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15.しょぼい家
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非常に醜いその表情をエリーゼは見て…………いなかった。
そんな安そうなサファイアを自慢するヤハ夫人に、愛する女性にそんな安物をプレゼントしたジョーに、正気かと衝撃を受けていたからだ。
透明度は低くカットも雑な明らかな安物。わかっていながらも自慢しているのか、見る目がなくてぼったくられたのか……色々と心配である。
エリーゼは衝撃を受けているが、決して安いものではない。しかしエリーゼが身につけてきたもの、プレゼントされてきたものが規格外なだけ。
それだけエリーゼの周りは最高級のもので溢れ、当たり前のものであった。
「エリーゼ様はこのようなものを食べるのは久しぶりでございましょう?たくさんお召し上がりくださいね」
先程のふくよか夫人が目の前の茶菓子を勝ち誇ったように薦めてくる。ヤハ夫人の勝利(勘違い)にその折れかけた心は復活し、勢いづいたよう。
「お心遣いありがとうございます。ですが、私そんなにたくさん食べられませんわ。食欲旺盛なあなたがお食べになられたら宜しいかと」
「なっ!」
あら、思わず本音が。
ふくよか夫人は金魚のように口をパクパクと開閉させている。これは何かお口に入れてあげた方が良いのかしら……なんちゃって。
この夫人は先程から食べ物のことばかり、よっぽど食べることが好きなのだろう。健康的で良いことだ。
彼女たちは無一文無一文と嘲りたいようだが、普通に食事もすれば茶菓子も食べている。ジョーよりも目の前の彼女たちよりもいいものを。
というかジョーからお金が貰えていないのにこうやって生きている時点で他から金銭なり食べ物なり得ていると思わないのだろうか。本当に草でも食べていると思っているのか。
エリーゼはアクセサリーショップのオーナーなのだ。昔拾ったデザイナーの才能が開花し、今では帝都で1、2を争う程の店に成長している。
それだけではない。実家からエリーゼの口座にジョーの支援金の10倍の金額が毎月振り込まれる。不要だと言ってもあって困るものではないからと今なお続けられている。
なのでかなりのお金持ちなのだ。
貧乏育ちのジョーからすると支援金はかなりの大金のようだが、公爵家にとっては微々たるものでエリーゼの子供時代のお小遣い並み。それでも愛人を囲う余裕はあるようだが一人あたりに使われるお金など少し。
ああ、そういえばあれは面白かった。
最初の支援金は娘をよろしくという意味でそれなりの金額がジョーの手元に渡った。ある時それを愛人用の家を建てるのに使うと宣言してきた。
ご自由にと思ったものの、ちょっとどんな家を建てるのか興味はあった。
金額から考えればちょっとした家は建てられるはず。貴族は愛人用の家という建物にそんなに金をかけない。あくまで家と関わりなき外のこと、そこに見栄は要らない。
とはいえあまりにも見窄らしくても体裁というものがある。伝手を使いお安くしてもらったりと工夫するのだ。結果中身はすかすか表面上は立派な建物ができることが多い。
出来上がった建物を目にしたとき、はしたなくも口があんぐりとあいてしまった――
いや、ちっちゃくね?
――あまりにもしょぼくて。
普通に平民用の家だ。しかも、ちょっとボロボロ気味の。貴族が建てた建物とは到底思えない。
じいやのピッキング術により中に入る。
キッチンやお手洗い、浴室といった諸々の生活設備はあるのだがそれ以外の部屋は一つ。寝室のみ。玄関を開けて大きめのベッドがドン。あとは小さいテーブルがお飾り程度にあるぐらい。
ベッドもテーブルも部屋に似つかわしくない豪華なものできっと高価なものだとは思う。しかし毒々しいその赤いベッドは華美なだけで優雅さもへったくれもない。
これはジョーのチョイスだろうか。建物ができる前に注文したのか、後からしたのか。どちらにしてもセンスがない。
それにしても……あれだけの金額をかけ、このこじんまりとした建物。
愛人用の家を建てると鼻の穴を膨らませて声高らかに宣言していたのに。愛人もドン引きなのでは?
これは
――――ぼったくられたよう。
伝手も人脈もない、相場もわからなかったのだろう。設計士の言われるがままにうんうんと言っていたに違いない。
ぶっ!……っふふ、ふふふふふっ……ぶっ…
じいやがはしたないと言わんばかりに睨みつけてくるが彼も口元が震えている。
いや、仕方なくない?面白すぎでしょ。
というよりもダサすぎる。
「……っ」
あっぶな……思い出し笑いするところだった。
ちらりと婦人たちを見るが気づいていないよう。
持っていた扇子をすっと持ち上げ開き、口元を隠す。
僅かに目を細め、彼女たちをじっと見据える。
もうお終い?違うでしょう?
