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20.加速する思い込み
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「なんでなんだ!」
ジョーは男爵邸の自室で叫んだ。
遊び相手だった男爵夫人たちから二度と会わないと手紙が届いたのだ。しかも一気に2人から。
「お手紙が届いております」
またか!
侍女から手紙をひったくり目を通す。すべて読み終え、破ることこれで3回目。
『ちょっと物珍しいから遊んでやっただけなのに、勘違いすんな!自分の顔と身体を鏡で見てみろ!キモいんじゃボケ』
全てこのような内容だった。
キモい……キモい……?悪夢が蘇る。昔社交界で向けられてきた視線、言葉。男も女も自分を見てはこそこそと何か言い合い、クスクスと忍び笑いをしていた。
当時は怖かったがあんなものは言うやつの性格がクソなんだと思うことにしたのだ。人の見た目をどうのこうのと高らかに言うやつらの方がおかしいに決まっている。
実際自分はキモくなんてなかった。だって今たくさんの女性が自分に夢中になっているではないか。女性とはシビアな生き物だ。キモい相手に身を任せる女性なんていないはず。
でも、そんな彼女たちがキモいと言うなんて自分はやっぱり……
いや、違う。思考を振り払うかのように慌てて頭をブンブンと横に振る。もしかしたら昔自分はキモかったのかもしれない。暗くて引きこもりで、兄がちょっと顔が良かったから比較されてそう思われやすかったかもしれない。
でも今は違う。きっと前向きに考えられるようになりそれがこう何やら人を引きつける魅力になったに違いない。男たるもの堂々とし自分が一番強いイケてると思えば周りもそう思うものだ。
うんうん、と自分自身に頷く。
なぜかポジティブ思考のジョー。確かに明るくなったのも自信がついたのも良いかもしれない。しかし同時に傲慢で乱暴で自分よがりになってしまった。見た目も乱れた生活により以前よりも横に広がり、肌荒れも酷い。しかも髪の毛も少なくなってきている。
ほんの少しの良い面が出てきた一方で大きく悪い方に変わってしまったことに彼自身は気付かない。
すっと足を上げると床に破り捨てた手紙を踏みつける。
ダンッダンッ!ダンッダンッ!ダンッダンッ!
何度も何度も思いっきり踏みつけて、心が落ち着いたジョーは椅子にドカッと腰掛けふーっと息を吐く。
何があったかわからないが彼女たちは自分と違って悪い方に変わってしまったようだ。高慢ちきで顔が良いことを鼻にかけるようなクソ野郎たちと同じ人種に。
「これだから頭の悪い女はダメなんだっ!女はマリベラのように賢くないとなっ!」
彼は1人にたあと気味悪く笑う。
マリベラ――美しい侯爵家のご令嬢。少々エリーゼに美貌は劣るが、それ以外は頭の良さも、自分を思う心も彼女の完勝だ。
「むふっ……ぶっ……」
この前2人でエリーゼをやりこめたのは良かった。彼女にねだられて家に連れてきたのだが、家に呼ぶのがタブー?それがなんだ。この家は自分のものでそこに愛する女を連れ込んで何が悪い。
男なら一つや二つタブーを犯すものだ。そちらのほうがこうなんかかっこいいではないか。
公爵家出身だからとちやほやされていい気になっているあの女も現実を突きつけられて身の程を知っただろう。所詮血筋と顔だけの女、あいつの周りには今誰もいないのに自分の周りには男も女もたくさんいる。
本当に魅力のあるものは血筋など見た目など関係ないのだ。
ふんっと鼻から息を吐く。
ああ、いい気分になってきた。
そうだ、マリベラだけではない。娼館に行けば甘い声で我先にと争うように近寄って来る女たち。自分に夢中な女はたくさんいるのだからあの3人などどうでも良いではないか。その辺の男爵家の夫人などその辺の石ころと同じだ。
