さないから、そうなるんだ。ショウタくんも、一度強く『やめてよ!』って言ったら、分かってくれると思うぞ。」
「言ってるもん…僕…。」
「タクミは言ってるつもりでも、ショウタくんには伝わってないかもしれないだろ?同じことが今度あったら、もっと強く言い返してみなさい。」
「…。」

 タクミはそれ以上言葉を返すことなく、口を真一文字に結んだまま、俯いた。


 その日の夜、タクミはなかなか寝付けずに、布団の中でゴロゴロと何度も寝返りをした。目を閉じると、睨みつけるようなショウタの視線を思い出してしまうのだ。

「(僕…ダメだよって…言ってるのに…。)」

 疲れ果て、いつの間にか眠りに落ちる頃には、小さな枕が少しだけ濡れていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に無一文投下!?鑑定士ナギの至福拠点作り

花垣 雷
ファンタジー
「何もないなら、創ればいい。等価交換(ルール)は俺が書き換える!」 一文無しで異世界へ放り出された日本人・ナギ。 彼が持つ唯一の武器は、万物を解析し組み替える【鑑定】と【等価交換】のスキルだった。 ナギは行き倒れ寸前で出会った、最強の女騎士エリスと出会う。現代知識とチート能力を駆使して愛する家族と仲間たちのために「至福の居場所」を築き上げる、異世界拠点ファンタジーストーリー!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

灰の街の灯火と、名もなき英雄

にゃ-さん
ファンタジー
「英雄なんて、もういらない」 滅びかけた異世界〈グレンヘイム〉に転生した青年リオは、過去の記憶と引き換えに“世界の欠片”を託された。荒廃した街、心を失った住人たち、光を信じなくなった国。だが、灰の中でも灯は消えていなかった。 リオは仲間とともに、滅びの真実を探す旅へ出る。 守るためではなく――“誰かをもう一度信じるため”に。 運命に抗う者たちが紡ぐ、再生と希望のファンタジー。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

処理中です...