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「わぁ、すごい。」

お店の中は魔道具でいっぱいだった。

「お、来たか。いらっしゃい。」

店の奥から店員が出てきた。

「え....?」

その店員は、獣人だった。
店員さんは、橙色の髪に紫色の目で、頭の上に犬の耳がついていた。
獣人はこの国ではいい扱いをされていないため、こんなに堂々と店をやっているのは驚きだ。
僕が困惑していると店員さんが、

「そういや、ここソレイユだもんな。そりゃそんな反応にもなるわ。」

ソレイユとは今いる国のことだ。
他には、今どうなっているか変わらないが隣国のリュンヌとエトワールという国がある。

「こんなに堂々とお店やってて大丈夫なんですか..?」

「ん?あぁ、心配しなくてもこの店は大陸の色んな場所に移動するんだ。客を選ぶ店だからやばい客なんて来ないんだよ。」

だからこんなに、堂々と店を出していたんだ。
それにしても、移動する店なんて面白いなぁ。
そういえば僕、元々図書館に行く予定だったからお金なんて持ってきてないや。

「入ってきてあれなんですけど、僕今手持ちがなくて..。」

「それなら別に後払いでもいいぜ。」

「え!そんなので大丈夫なんですか!?僕が払いにこなかったら....。それに、このお店って移動するんですよね?僕、お店に来れないかも...。」

「まああんたならまた来れるだろ。まあ最悪払えなくても、出世払いっての?でいいよ。俺、あんたには期待してるから。」

え?僕、店員さんとは初対面だよね?
なんで、そんなに期待されてるんだろう?
まあ、信用してもらえてるならいいのかな?

「じゃあお言葉に甘えさてもらいます。」

「おうおう、甘えとけ。」

僕は、色々と魔道具を見せてもらった。

「これは、ペン?」

「そのペンは、特定の相手だけに文字が見えるっていうペンだ。見せたい相手の名前を文の最後に書くことでそいつにしか見えなくなるんだよ。まあ貴族とかがよく使うもんだな。」

「確かに、平民の間とかではあまり使われさなそうですね。」

「そうなんだよなぁ。あ、そっちのやつ貴族、平民問わず結構人気のやつで......。」

魔道具の説明などを受けつつ、魔道具を見ていると紫色のパールのようなものを見つけた。
他のものは、アクセサリーなどに加工されているのにこれだけそのまま置いてある。

「それが気になるのか?」

「はい、これだけそのまま置いてあったので少し気になって。」

「それは他のアクセサリー類と違って使い捨てなんだよ。加工したところで一回使えば壊れちまうからそのまま置いてあるんだよ。」

なるほど、それで加工されてなかったのか。
でもこの紫のパールアメジスさんの目の色に似てる。

「あの僕これが欲しいです。」

「それかぁ?正直やめといた方がいいぞ。使い捨てってのもあるけど、それに刻まれてる魔法陣全然役に立たないからさ。一応魔道具だから店に置いてるけど、ほぼ飾りみたいなもんだし。」

「でも、これがいいんです。」

「うーん、まあ本人が欲しいって言うならいいか。」

「ありがとうございます!」

僕は嬉しくなってパールを眺めていると、ジリリッとどこからか音がした。

「げっ、もうそんな時間か。」

「何かあるんですか?」

「あぁ、いやここの店主が今外出中なんだが、そろそろ戻ってくる時間なんだよ。」

「そうなんですか。じゃあ僕も帰った方がいいですよね。」

「悪いけどそうしてくれると助かるわ。この後店をまた移動させなきゃ行けないからさ。本当は気が済むまでいてもらいたいんだけど悪いな。」

「いえ、大丈夫です。じゃあ僕は失礼しますね。」

「おう、また来いよ!」

「はい!」

そうして僕は店を出た。
外に出て後ろを振り返ると、店が無くなっていた。
本当に移動する店なんだ。
そんなことを考えながら、僕は屋敷に帰っていった。


屋敷に戻ってきた僕は、急いで部屋に向かった。

「サフィニア、おかえり。」

「ただいま、アメジスさん!」

アメジスさんにぎゅっと抱きつく。

「アメジスさん遅くなってごめんね。ちょっと寄り道しちゃって。」

「サフィニアに何も無いならそれでいい。むしろ私のことなんて気にしないで遊んで来てもいいんだぞ?」

「うん、でもアメジスさんともっと一緒にいたいから。」

「そうか。」

そういい、アメジスさんは微笑んだ。
やっぱりすき。

そうして僕は、今日一日アメジスさんと一緒に過ごした。
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