まだあるはず。もっと、もっとその毒を吐き出しなさい。
それがジョーを叩き落とす地獄への架け橋になるのだから。
そんな安そうなサファイアを自慢するヤハ夫人に、愛する女性にそんな安物をプレゼントしたジョーに、正気かと衝撃を受けていたからだ。
透明度は低くカットも雑な明らかな安物。わかっていながらも自慢しているのか、見る目がなくてぼったくられたのか……色々と心配である。
エリーゼは衝撃を受けているが、決して安いものではない。しかしエリーゼが身につけてきたもの、プレゼントされてきたものが規格外なだけ。
それだけエリーゼの周りは最高級のもので溢れ、当たり前のものであった。
「エリーゼ様はこのようなものを食べるのは久しぶりでございましょう?たくさんお召し上がりくださいね」
先程のふくよか夫人が目の前の茶菓子を勝ち誇ったように薦めてくる。ヤハ夫人の勝利(勘違い)にその折れかけた心は復活し、勢いづいたよう。
「お心遣いありがとうございます。ですが、私そんなにたくさん食べられませんわ。食欲旺盛なあなたがお食べになられたら宜しいかと」
「なっ!」
あら、思わず本音が。
ふくよか夫人は金魚のように口をパクパクと開閉させている。これは何かお口に入れてあげた方が良いのかしら……なんちゃって。
この夫人は先程から食べ物のことばかり、よっぽど食べることが好きなのだろう。健康的で良いことだ。
彼女たちは無一文無一文と嘲りたいようだが、普通に食事もすれば茶菓子も食べている。ジョーよりも目の前の彼女たちよりもいいものを。
というかジョーからお金が貰えていないのにこうやって生きている時点で他から金銭なり食べ物なり得ていると思わないのだろうか。本当に草でも食べていると思っているのか。
エリーゼはアクセサリーショップのオーナーなのだ。昔拾ったデザイナーの才能が開花し、今では帝都で1、2を争う程の店に成長している。
それだけではない。実家からエリーゼの口座にジョーの支援金の10倍の金額が毎月振り込まれる。不要だと言ってもあって困るものではないからと今なお続けられている。
なのでかなりのお金持ちなのだ。
貧乏育ちのジョーからすると支援金はかなりの大金のようだが、公爵家にとっては微々たるものでエリーゼの子供時代のお小遣い並み。それでも愛人を囲う余裕はあるようだが一人あたりに使われるお金など少し。
ああ、そういえばあれは面白かった。
最初の支援金は娘をよろしくという意味でそれなりの金額がジョーの手元に渡った。ある時それを愛人用の家を建てるのに使うと宣言してきた。
ご自由にと思ったものの、ちょっとどんな家を建てるのか興味はあった。
金額から考えればちょっとした家は建てられるはず。貴族は愛人用の家という建物にそんなに金をかけない。あくまで家と関わりなき外のこと、そこに見栄は要らない。
とはいえあまりにも見窄らしくても体裁というものがある。伝手を使いお安くしてもらったりと工夫するのだ。結果中身はすかすか表面上は立派な建物ができることが多い。
出来上がった建物を目にしたとき、はしたなくも口があんぐりとあいてしまった――
いや、ちっちゃくね?
――あまりにもしょぼくて。
普通に平民用の家だ。しかも、ちょっとボロボロ気味の。貴族が建てた建物とは到底思えない。
じいやのピッキング術により中に入る。
キッチンやお手洗い、浴室といった諸々の生活設備はあるのだがそれ以外の部屋は一つ。寝室のみ。玄関を開けて大きめのベッドがドン。あとは小さいテーブルがお飾り程度にあるぐらい。
ベッドもテーブルも部屋に似つかわしくない豪華なものできっと高価なものだとは思う。しかし毒々しいその赤いベッドは華美なだけで優雅さもへったくれもない。
これはジョーのチョイスだろうか。建物ができる前に注文したのか、後からしたのか。どちらにしてもセンスがない。
それにしても……あれだけの金額をかけ、このこじんまりとした建物。
愛人用の家を建てると鼻の穴を膨らませて声高らかに宣言していたのに。愛人もドン引きなのでは?
これは
――――ぼったくられたよう。
伝手も人脈もない、相場もわからなかったのだろう。設計士の言われるがままにうんうんと言っていたに違いない。
ぶっ!……っふふ、ふふふふふっ……ぶっ…
じいやがはしたないと言わんばかりに睨みつけてくるが彼も口元が震えている。
いや、仕方なくない?面白すぎでしょ。
というよりもダサすぎる。
「……っ」
あっぶな……思い出し笑いするところだった。
ちらりと婦人たちを見るが気づいていないよう。
持っていた扇子をすっと持ち上げ開き、口元を隠す。
僅かに目を細め、彼女たちをじっと見据える。
もうお終い?違うでしょう?
まだあるはず。もっと、もっとその毒を吐き出しなさい。
それがジョーを叩き落とす地獄への架け橋になるのだから。
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