考えることが馬鹿らしくなってきたジョーはワインボトルに直接口をつけ、たらたらと溢しながらがぶ飲みをした。
~~~~~~~~~~
ジョーが改めて変な自信をつけていると思わぬエリーゼは停車中の馬車の中にいた。
馬車の窓から遠方に見える建物をぼーっと見つめるエリーゼ。
久しぶりに見るが相変わらず遠目にも迫力のある建物である。
白く華やかな印象を与える公爵邸とは違い、ダークな落ち着きのある色合いの建物は壮麗で見るものを圧倒する。
「どうぞお通りください」
その声の後に走り出す馬車。広大な敷地を暫く走った馬車は先程の建物の前で停まる。
馬車から降りるとずらりと並んでいる人人人。
「いらっしゃいませ」
一糸乱れず皆同じように頭を下げる様にここの教育がいかに厳しいか想像できる。
「いらっしゃいませエリーゼ様」
彼らより一歩前に立っていたマダムがエリーゼに近寄る。背筋をピンと伸ばし髪の毛を一つにまとめ黒色のドレスを身に纏う女性はとても威圧感を与える。しかし、その顔はエリーゼの母親と同世代でありながら見る者に美しいと言わせる顔立ちだ。
まあ自分の母親も美しいが内に腹黒さを秘めた見た目きらきら優しげおばさんだ。怒ると超怖い。
「お久しぶりですわ。隣国でのお仕事お疲れ様でございました」
「エリーゼ様の美しいお顔を見たら疲れなどなくなりましたわ」
2人は視線を交わすと軽く抱きしめ合った後身体を離す。
「来訪の許可を頂きありがとうございます」
「許可などとおやめくださいエリーゼ様。あなた様ならいつでも歓迎ですわ」
頭を下げるエリーゼを慌てて止めるマダム。
「さあ、どうぞこちらへ。隣国で最近若いものの間で流行っているというケーキを用意したのです。私はそういったものに疎いものですから娘のおすすめですの。お口に合うと良いのですが」
「まあ、楽しみですわ」
他愛ない話をしながら2人はゆっくりと足を動かし始めた。
ジョーは男爵邸の自室で叫んだ。
遊び相手だった男爵夫人たちから二度と会わないと手紙が届いたのだ。しかも一気に2人から。
「お手紙が届いております」
またか!
侍女から手紙をひったくり目を通す。すべて読み終え、破ることこれで3回目。
『ちょっと物珍しいから遊んでやっただけなのに、勘違いすんな!自分の顔と身体を鏡で見てみろ!キモいんじゃボケ』
全てこのような内容だった。
キモい……キモい……?悪夢が蘇る。昔社交界で向けられてきた視線、言葉。男も女も自分を見てはこそこそと何か言い合い、クスクスと忍び笑いをしていた。
当時は怖かったがあんなものは言うやつの性格がクソなんだと思うことにしたのだ。人の見た目をどうのこうのと高らかに言うやつらの方がおかしいに決まっている。
実際自分はキモくなんてなかった。だって今たくさんの女性が自分に夢中になっているではないか。女性とはシビアな生き物だ。キモい相手に身を任せる女性なんていないはず。
でも、そんな彼女たちがキモいと言うなんて自分はやっぱり……
いや、違う。思考を振り払うかのように慌てて頭をブンブンと横に振る。もしかしたら昔自分はキモかったのかもしれない。暗くて引きこもりで、兄がちょっと顔が良かったから比較されてそう思われやすかったかもしれない。
でも今は違う。きっと前向きに考えられるようになりそれがこう何やら人を引きつける魅力になったに違いない。男たるもの堂々とし自分が一番強いイケてると思えば周りもそう思うものだ。
うんうん、と自分自身に頷く。
なぜかポジティブ思考のジョー。確かに明るくなったのも自信がついたのも良いかもしれない。しかし同時に傲慢で乱暴で自分よがりになってしまった。見た目も乱れた生活により以前よりも横に広がり、肌荒れも酷い。しかも髪の毛も少なくなってきている。
ほんの少しの良い面が出てきた一方で大きく悪い方に変わってしまったことに彼自身は気付かない。
すっと足を上げると床に破り捨てた手紙を踏みつける。
ダンッダンッ!ダンッダンッ!ダンッダンッ!
何度も何度も思いっきり踏みつけて、心が落ち着いたジョーは椅子にドカッと腰掛けふーっと息を吐く。
何があったかわからないが彼女たちは自分と違って悪い方に変わってしまったようだ。高慢ちきで顔が良いことを鼻にかけるようなクソ野郎たちと同じ人種に。
「これだから頭の悪い女はダメなんだっ!女はマリベラのように賢くないとなっ!」
彼は1人にたあと気味悪く笑う。
マリベラ――美しい侯爵家のご令嬢。少々エリーゼに美貌は劣るが、それ以外は頭の良さも、自分を思う心も彼女の完勝だ。
「むふっ……ぶっ……」
この前2人でエリーゼをやりこめたのは良かった。彼女にねだられて家に連れてきたのだが、家に呼ぶのがタブー?それがなんだ。この家は自分のものでそこに愛する女を連れ込んで何が悪い。
男なら一つや二つタブーを犯すものだ。そちらのほうがこうなんかかっこいいではないか。
公爵家出身だからとちやほやされていい気になっているあの女も現実を突きつけられて身の程を知っただろう。所詮血筋と顔だけの女、あいつの周りには今誰もいないのに自分の周りには男も女もたくさんいる。
本当に魅力のあるものは血筋など見た目など関係ないのだ。
ふんっと鼻から息を吐く。
ああ、いい気分になってきた。
そうだ、マリベラだけではない。娼館に行けば甘い声で我先にと争うように近寄って来る女たち。自分に夢中な女はたくさんいるのだからあの3人などどうでも良いではないか。その辺の男爵家の夫人などその辺の石ころと同じだ。
考えることが馬鹿らしくなってきたジョーはワインボトルに直接口をつけ、たらたらと溢しながらがぶ飲みをした。
~~~~~~~~~~
ジョーが改めて変な自信をつけていると思わぬエリーゼは停車中の馬車の中にいた。
馬車の窓から遠方に見える建物をぼーっと見つめるエリーゼ。
久しぶりに見るが相変わらず遠目にも迫力のある建物である。
白く華やかな印象を与える公爵邸とは違い、ダークな落ち着きのある色合いの建物は壮麗で見るものを圧倒する。
「どうぞお通りください」
その声の後に走り出す馬車。広大な敷地を暫く走った馬車は先程の建物の前で停まる。
馬車から降りるとずらりと並んでいる人人人。
「いらっしゃいませ」
一糸乱れず皆同じように頭を下げる様にここの教育がいかに厳しいか想像できる。
「いらっしゃいませエリーゼ様」
彼らより一歩前に立っていたマダムがエリーゼに近寄る。背筋をピンと伸ばし髪の毛を一つにまとめ黒色のドレスを身に纏う女性はとても威圧感を与える。しかし、その顔はエリーゼの母親と同世代でありながら見る者に美しいと言わせる顔立ちだ。
まあ自分の母親も美しいが内に腹黒さを秘めた見た目きらきら優しげおばさんだ。怒ると超怖い。
「お久しぶりですわ。隣国でのお仕事お疲れ様でございました」
「エリーゼ様の美しいお顔を見たら疲れなどなくなりましたわ」
2人は視線を交わすと軽く抱きしめ合った後身体を離す。
「来訪の許可を頂きありがとうございます」
「許可などとおやめくださいエリーゼ様。あなた様ならいつでも歓迎ですわ」
頭を下げるエリーゼを慌てて止めるマダム。
「さあ、どうぞこちらへ。隣国で最近若いものの間で流行っているというケーキを用意したのです。私はそういったものに疎いものですから娘のおすすめですの。お口に合うと良いのですが」
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